第41話【本命の余裕ですよ】
集合早々ジャンケン
地元民くらいしか使わない、ギリ農道判定されないくらいの下道もGWということもあってほどほどに混んでいた。
それでも進行距離的には大方予定通りなので良いだろう。
赤信号で止まったのを機に、俺は後ろに乗っている卯月へと声をかけた。
「次の交差点越えて右に曲がったところで休憩するから、野村さんたちに伝えてくれ」
「わかりましたー」
快活の良い返事と同時に先刻から俺の腹へと回されていた腕の拘束が解ける。代わりに左肩に負荷が掛けられる。
確認はしてないが、追走してる車組にジェスチャーで伝えてるのだろう。
「卯月、信号赤」
「あ、はい! すみません」
信号の色が変わり進めの許可が下ろされる。
再び卯月の腕が腹部に回され、数秒の間なくなっていた背中への圧迫感が蘇った。
安全第一を心掛けてさらにバイクを走らせること10数分。休憩地点に決めていた道の駅へと到着することができた。
俺たちが立ち寄った道の駅は、田舎にしてはほどほどに大きく一般的なサービスエリアと遜色ないほど施設も充実している。
駐輪場にバイクを停めて目の着きやすい場所で卯月と待っていると、少しして車組の6人の姿が見えた。
「皆さーん!」
俺たちの位置を伝えるべく、手を振って皆んなを呼ぶ卯月。
ほどなくして話ができるくらいの距離で8人が揃う。
「ここまでは予定通り来れましたね」
「あぁ。やっぱ高速使わなくて正解だったな。けどこの天気……バイクだと暑くないか?」
「まぁスピード出せる分風に当たれるのでマシっすね」
雲一つない青空にサンサンと照り付ける太陽を睨み付けながら、心配してくれる野村さんに笑って返す。
「とりあえずトイレ休憩込みで20分くらいここにいましょっか」
**********
トイレに行く者、物産コーナーを見物しに赴く者、はたまたすぐ近くにある簡易ドッグランへと足を延ばす者……と俺たちは思い思いの行動を始めた。
そりゃせっかくみんなで来たのに別行動かよ、なんて考えもなくはないが、小中学校の遠足よろしく一から十まで集団行動というのも幼稚に感じる。
結局ほどほどにプライベートを守りつつみんなで楽しむ、この緩い関係性が心地良いのだ。
「それにしても出店多いな……」
俺は俺で快晴の下施設の外を1人ぶらり散策。GWという観光客の掻き入れ時期故か、祭りを彷彿とさせる屋台が並んでいた。
焼きそばにフランクフルト、牛串なんかの有名どころは勿論のこと。チュロスやハットグなんかの今時の食べ物の屋台もそれなりの列を成している。
こう色々な物が売ってると、無性に何か買いたい……買わねばって気が湧いて来るなぁ。
ただ往々にして屋台は割高というもの。
処世術として俺は近くの自販機へと駆けこんだ。
「あれっ、桃真は何も買わないん?」
「藤崎さん……って、ソレ……」
ダンディなおっさんのロゴが特徴的な缶コーヒーで一息ついていると、背後から声をかけられた。声をかけてくれたのは、白のニットの上に着た春らしい浅緑色のベストが特徴的な先輩、藤崎梨乃さん。
おっとりとした動作で寄ってきた銀髪の上級生の手には、50センチ弱ほどの竹串に刺された揚げた輪切りのジャガイモたち。ソレを1枚咥え口に放り込んだ藤崎さんは、ハフッハフッ……と息を零しながら答える。
「トルネードポテト」
「いや、それは見りゃわかりますよ」
「あっちの出店で売ってた」
「そうじゃなくて……」
相変わらずマイペースな人だなぁ。
「なんで
「そこにポテトがあったから」
「んな山見た登山家みたいなこと言われても……」
即物的というか考え無しというか。気怠げな声色の癖にこうも力強く断言されると反応に困る。
「欲しいなら素直に言えば良いのに。ほれ一口れっつしぇあー」
「言ってな……って、危ない危ない! 先尖ってる物人に向けない……わかった、貰うからストップ!」
グイグイとトルネードポテトを押し付けてくる藤崎さん。さすがに先端は潰してあるだろうが竹串が危ない。
年上ということもあり大きく出れず、観念して言う事を聞くしかない。
「代わりにあーしにもカフェオレ奢ってね」
後だしで言うのズルくね?
俺がポテトを1枚口に入れてから言ったぞ。
拒否しようにも交換品のポテトは俺の口の中。同じ揚げ物であるフライドポテトとはまた違ったザクザクとした触感と、食い応えあるボリュームすら憎らしい。
「もう1口いる?」
「……貰います」
どうせ飲み物奢らされるなら、とさらに1口貰おうとしたその刹那。
「――――――――っ」
視線を感じた。
隠していたモノが見つかったような、あるいは嘘を看破された時の如き背筋が凍り緊張が走る感覚。
どこから……? と周囲を探る間もなく俺の目はプレシャーの元凶へと辿り着く。
モグモグとポテトを頬張る藤崎さんの斜め後方数メートル。そいつは満面の笑みでやってきた。
「セ・ン・パ・イ」
唐突に浮気がバレた男ってこんな心境なんだろうなぁと、脳裏を過ぎった。浮気どころか付き合ってる人もいないけど。
「麻衣ちゃんやっほー。ほい、お食べー」
「ありがとうございます、梨乃さん」
田舎のお婆ちゃんみたいなノリで藤崎さんは卯月にも食べかけのトルネードポテトを差し出す。なんで卯月には何も要求しないんですかね。
小さな口にポテトを入れた卯月はもう1度藤崎さんに礼を言うと、俺に目を合わせて来た。
「っ、と……どうした?」
「別に何もないですよ」
などと事も無げに返してくるが、謎の笑みが怖い。
怒りを繕ってるタイプの笑顔じゃないんだが、卯月の腹の内が見えない分余計に怖い。人間、理解できないモノへの恐ろしさってヤバい。
「文香さんがもうすぐ出発の時間だから、皆さんに声をかけてきて欲しいとのことです」
「わ、わかった」
「りょー」
それから俺たちも協力してメンバーをかき集め、道の駅を後にした。
**********
【蛇足】
まだまだ
(ちょっと最近多忙&反動でグロッキー状態でした)
今回のエピソードタイトル“1単語”最初に思いついたモノと変えたんですよねぇ。
初期のタイトルはちょっと卯月ちゃんが浮足立ちまくっちゃうので。
【あとがき】
拙作をお読み頂きありがとうございます。
面白そう、続きを読んでみたいと思って頂ければ
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