第77話【お泊りまではさすがに……】
「2人とも今日はありがとう。……図々しいけど明日もお願い」
「トウマっち、マイっちおつー」
夜も程々に更け、俺と卯月も今日のところは撤収することにした。
玄関まで見送りに来てくれた赤羽根さんと柊さんに軽く手を振って挨拶。
「それじゃまた明日、昼前頃に伺うんで」
「紅葉さん、萌黄さんお疲れさまでした」
赤羽根さんは控えめに。片や柊さんは豪快に。ただどちらも変わらないのは、帰路に就く俺たちに向けてずっと手を振ってくれていた。
コレ、俺たちが見えなくなるまで続ける奴だな。
後ろ髪を引かれる思いを振り払い、俺たちは振り返ることなく赤羽根さん
雨は幾許かマシになったものの止んではおらず、夜空は星1つ見えない曇天。各々借りた傘をさしながら並んで歩く。
およそ1メートル強ほど。開いた傘の間隔分いつもより卯月との距離が遠いのが、なんだか新鮮だった。
「泊まんなくて良かったのか? 2人とも誘ってくれてただろ」
マンションを出て完全に俺と卯月だけになってから問うてみる。
時間も遅く、どうせ明日も来るんだし……と赤羽根さんは卯月に泊って行かないか? という話を持ち掛けていた。
一向に帰る素振りが見られなかった柊さんは、どうやら昨日大学が終わってから泊めてもらってるらしい。
「センパイだって遠慮したじゃないですか」
「俺は泊まる準備してきてなかったからだよ」
実は俺もお泊りに誘われていた。が、ノータイムで俺は反論を口にする。
女同士の卯月ならパジャマやら何やらと借りれるだろうが、男の俺はそうはいかない。
至極真っ当な理由を答えると、卯月は「ムムム……」と唸った。
「まだちょっと馴染めそうにないか?」
赤羽根さんも柊さんも3回生。それも成人済みだ。
そりゃ如何な卯月と言えど気後れしても仕方ない。
しかし問い掛けに卯月は、滅相もないと言わんばかりに慌てて俺の言葉を否定した。
「そ、そんなことありません! ただちょっと……申し訳なくなっちゃいまして」
「何が? ……って聞くまでもないか。俺もぶっちゃけその気持ちはある」
手伝いをしたり取材に行ったり、夕飯作ったりと色々したが、それでも今日の俺たちの自己評価はマイナス。ヘルプに呼ばれたはずなのに、もてなされた感覚の方が強い。
そんなこと
「それにあそこで私が紅葉さんの家でお泊りしちゃうと、1人寂しく帰るセンパイが可哀想ですからね」
「お前に心配されるほど落ちぶれちゃいねーよ」
心底心配している風を装いながらこちらを煽って来る後輩に、傘をさしていなければ物理的なツッコミが出るところだった。
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【蛇足】
毎回2000文字前後目指して書こうと頑張って(少なかったら2話に分ける予定だったのをくっつけてたり)たんですけど、本編がギリ1000文字越えたくらいの超短編書いたのは初めてだったりします。
むしろこれくらい短い方が読みやすかったりするのかな……。
【あとがき】
拙作をお読み頂きありがとうございます。
面白そう、続きを読んでみたいと思って頂ければ
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