Endress Summer ~終わらない夏~ 番外編 序曲

樹木緑

Endress Summer ~終わらない夏~ 番外編 序曲

目覚めて記憶を取り戻した矢野君は、

同時にαとしての機能も取り戻した。


今では完全に僕の匂いが分かるようだ。


もちろん矢野君の匂いも戻った。


沖縄で微かに香っていた矢野君のαとしての匂いを、

再確認する形となった。


僕の判断は間違っていなかった。

あれは矢野君のαとしての匂いだった。


そして矢野君は、ヒートの時と言わず、

これまでを取り戻すかのように、

αとして毎日、僕を求めた。


「はっ…… んっ…… 矢野君……」


「陽向…… 手……」


矢野君の手が僕の腕に絡みついてきた。


「えっ…… 手……?


はぅっ……あっ…… ん…… そこ……」


「陽向…… お前の腕が……」


そう言って顔の上にクロスした僕の腕を払いのけた。


「あっ…… 矢野君、ダメ…… ぼ……僕……もう……」


そう声を漏らすと、矢野君は自分もと言って、

僕達は同時に果てた。


αの射精は長い。


特にヒートの時になると数分は続く。


矢野君は僕の項にキスをしながら、


「これくらいマーキングしておけば大丈夫か?!」


そう言ってベッドから滑り降りた。


矢野君は頻繁にマーキングだと言って僕に彼の匂いを植え付ける。


「僕さ、既に矢野君の番なんだから、

マーキングしなくても、

誰も僕に興味を示さないよ?


僕のΩとしての匂いも、

もう矢野君にだけしか分かんないんだからさ~」


そう言ってシーツを撒いてベッドから降りて

バスルームへ歩いて行くと、

矢野君はそんな僕の腰を掴んで引き寄せると、


「つい最近、

番のいるΩがαに襲われたってニュースで言ってたじゃないか!


番が居ようが居まいが、

レイプする奴にはそんな事は関係無いんだ!


マーキングは種のヒエラルキーを示す一番いい防御法だ!」


そう言って僕の顔に近づいてきた。


「ちょっと、もうやめてよ~」


そう言って手を顔の前に持ってきて

ブロックしたような素振りをすると、


「そう言えば、お前な~

いい加減、いく時は位は顔くらい晒せよ!」


そう言って矢野君は僕の頬を抓った。


「え〜 だって恥ずかしいじゃない!」


「何だよ恥ずかしいって!


結婚してもうずいぶん経つだろ?


毎日のようにやってるのに、

お前、初めての時を忘れたのか?!


あの時は、あれだけ大胆に隠しもせずに、

裸で仁王立ちまでしておいて、

恥ずかしいとは、どの口が言ってるんだ!」


そう言って矢野君は僕の唇を摘んだ後優しくキスをした。


僕は歯ブラシに歯磨き粉を付けると、

それを矢野君に向けて差し、


「今とは状況が全然違ったじゃない〜


だってさ〜ホラ、僕って清廉潔白だったじゃない?


それでも耳年増のやりたい盛りのティーンだったからさ、

知識だけは詰め込んでさ~


僕だって、男の子だし~

初めての時って好奇心が勝っててさ〜


もう、実践したくて、したくて……


我を忘れていたけど、


今ではさ~、もうちょっと情緒があるわけよ?

矢野君の事好きだ〜って思ったら

恥ずかしくって顔が見れないよ〜


ね? 矢野君的には良い事でしょ?」


そうお茶らけながら言うと、


「全く、中高生の処女でもあるまいし……」


そう言って矢野君は僕の差し出した腕を押し戻した。


「でもさ~、そう言う矢野君だってさ〜


僕と初めての時はどうなの?


ちゃっちゃと軽~くやれると思ってたのに、

凄~く痛かったよ?


その時に比べると、ほんと、上手になったよね〜


やっぱり僕の指導が良かったのかな?!」


でも矢野君の負けずに、


「は? 何だよ指導って……


お前の何処にそんな要素があったんだよ?

もう、ほんと、耳年増のおばさんよろしく、

間違った情報しか持ってなかったじゃないか!



それに俺はな、別にやりたくは無かったけど、

あの時はお前の好奇心に合わせてやってただけなんだよ!


