第27話【なんで教えてくれなかったんですか!】


 サークル紹介を一言で表現するならば、即売会コミケというのが近いだろう。

 土曜ということで学食が営業していないだだっ広い食堂を会場とし、各サークルや同好会メンバーが、自らの設営地ブースにて新入生を始めとしたサークルに興味を持った学生たちを待つ。

 時間は午前の部と午後の部の2度に渡り、高圧的な勧誘防止のため設営地での説明は3人。設営地外での呼び込みは2人までと上限が定められている。

 

 朝の部は午前9時から12時までの3時間。

 休講日ということもあり、最初こそ来場者は少なかったが、1人……また1人とチラホラ増え始め、折り返しの頃には活気のある声と新入生たちでゴった返していた。


 特に注目を集めているのは華道、アニメ活動アニ活、韓国料理研究同好会の3強。

 各サークルメンバーたちは、それぞれ自分たちの活動を象徴するモノを用い、アピールポイントとして勧誘活動に励んでいる。その中でも壮麗な着物を纏って臨む、華道サークルの注目度は他と一線を画す。

 ユニフォームやボール、ラケットなんかでアピールできる運動部とも派手さで張り合えるのに、ほとんど私服で活動する文化部の中じゃダントツに目立っているのではなかろうか。


 追随するアニ活と韓国料理研究同好会も、中々興味を示す子たちが多いな。

 今日日アニメは陽キャ陰キャ問わず観られるし、韓国料理の女子人気は異常なほど。韓国料理と言えば映え、映えと言えば韓国料理と言っても過言ではない。


 などと、“隣の芝生は青く見える”状態だった、にも興味を示し、ブースに赴く新入生が現れた。

 白いブラウスと黒のロングスカートを纏った小柄な女子だ。

 緊張の表れか、サークル紹介で貰えるチラシなんかを入れるためと思わしき、ショルダーバッグの持ち柄を握る手に、ギュッと力を入れたのが見て取れる。

 文芸部を見つけた彼女は食堂の入り口から真っ直ぐ向かってきて、満面の笑みを向けてくれた。


「セーンーパーイー」


 なんだろう……凄く整った美人なのに、額に青筋が浮かんでいるように見えるのは、俺の目が異常をきたしているのだろうか。


「あ、卯月さん来てくれたんだね」

「清水先輩こんにちは」


 右隣で俺と同じく店番をしていた清水が、亜麻色の髪が特徴的な来訪者――卯月麻衣の対応にあたった。

 

「いやぁ……他の部に比べて地味っていうか、誰も来てくれないから暇だったんだよ。桃真が卯月さん誘ってくれてて良かった。まっ、冷やかしでも良いから座って座って」

「お2人は文芸部に入っていたのですね」

「そうそう、なんなら僕らが作ったんだ。ちなみに桃真が部長でさ――――ん?」

「……………………」


 流暢に身の上話を語る清水。が、卯月との会話の違和感に気付いたようだ。

 2つい4つの目が一斉に俺へと注がれる。


「へぇ、センパイ。部長さんだったんですかぁ?」


 肌が泡立ち、脂っこい汗が額から頬を伝い顎で水滴を作る。

 俺は卯月と清水の視線から逃げ、黙秘権の行使に全霊を注いだ。


「……この子、2人の知り合い?」


 と、逃げた先から卯月でも清水でもない声に迎え撃たれる。

 

 ブースに紹介役として投入できる上限は3名。

 ウチの大学は、毎年新入生が入部してくれなければ同好会への降格、廃部という学則がある。当然、俺たちも降格を免れるべく上限人数で臨んでおり……。


「僕はまだ知り合いってほどじゃないけど、桃真の方は高校からの仲だそうですよ、紅葉もみじちゃん」

「……そうなんだ」


 紅葉と呼ばれた、俺の左隣で説明用のレジュメを確認している、黒髪ボブの縁なし眼鏡が特徴的な女性によって、俺の逃げ場は完全にシャットアウトされてしまった。


「コチラの方は……?」

「……3年の赤羽根あかばねさん。文芸部ウチの部員」

「初めまして、1回生の卯月麻衣と申します」

「ども……赤羽根です。アタシは置物みたいなモノだから、気になったことがあったらそっちの2人に聞いて」


 礼儀正しく、深過ぎず浅過ぎない会釈をする卯月に対し、赤羽根さんも「ん」っと頭を軽く動かして応じる。できれば丸投げは止めて欲しいんでけどなぁ……。

 

「えーっと……とか言っておいて僕から質問するのは変だけど、卯月さんは桃真が文芸部員だったってこと知らなかったんだ?」

「はい。文芸部どころかサークルに所属しているってことすら今、初めて知りました」

「なんで教えてあげなかったんだい、桃真?」

 

 再び、清水からのプレッシャーが膨れ上がる。

 無言というか……笑顔の圧が怖い。

 新入部員の獲得のチャンスじゃないか? と視線から言外の訴えを突き付けられる。

 

「別に隠してたわけじゃない。た、単に言うタイミングがなかっただけで……」

「でもセンパイ、私が何回もサークル選びの相談してるのに、文芸部このこと教えてくれませんでしたよね。それどころか午後の部に一緒に回る約束までしてくれましたし」

「……卯月が訊いてきたら答えるつもりだった」


 うん。嘘ではない。

 というか、俺にはそう答える以外の道がなかった。


「桃真には、もう2つ3つ問い質したいところだけど……卯月さんの時間が勿体ないから、今は止めとこうか。卯月さんどう? お話だけでも――」

「いえ、御厚意だけ受け取らせて頂きます」

「そっか。じゃあ他のサークル楽しんでくると良いよ」


 言葉では爽やかに応じている清水だが、内心では新入部員確保ならずで肩を落としているだろう。

 

「………………」

「――――ん?」


 卯月がウチのブースから去る間際、不意に目があった。

 何か言うわけでもない、だけど何かしらの意図を含んで良そうな微笑み。

 午後から一緒に回りましょ? っていう確認だろうか。

 クルッと踵を返した卯月は、清水の言葉と裏腹に食堂の入口へと戻って行ってしまった。

 もう帰るのだろうか? まぁ午後の部も来るんだから、見なくても問題ないか。

 それでもなんとなく、何故か遠くに行ってしまった彼女から視線を離せず追ってしまう。


 食堂の入り口では学生会所属のメンバーが入場者の管理や、各ブースの位置が表示された大型タッチパネルの前で、入部届の書き方などの説明をしている。

 あ、学生会に何か話しかけた。

 会話時間は5秒もない。2、3言交わせたかどうかの僅かな時間。

 何やらA4くらいの用紙を貰ってる。

 その用紙を持ったまま、今度こそ食堂を出て3分ほどした頃。また卯月は戻って来た。

 先ほどの用紙を携え、迷いのない足取りで向かうは文芸部のブースだ。

 俺の目の前までやって来た彼女の朱唇が、とびきりの笑顔を象り、


「――――文芸部に入部希望です」



**********


【蛇足】

 前回の天沢君の心情


天沢君「サークル紹介一緒に行っていいぞ(気になってるサークルあるけど、1人じゃ心細いんだろうな。文芸部は言う必要ないだろう)」


卯月ちゃん「私はセンパイと同じサークルが良いです!」


天沢君「( ´・ω・`)」


【あとがき】


 拙作をお読み頂きありがとうございます。

 面白そう、続きを読んでみたいと思って頂ければ評価応援、感想など頂ければ幸いです。(☆1つでも是非……)

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