第50話【朝チュンってこんなもんか】
気が付くと朝になっていた。
あれっ、いつ寝たんだっけ? 昨日の夜、ベッドに入ってからのことを思い返そうとするが、まるで切り取られたかのように記憶が抜け落ちている。
というより……そもそも何もしてなかった?
遊び疲れたせいで横になって速攻寝てしまったという事実に、遅ればせながら気づく。
泥のように寝たとは、まさにこう言ったことを言うのだろう。
予見した通り身体の節々は痛むし、ぶっちゃけまだ寝たりない。
カーテンから零れた陽光が眠気眼に刺さる。光から逃れるように視線を滑らせると、妙な景色が映る。
————俺の家に女子がいる。
朝っぱらから家主である俺以外の人間がいた。
それも
黄色のブラウスに下は踝が見えるくらい短い紺色のパンツという、これからどこかに出掛けるのか? と思わせるコーデ。
肩に掛かった亜麻色の髪を後ろに流した彼女は、正面から陽光を浴びるように胡坐を掻くと合わせた両の掌を真っすぐ頭上に伸ばす。
「スッゲェ意識高そうなことしてるなぁ」
ぼんやりと思ったことがそのまま口からつい出た。
「センパイ、おはようございます」
「んー……はよ」
俺が起きたのに気付いたようで、意識高い女子……卯月がパッと小さな笑みを割かせて朝の挨拶を交わす。
昨日は卯月だって遅寝早起きだったのに、元気だなぁ。コレが若者の活力という――――。
「う、卯月!?」
半覚醒気味だった頭に精神的衝撃が走った。余波で釣られて動いた身体が、ベッドの外へと放り投げられる。
視界が大きくブレ、捻じれ、反転する。
心配そうにこちらを覗き込む後輩の顔すら逆さまだ。
「大丈夫ですか?」
**********
家に入れなくなった卯月を泊めた。
昨夜に起きた最後の出来事を思い出したのは、卯月が入れてくれたコーヒーで一息吐いてからだった。
「遊び回って疲れた次の日によく早起きなんてできるな」
「これでも元運動部ですからね」
「俺の知らん間に後輩が体育会系になってる……」
「いや、センパイに勉強教えてもらってる時から続けてますよ!」
とは言われても俺は卯月の部活にほぼノータッチだったし……。試合だって2年間で数えるほどしか見学しに行ったことがない。
「でもセンパイだってベッドに入った途端に寝ちゃうくらい疲れてたのに、早起きできてますね」
「朝9時は早起きっていいのか迷いどころだ……」
「なんだか意識した私が馬鹿に見えるくらい、気持ちの良い寝落ちでしたよ。あ、コーヒーのお代わりありますよ」
やっぱ俺は一瞬で寝てしまったらしい。
空になったコーヒーカップを卯月に渡し、その間に朝食のホットサンドに齧り付く。
まぁ賞味期限間近のトーストに、昨日の弁当作りで余った生野菜と焼いたスクランブルエッグを力技で挟んだだけだから、喫茶みたいにこ洒落たモノじゃない。けど存外こういう見た目を気にしない大雑把な食べ物美味いんだよ
「前々から思ってたんですけど、センパイのお家って結構色々な器具ありますよね。コーヒーメーカーまであるなんて」
「全部年季の入った実家のお下がりだけどな」
定期的に調理器具を買い替えなければならない飯屋故の強みである。
新品を使えない不満がないことはないんだがな。兄姉のがあるからと新品の制服やユニフォームを買って貰えない弟妹の気持ちがわかった気がする。俺、一人っ子だけど。
「とりあえず食ったら交番だな」
「…………はい」
対面に座る卯月の返事のトーンがやや低くなる。
失くした鍵の届けられている、なんて望みが薄いのはわかっているからだろう。
「あるかどうかじゃなくて、これから見つかったら知らせてもらうために、な」
この補足も大した気休めになってないのだろう。
**********
【あとがき】
何気に拙作も話数が50話を迎えるがことができました。
あんまり人気なかったら構想してたもの全部お蔵入りにして、2章で切っちゃおうと思ってた時期もありましたが、ありがたいことに多くの方に読んでもらえたり評価やコメントも頂けて嬉しい限りです。
主人公への好感度MAXスタート系ヒロインにも関わらず、未だに付き合ってない桃真君と麻衣ちゃんですが、今後とも温かい目で見てもらえると幸いです。
拙作をお読み頂きありがとうございます。
面白そう、続きを読んでみたいと思って頂ければ
非常に励みになります!
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