そんな邪な思いの奴にはあれで十分なんだよ!」


そう言って僕にタオルを投げつけた。


僕は矢野君が投げつけたタオルを拾うと、


「フッフッフ〜 

そんな事言って、

後は矢野君もノリノリだったくせに〜」


そう言って、拾ったタオルを矢野君の胸に押し付けた。


「でもさ、これだけやってるのに

何で赤ちゃん出来ないんだろう……


ヒートの時でも何度もやってるのに……


僕って不妊なのかな……」


僕はヒート時に避妊無しでやると、

直ぐに妊娠してしまうものだと思っていた。


「心配するな。


まだ俺たちは若いからもしもの時は手の打ちようはあるさ。


そんなに心配だったら産科を訪ねてみるか?」


「う〜ん、大丈夫!


僕達未だ学生だし、

避妊こそしてないけど、

今はまだ授かれたら〜みたいな気持ちだから」


そう言うと、

矢野君は優しく微笑んで僕の頬にキスをした。


「ほら、急がないと、

学校に遅れるぞ。


グループでの卒業課題があるんだろ?」


「それはそうなんだけどさ〜


うううう……矢野君と離れたくない〜」


そう言って僕は矢野君にしがみついた。


「お前って出会った時から全然変わってないよな。


俺だってお前の傍にいつでもいたいよ?


でもそう言うわけいもいかないだろ?

ほら、準備するぞ。


チョーカーも忘れるんじゃ無いぞ。


お前の此処に触れれるのは俺だけだからな。


それにこの痕も俺だけのものだ」


そう言って矢野君が僕の項を撫でた。


キッチンに戻って朝食の準備をすると、


「あ〜 ごめん〜

今日もトーストだけになっちゃったね〜」


と、何時ものようにトーストだけになってしまった。


僕の本心としては日本人妻のように、

朝は旦那様よりも早く起きて、

味噌汁を作ってって夢を持ってたのに、

矢野君が毎朝、毎朝襲ってくるので、

それどころじゃない。


でも彼も、あまり気にしていないみたいだ。


「良いよ、良いよ、そんな期待してないし!


ちゃんと鍵は持ったのか?


財布に携帯は?」


ちょっと過保護な所はある。


「ちょっと、ちょっと〜


そんなに心配しなくても、

子供じゃないんだから!


ほら、早くしないと本当に遅れちゃう!」


僕はトーストを咥えると、

ドアに鍵をかけた。


矢野君もトーストを手にすると、


「まあ、お前の正体、破れたりだからな。


まったく、何が年長さんでしっかり者だよ!


本当、院でも凄く人気者だったよな。

誰だったっけ? 淳也君? 

まさか、お前が子供達からあんなに慕われてるなんてな!


それも違った意味で……」


そう言うと、矢野君は僕をチラッとみてブハッと笑った。


「も〜 年長さんの話はいいから、

駅まで走ろうよ!」


そう言って矢野君の手を取った瞬間、


「スミマセ〜ン、

駅ハ、ドチラデスカ〜?」


と後ろから変なイントネーションの日本語が聞こえて来た。


後ろを振り向くと、

金髪碧眼の可愛らしい子が焦ったようにして、

僕達に声をかけて来た。


「あう……、あう……


英語、ワカリマセ〜ン」


と僕も何故か焦って言うと、


「バカ、ちゃんと日本語話してるだろ!」


矢野君にそう言われて、

彼女を見つめると、

とても可愛らしくニコッと微笑んで、


「僕、日本語ワカリマ〜ス!」


と話しかけて来たので、


「え? 僕? 


男の子? 君、男の子なの?!」


とビックリして訪ねた。


彼はまたニッコリ微笑むと、


「ハイ〜 僕、男ノ子デス〜


チャント、チンチンアリマスヨ〜


見マスカ〜」


と来たので、度肝を抜かれた。


「ちょっと、ちょっと、

そんな公衆面前でダメだよ!


