エピローグ ゲーム

拝啓。


藤花の候、皆様におかれましてはどの様にお過ごしでしょうか?


僕達はゴールデンウィークの連休に入り、はじめてミツバと二人で旅行に行く為の準備をしていました。


そして、そのタイミングでタツミから着信が来て通話をしている最中です。


『なるほど?じゃあ無事にミツバちゃんとは再びくっ付けたってワケだな?』


「二人にも迷惑をかけて本当に申し訳なかった…アイさんにも謝っておいてよ。」


『まぁ、それは構わないけどその後職質されたんだろ?

ミツバちゃんの身分証とかどうしたん?』


「それは僕もヤバいと思ってどうにか誤魔化していたら…。」















~~~~~~~~~~~~~~~


「え?身分証もスマホも持ってないの?」


「申し訳ない…スズメに…彼に早く会いたくてこの身一つで駆け出してしまったんだ。」


「まぁ、いいや…住所と連絡先を教えて貰って良いかい?

一応、ご両親の連絡先も。」


「え?あ、ああ…。」


「えーと…あのーこの前も言ったんですけど、僕らどちらも成人なんですよ。

だからわざわざ両親に言わなくても…。」


「うーん…でもなぁ…。」


まずい…こんな風にはぐらかしてる状態、この前の『密着!警察日誌!』的な番組で見たぞ…。

何も怪しいことしてないのに警察にとって怪しく写ってくるヤツ…。

でも、ミツバが日本に国籍がないのは事実だし…警察にバレるのはタツミ達にバレるのとはワケが違う…。


「別に君たちを疑ってるワケじゃ無いんだから身分をハッキリさせて貰えれば良いんだよ。」


「あ、居た居たぁ~。

おぉ~いミツバぁ~。」


僕達があたふたしていたら甲高い女性の声、振り向くと細身の長身で『八幡養蜂場』と書いてあるエプロンを着けた40~50代位の女性が気怠げにミツバの名前を呼びながら近付いてきて…。


「探したょ~、スマホ忘れちゃダメだっていってるじゃ~ん。」


「えーと…あなたは?」


「あ、お巡りさんごめんなさ~いウチの娘がご迷惑をおかけしましたぁ~。

ワタシ、そこの養蜂場を主人と一緒に経営しております『八幡ミツホ』って言いますぅ~。

コレ、ワタシの身分証とウチの名刺ぃ~ウチの蜂蜜よろしくねぇ。」


「あ、コレはどうも丁寧に…。」


突然現れたミツバの母を名乗る女性が警察と話をし始め、ある程度話すと警察も納得したのか笑顔で女性と僕達に一礼して去っていったんだ。


「ミツバ…彼女、だれ?」


「恐らくだけど…。」


「やぁ〜スズメ、さっきぶりぃ〜。

アナタ…ミツバって名前つけられたんだよねぇ〜何日かぶりぃ〜。」


「母さん、久しぶりだね。」


本当に(ミツバの)お母さんだった…。


「そうそう、これからアナタは人として生きていくんでしょ〜?

日本では身分ってものが必要だからぁ〜、用意したよぉ〜保険証ぅ〜。

アナタは私と八幡のタイショーさんの子供って扱いになってるからぁ、そこの所よろしくぅ〜。

その他に人として困ったら八幡のタイショーさんに連絡してぇ〜。」


「突然どうやって保険証を…?偽造…?

つか、本当にお母さん…?さっき会った時は小さな子供だったような…。」


「ふふ〜ん…ワタシの能力ちから、意外と万能なのでぇ〜。

子供一人、最初から人として居た扱いするのも人間の大人の体に変化するのも出来るんだよねぇ〜。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「って感じでお母さんに助けられた。」


『…思った以上に化け物なんじゃねーの?

ミツバちゃんママ…。』


「まぁね…。」


ピンポーン。


「あ、ごめん誰か来たみたいだからまた。

タツミも彼女と旅行でしょ?気をつけなよ。」


『ホイホーイ。』


タツミは淡白に通話を切った。

