第3話

 『――ベイリーと言う名前の少女、彼女は解離性同一性障害を患っている。所謂、多重人格。

 そして各人格は、彼女の夢を通して意思疎通を図ることもある。今回のように、別の人格が別の人格の夢に入り込み、対話を行うこともある。然しながら、全人格がそれを把握しているとは考えにくい』、それが彼女の研究結果だった。

 家族を惨殺され、恩人と無理心中するも、彼女だけが生き延びた。その結果、ベイリーは今日も死を望んでいる。そして誰とも交流を深めず、冷たい海水に足をつけている。

 彼女の脳内には、あの頃に聞いた恩人の言葉が頭をよぎっていた。


『貴方を待っています、深海にたどり着いたとしても、貴方が来るまでずっと』


 少女は叶えるように、今日も水辺から声をかける。

 その先にいた青年は、ベイリーが笑っているようには見えないといつも答える。

 ぐちゃぐちゃな落書き、青だと言い張る彼女の血、それを絵の具として描いたのは限界がとどめられていないナニカ。


 彼女は涙を流しながら、深海に待つ誰かを迎えに逝こうとしている。


 ――そうして、彼女は少しずつ狂気に飲まれていくのだった。

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深淵ニテ君ヲ待ツ 華夢 @kyouka0711

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