第11話【帰りも一緒ですね】
学食で昼食を済ませた俺は、大学を出て帰路に就く。
ただ真っすぐ家に帰るのではなく、1カ所だけ寄り道をしているが。
大学と
今日と数日分の食材、あとティッシュやら洗剤やらの消耗品を買おうと思っていたからだ。
「これもお願いしますねセンパイ」
「いや自分で買え」
当然のように付いて来た卯月が、買い物カゴにお菓子を入れる。幼稚園児か。
「返してきなさい」
「ぶー」
「お前そんなキャラだったか……マジで」
ワザとらしく頬を膨らませながらお菓子を返しに行く卯月を見送り、買い物を再開する。
日用品は揃えたので、あとは食材。
よく言われる総菜……いわゆる【出来合いモノより自炊した方が安い】は、絶対的なモノではないと思う。
少量で数百円からするお惣菜より、自炊することで総合的に1食あたりの単価が低くなる。業務用食材とか給食と同じ原理。
なので一人暮らしなら、よっぽど日持ちしない限りは、総菜の方が財布に優しい時もある……気がする。
「おぉ……コロッケ3枚で100円は安いですね。でもそれだけだと栄養偏りません?」
「別にそんな気にすることじゃねーだろ。俺たちくらいの歳なら、そこまで終わってる食生活しなけりゃ大丈夫だろうし」
「塵も積もれば何とやらっ、ですよ」
「あーはいはい、今度から考える」
適当に流しながら安い総菜コロッケをカゴに入れる。
すると、またも卯月が俺のカゴに勝手に投入。またお菓子か……と、思いきや卯月が持っていたのはカット野菜の袋だった。
「せめて野菜は取りましょ」
「…………」
真っ当な事を言われて反論できなかった。
強いて抵抗するなら、
「だったら生のまんまの方買う。そっち方がお得だし」
再度卯月によって入れられたカット野菜を返し、野菜コーナーへと舵を切る。
「センパイ、野菜切れるんですか?」
「失礼な質問だなっ。これでも1年一人暮らししてるんだぞ」
「男の人の一人暮らしって料理しないイメージあったので」
「わかる気するけど、する奴はするし、女子でも自堕落な生活する奴いるからなぁ」
脳裏に大学の知り合いたちを浮かべながら言う。
無駄に凝り性な男子に、雑な女子。気分次第で決める奴らばっか。面倒臭がりながらも最低限の家事はする俺は、マシな部類じゃないだろうか。
小さな安心と優越感を抱きながら、俺は積まれた野菜の束を物色し始めた。
**********
「悪いな半分持たせて」
「いえいえー。むしろお菓子ありがとうございます!」
スーパーを後にした俺の両手は、食材と日用品が詰め込まれた大袋で塞がっており、また隣を歩く卯月の手にもトイレットペーパーが1袋、反対側にはお礼として奢ったお菓子とジュースの小袋が携えられていた。
1度は棚に戻させたお菓子を結局買い与えてしまったのは、久しぶりに会った懐かしさから、卯月に甘くなっているからだろうか。いや、これは労働に対する正当な報酬だ。
もうすぐマンションに着く。
だけど俺たちの歩みは遅々、いや。のんびりとしている。
なんというか――。
「不思議な感じですね」
「……だな」
形容し難い……まさに不思議としか言い表せられない感覚を、卯月も感じていたらしい。
「あんまり卯月と下校したことないもんな」
「勉強会以外で顔合わせても話さないし……。なんならセンパイ、私のこと知らないフリもしてましたね」
「それはお前もだったろ」
先輩と後輩。家庭教師と生徒。
高校時代の俺と卯月の関係は、それ以外の何物でもなかった。
否。家庭教師というには語弊がある。
俺たちの勉強会は高校の空き教室か図書館で、俺も卯月も互いの実家を知らない。
それだけに非ず。
関係が長くなるに連れ、お互い軽口を叩いていたが、そこに好意も友情もなく、ただ変に肩肘張るのが無駄に感じたから。意図しないところで会っても他人のフリ……とお互い利害が一致しているからこそ、プライベートに干渉することはなかった。
故にこうして何の理由もなく卯月と一緒にいることに、気まずさと面映ゆさが混濁した感情を抱いてしまう。
やばい、変に意識してしまっている。
「これからは毎日一緒に帰れますね」
嬉しいと、口に出さなくてもわかるくらいの笑顔が向けられる。
大学からマンションまでの数十分間を共に歩く。たったそれだけのことに、どうしてそこまで一喜一憂できるんだ?
「毎日はさすがに勘弁」
「またまたぁ。痩せ我慢しちゃって」
うぜぇ……。
**********
【あとがき】
拙作をお読み頂きありがとうございます。
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