逮捕されちゃうよ?」


そう話していると、

横で矢野君が、


「何だかこいつ、誰かさんにソックリだな」


とボソッと言ったので、

僕はカッと矢野君の方を向いた。


「もしかしてそれって、

僕の事?!」


アタフタとして尋ねると、矢野君は僕を見下ろして、


「外国人バージョンのお前みたいだな」


そう言って腕を組んでプフフと笑っていた。


矢野君のお腹に肘で突きを入れると、


「君、駅に行きたいんでしょ?


僕達も丁度駅に向かっている所なんだよ。


一緒に来る?」


そう言って誘うと、

彼は丁寧に


「アリガトー、ゴザイマシタ〜」


とお礼を言った。


僕たちは歩きながら、

自己紹介を始めた。


「僕は矢野陽向。22歳だよ。


君、日本語上手だね。

どこから来たの?」


と尋ねた。


「僕ハ〜

アメリカノ、ボストンカラ来マシタ〜


サミュエル・ディキンズ、言いマス〜


サムッテ呼んでクダサイ〜


今、28歳デス〜」


と来たのでビックリした。


「え〜 年上?!


僕、中学生か高校生位かと思ったよ!」


「僕、若ク見エマスネ〜


皆マチガイマス〜


アメリカデハ、チュウガクセイ、言うシマス〜」


そう言って彼が恥ずかしそうにした。


僕は驚きで開いた口が塞がらなかった。


「ソレデ〜、ソチラノ~ イケメン君ハ、

誰デスカ〜?」


と矢野君を指差して尋ねたので、


“ヤバイ! 惚れられる!”


そう思い、牽制のつもりで、


「矢野君はダメだよ!


僕の番だから!」


そう言って矢野君を隠した。


こんな可愛い子?に惚れられるなんて堪ったもんじゃない。


でもサムは、目を光らせて、


「オウ! ヒナタ、モウ番見付けルデスカ〜?!


ウラヤマシ、デス〜」


そう来たので、ちょっと得意げになった。


「えっへん、まあ、僕ほどの男になると、

番を見つけるのなんて朝飯前だよ!」


そう言うと、サムは手をパチパチと叩いて、


「スゴイ〜 ヒナタ、スゴイ〜


ジャア、モウ、ケッコーンシテルデスカ?!」


と来たので、


「勿論だよ!


ほら、僕のこの薬指を見よ!」


そう言って矢野君の左手を掴むと、

僕の左手の薬指と一緒にサムの前に差し出した。


矢野君は半分呆れたような顔をして居たけど、

僕にされるがままにしていた。


サムは僕達の指輪を見ると、


「僕、実ハ、ニホンヘワ、

ケッコーン相手ヲ、探し来マシタ〜


占いデ、アジアへ行くベシ、トデタノデ、

ダイスキナ、ニポンへ来マシタ〜


ジョウノウチニ、留学シマ〜ス!」


そう言って目をキラキラとさせた。


「へ? 城之内?


もしかして城之内大学?」


そう再確認すると、サムは


「ソウデース! 僕ハ、

ジョウノウチデ、ケッコーン相手見つけマス!」


そう言って胸の前で手を祈るような形にした。


「えー、凄い偶然だね!


実を言うと、

矢野君も城之内大学の学生で、

今から大学に行く所だったんだよ!」


「ヒナタとヒカルハ、僕ノトモダチ第一号デスネ!


誰カ良い人イタラ、紹介シテクダサ〜イ」


そう言ったところで、


「光! 陽向!」


と、向こうから佐々木君がやって来た。


「あ、佐々木君! お早う!」


そう言って挨拶を交わすと、


「今日は遅いんだな?


時間は大丈夫なのか?」


と佐々木君が声をかけたところで、

サムが持っていたバッグをドサっと落として

一瞬その場が静まり返った。


サムに気付いて無かった佐々木君が、


「何だ? この外人さん、

お前らの知り合い?」


そう尋ねた所で、サムが僕達の前にしゃしゃり出て来て、


「僕、アナタニ、一目惚れシマシタ。

ボク、サム言いマス。


ドウカ、僕ト、ケッコーンシテクダサイ!」


と言って佐々木君の前に跪いたので、

僕達は3人とも腰を抜かすほどビックリしてしまった。


でも佐々木君の恋バナはまた何時か……


――――――終ーーーーーー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Endress Summer ~終わらない夏~ 番外編 序曲 樹木緑 @happyspring

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