どうやらあの花見での出来事は僕達と彼らの秘密にしてくれるらしい。

彼の事は割とチャラい男と思っているけど、約束は守ってくれる義理堅いチャラ男だ…そこは安心できる。


ピンポーン


もう一度インターホンが鳴る。

「ハイハイ…。」と聞こえもしない返事をしながらエントランスとの通話を繋ぐと。


『よっ!』


数秒前まで通話をしていた親友チャラ男が彼女のアイさんを連れて立っていた。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「やあタツミ、アイ、いらっしゃい。」


「こ…こんにちはミツバさん。」


「あれぇ?今日は俺やアイのこと口説いてくれないの?」


「フフ…素敵な二人の関係を壊すような真似はしないよ。

それに…(私の愛しい人の膨れた顔は見たくないからね…)。」


「聞こえてるぞ、チャラ男とチャラミツバチ。

つか、自分たちの旅行はどうしたんだよ?」


「行くついでに寄ったんだ。

改めて付き合っておめでとうってのと、多分必要になるモンを餞別として渡しにな!」


そう言うとタツミは僕の手に小さな箱を握らせる。


「あ…ああ、ありがとう。」


「どーせ用意してないと思ってな!楽しい大人用ゴム風船〜!」


「…。」


取り敢えずこのチャラ男の腹に渾身のボディアッパーを叩き込む。


「イッテェ!お前のボディ、身長差で股間殴られそうで怖ぇんだよ!

つか、男女二人で旅行行くのに持たねぇ方が失礼だろ!」


「うるせぇロリコンチャラ男!

さっさと旅行にでも刑務所にでも行きやがれ!

ほらぁ、そんな事言うから後ろのアイさんも顔赤くしてるし!」


「うぅ…親友が冷たい…。」


「ご…ごめんね…熊野くん、私ならだ…大丈夫…!

それに…たっちゃん、凄く熊野くんとミツバさんの事を心配していたんだよ…。」


「ああ、タツミ達やツバメは私の現実味のない話をバカにしないでいてくれた、ツバメは本当に良い友を持ったよ…。」


タツミにチョークスリーパーをかけようとする僕を女性二人が嗜める。


「う…なんか僕が悪者っぽくなってる…。

…分かったよ、はともかく感謝してるよ。」


「おう!分かりゃ良い!

じゃあ俺たちはこれだけだから、温泉だっけ?土産楽しみにしてるぜ!」


「ハイハイ、行ってらっしゃい。

お土産はお前も買ってこいよ。」


「おう、じゃあなぁ。

…そういや、お前の元カノ達の世話はどうするん?」


僕達に背を向けたタツミは1秒で振り返り聞いてくる…さっさと行けよ。


「元カノ言うな、大事な花だよ…近くの花屋のヨーコさんが見てくれるって。

信頼できる人だし、どうせ暇だからって。」


「あぁ、あのオバチャンか…。

(多分あのオバチャンも「自分のせいでケンカさせた。」みたいな気持ちなんだろうなぁ。)

アテがあるなら良いんじゃね?

今度こそじゃあなぁ。」


アイさんは一礼して、タツミはニヤニヤ顔で手を振りながら扉を閉めた。


「おーう、このまま5年位帰ってくるな。」


「そんな事したら子スズメちゃん寂しくて泣いちゃうだろ?いや、もう彼女ミツバちゃんが居るから大丈夫か。」と扉の外で笑い声が聞こえた。




「…僕達もそろそろ行こうか。」


「そうだね…スズメ、私はもう君を寂しくさせないよ。

これからは君という花だけを見て幸せにする、約束するよ。」


急に真面目な顔をして…やっぱり罪悪感を感じてるのかな…。


「ありがとう、でも僕は花じゃないしその言葉は言うんなら僕の口から言いたかったな。

それに…は…。」


「フフ…そうだったね、…だ。」


僕達の目線の先には玄関に置かれた一鉢の黄色い風信子ヒヤシンスが揺れていた。

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