第32話【お金払わなくて良いんですか!?】
「この前ダメだった奴を手直したのを公募に出したところで――」
「アレ、似たようなラノベもう出てなかった?」
「あー……お酒なくなっちゃった。お代わり頼むけど、他に誰かいるー?」
「オレ、水」
「お肉はもうみんな良さそうだし、あーしバニラアイスー」
右耳から入った各々の声が脳をかき乱し、散々騒いだ末に左耳から抜けていく。
誰が何を言ったのかなどの判別はとうにできず。俺は前に座っていた柊さんから譲ってもらった席の壁に背中を預けた。
「うぅ……」
「センパイ大丈夫ですか?」
「なんと……ない……」
右隣にいる卯月から水を受け取り口に含む。
気持ち悪い。いや気持ち良いのか? 顔は火照っているようだが特に熱いとは思わないし、もう入らないほど腹は膨れてるのに満腹感が全くない。食べ放題コース頼んだけどあと何分くらい店にいれるんだ? ラストオーダーさっきしたっけ。
思考が冴えているようで様々なことが脳裏を巡る一方、そのどれもが結論に至らず頭の外へと廃棄される。
あれっ、これ思考が冴えてるって言えるのか?
「はぁ…………――――――」
天井でグルグルと休むことなく回るファンを眺めてると、デカい溜め息が出た。
うえぇ……気持ち
視界がグルンッと傾いた。
「ひゃっ!?」
頭上から驚いたような、甲高い呻き声が降って来る。
頭に響くから止めて欲しい。
「せっ、せせセンパイ……!」
「ありゃ? マイっちに膝枕おねだりとか、トウマっちお
この独特な
柊さんの声もまた何故か上から聴こえる。
いやそんなことより俺だって常識は持っている。飲食店で寝る……それも後輩の女子の膝に頭を乗せるようなアホなことするわけないだろ。
そう応えるべく俺は妙に重たい口を開いた。
「んー……」
「なんか言ってるっぽいけど完璧眠そー。ウケる、撮っとこ」
「麻衣ちゃん大丈夫? 桃真君いきなり膝に乗っちゃったぽいけど……重くない?」
「あ、はい。ちょっと驚いただけで平気です……なんですけど……」
「なんですけど……?」
卯月の言葉は1度そこで切れ、呼応するかの如く俺の頭が揺れる。
正確にいうなら俺の頭に密着している張りがあるのに、押し込めばどこまでも沈み込みそうなほど柔らかい、高品質の低反発クッションのような何かの振動に揺らされる。
おえっ……乗り物酔いと同質の不快感が脳髄と喉元へ込み上げて来た。
「センパイがこんな風に甘えてくれてることに驚いていると言いますか……あ、いえ。決して嫌という訳じゃなくてですね! むしろ幸せ過ぎて……あぁもう! 可愛い! これ頭ナデナデとかしても良いのでしょうか!?」
「ナデナデ? 良いんじゃないかな。桃真君から麻衣ちゃんの膝に乗ってきたわけだし」
「撫でちゃえ撫でちゃえ。実は僕、桃真の誕生日に一緒にお酒飲んだんだよね。あ、いや僕はまだ19だからお酒は桃真だけ。そしたら御覧の通り桃真、弱いのなんのって。変な酔い方はしないけど大体のことは受け入れてくれるよ」
清水の奴余計なことを……。
別に酒に弱いことはバラされてもいい。というかこうして飲みにいけば、遅かれ早かれ気付かれることだ。
……しかし、自分が酒が弱いと自覚しているのだから俺がペース配分考えずに飲んでないわけがないだろう。
「わっ、センパイの髪サラサラしてる」
「んー……っ」
「マジでトウマっち嫌がないじゃん。あたしらが化粧してあげようとしたら全力で逃げてたのに」
「てか全然起きんね。そだ、今のうちに流星群の日の弁当頼んどこ」
「リノっちにさんせー! トウマっちのご飯メッチャ美味くてあたし好き! えっーっと……何リクエストしよっかなぁ」
「アタシ、春巻き」
「オレのお握り中身は肉味噌にしてくれ」
「もぅ……桔平君と紅葉ちゃんまで……」
よくわからないが次々と料理が頭の中に浮かんでいく。俺、そんなに腹減ってたっけ。
駄目だ。強がっては見たがやっぱ俺、酒弱いな。
ちょっと酔ってきたかもしれん。
「センパーイ。そろそろ帰りますよー」
**********
【蛇足】
【あとがき】
拙作をお読み頂きありがとうございます。
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