第7話 最強の矛と盾

 すると男は気が狂ったのだろうか?次にこんなことを言った。

「痴漢なんて、別に減るもんじゃないからいいんだよオオォォォッ!」


「あんた、そんな考え方してるから彼女できないんだよ。」

と、鼻で笑うかのように童子は言った。


「彼女いたし...」


 男はそう呟いた。


 おいおい、今なんて言ったんだ?こんなヤツに彼女がいただと?そんなはずは無い、おそらく何かの捏造だろ。


「それはなあ、思い込みだ。絶対そうだ。あんま無茶すんなよ......」


童子は憐れみの顔を浮かべ言った。 すると男は急に語り出した。


「あれは高校の春の頃だった」


 童子は少し呆れたが、本当にあったことを話すのか、もしくはクオリティの高い捏造を話すのかが気になりそのまま黙っていた。勇人は変態でも謳歌した、青春の話に期待を膨らませていた。


男は続いて

「僕は学年でトップ50に入るくらいのルックスを持つ女子に告白したんだ。そして、その結果がオッケー!すげえだろ!?」


 童子はルックスだけで告白する対象を選んでいることに解せなかったが、それ以上にトップ50といういかにも振られてもあまりダメージを喰らわなさそうな人を選んでいるのは流石だと思った。


「そして、次が大事なんだ。付き合ってから一ヶ月も経っているというのに、一度も僕を誘っている雰囲気を出さなかったんだ。不思議に思った僕はこう考えた、僕が誘えばいいんだと!そして僕は彼女の胸を触ったね。今でもこの感触は忘れられないね。そしたらなぜか振られたんだ!わけわかんないよね。どうだい、悲しい青春だろ?」


 この時童子は自分が変態とはいえ流石に同情できないと思った、胸を触りたくなるのは同情したが。

 勇人は少しにやけていた。なんでだよ。


 気を取り直して、男の質問に華麗なるスルーをした童子は言った。


「あんたが変態ということはわかったけど、これ以上こんなことを起こしたらどうなるかわかるね?」


 童子は立場的に優位な位置にいるので、調子に乗っていた。そう言った時、男は顔を明るくした。


なんで元気になるんだよ。


 そう童子は思ったが、男はもともと警察に通報されると思っていたのだと理解した。


 どうせまた再開するだろうし近いうちに通報しておくか。


童子は性欲に溺れた人間の末路を知っていた。

 すると、ふと童子は思い出した。不審者が出たと言う話を。童子はこの男のことだと思っていたが、よく考えるとあの手捌きでバレることはそうそう無いはずだ。そこがどうしても気になり男に訊いた。


「あんたって誰かに痴漢したのバレたのか?そのテクを持ってして?」


 男はびっくりしたような顔したが落ち着いて童子に話した。


「二週間くらい前だったかな。僕はあるJKをターゲットにしたんだ。そして、素早くタッチを成功させた時に、「えっ!?」って大きな声が聞こえたんだ。僕は怖くなってフルスピードで自転車を漕いだんだ。まさか広まっていたとは...」


 怖かったのは女子高生の方だろ。


 童子はそう思いつつ、最強の矛があるのなら最強の盾がある、最高なテクがあるのなら敏感な女子もいるのだと感心した。



 そのあと男と別れた童子は勇人と一緒に交番へと向かった。


                7話 完

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