第45話【烏の行水だな】
「かぽーん」
何気なく独り言のように呟いてみる。
場所は比較的最近できたばかりだという銭湯。
普通の風呂、水風呂、ジェットバス、サウナ……と、一通りの風呂が完備された大浴場に思いの外自分の声が反響した。
アニメとかドラマの入浴シーンになると流れる謎の
などと桶の音による入浴への想起性について思考を弄んでいると、背中よりやや下に衝撃が走った。身も蓋もない言い方をすればケツにお湯をブッ掛けられた。
「お待たせ、桃真」
「遅い」
「これでも結構急いだんだよ」
背後から顔を覗かせたのは掛け湯を浴びせて来た張本人である清水。
普段は色んな結び方で弄っている茶髪が解放されており、肩に掛かるほど長さを露わにしている。まさに長身痩躯と言うべきスタイルも相まって、ギリ女と見られても不思議に思わない姿だ。
俺より身長高いから、さすがに男の娘としては見れないが。
「桔平君は?」
「もう先に身体洗ってる。あの人長風呂するだろ」
首だけ動かして野村さんの場所を示すと、モコモコした泡だらけの頭をした、成人男性にしてはやや小柄な背中があった。
「俺たちもさっさと洗って風呂入るぞ」
間の抜けた返事をする清水を伴い、俺たちは野村さんの隣の洗い場に腰掛けた。
まずは曇りまくって役割を果たしていない鏡にシャワーを掛ける。どうせ直ぐにまた曇ってしまうが、そこは仕方ない。
視界の左脇にある3つのボトル残量を確認し、自分の頭にもシャワーを被ってシャンプーのボトルの頭をプッシュ。掌に溜めた黄色掛かった半透明の液体を頭へと誘うう。
もうちょっとしたら散髪行くか。
なんて思いながら髪の毛全体を満遍なく掻き、襟足、耳付近、前髪、と続けて最後に流水で流す。
「………………ん」
フェイスタオルで頭と顔を拭き終わると、視界の端で隣の清水の動きが止まっていることに気付いた。
振り向くと、俺の視線に気付いた清水と目が合った。
「こっち見て俺に何か用?」
「いや、べっつにー」
なんて言うが明から何かあるだろ。
依然俺の腹付近へと視線を注ぎ続ける清水は、いきなりクスッと小さく笑い、
「ただ桃真とお付き合い女の子は可哀そうだなぁ……って思ってさ」
「あ? どういう意味だよ?」
「時がくれば自ずと分かるものさ、チェリーボーイ君」
何様目線で言ってきてるんだろう
「ところでさ、今の内に桃真に聞いておきたいことがあるんだ」
「聞いておきたいこと?」
「誰の胸が1番大きかった?」
「……………………………………は?」
「意味通じてる? 胸、バスト、おっぱい」
「…………」
洗い場の仕切りから乗り出すまでに食い気味の清水に対して、そんな友人を一瞥する俺の感情は浴場には不釣り合いなほど冷ややかなものだった。
俺もれっきとした男だ。それも色々ヤル気が漲るお年頃。清水が言わんとすることは分かるし、その妄想を理解できなくもない。
だが――――。
「行きの道の駅までが麻衣ちゃん。公園までは梨乃ちゃん。で、
に来るまでは萌黄ちゃん。3人も女の子後ろに乗せたんだから、当然味わってるんでしょ」
「お前もか……」
それ以上に呆れの感情がデカかった。
「お前もってどういう――――」
「何でもねーよ。つかジャケット着てるのに胸の感触なんて分かるわけないだろ」
「えー……、でも漫画とかでよくあるじゃん」
「なら
大切な仲間を自身の浅ましい劣情で汚すなんて心底軽蔑するね。ちょっとコイツとの付き合い方を改めた良さそうか。
俺が清水との接し方について一考していると、清水はあっけからんと詐欺師みたいなヘラヘラを作って言った。
「じゃあ桃真は普段から薄着で部室にいる、萌黄ちゃんや梨乃ちゃんに何とも思わないだ」
「ああ、思わないね」
「偶に胸元チラチラ見てるの知ってるよ」
「…………」
「桃真、その間は何?」
「うっせ」
**********
【蛇足】
次章、次々章、何なら次々々章の構想もある程度まとまっているので、執筆&投稿頑張りまーす。
【あとがき】
拙作をお読み頂きありがとうございます。
面白そう、続きを読んでみたいと思って頂ければ
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