第13話 聖女様、Cランクになる

 さて、今回は勝手になんとかなったが、いつもこういくとは限らない。

 なにせ冒険者というのは、縦社会。


 ランクというので縛りがあり、Dランクであり続ける以上はセヴァールの各派閥の召集を無視できないわけで。

 が、今のあたしはミリーが後ろ盾にいる訳で。

 あれ、コレ無理して冒険者続ける意味ないんじゃね?

 そう思ったが、やはりこの三人と活動するのも楽しいわけで。


 そろそろランク、あげてもいいかな、なんて思ってるよ。


「で、アリー。今回の騒動の原因は突き止められたの?」

「お、おう! もちろん完膚なくぶちのめしてやったよ!」

「えっ、原因を突き止めに行ったのよね? なんで相手ぶちのめしてるの!?」

「見た目シスターなだけでやっぱりアリーは不良にゃん。こんなシスターを他のパーティが放りってくれるわけないにゃん!」


 ここにきてにゃんころがあたしの存在を全否定してくる。

 やはり相容れぬ存在か。

 拳を握り、殺傷力0の全力パンチでやりあう構えを取る。


「なにぃ? なんか知らんけど勝手に事件が解決してたのも、全部あたしのせいってか?」

「そうなの?」

「おう、首謀者が勝手に自滅してたから治癒したらめっちゃ懐かれてさ」

「それ、どこがぶちのめしたにゃん? 勝ち馬に乗っただけにゃよ?」


 痛いところを突かれて目を細める。


「そ、そうとも言う」

「なんにゃ、アリーはやっぱり口だけだったにゃ。口ではいくらでも言えるもんにゃ? にゃにゃー」


 日に日にお国言葉を出す事に躊躇がなくなってきたにゃんころ先輩が熟練の煽り芸で茶化してくる。

 コレに乗ったら同類。同じ穴のムジナだ。

 やれやれと肩を竦めてお子ちゃまの相手はしない主義なんだと取り合わずにこれからの予定を語る。


「で、そろそろなんだけど。ランクアップ、する?」

「いきなり急ね。でもまあ確かにDじゃ物足りなくなってきたものね。でもアリー、Cに上がりたくないんじゃなかったの?」


 ファルが核心をつく。

 確かにみんながランクアップを急いていた頃に引き止めたのは他でもないあたしだ。


 それっぽい理由もつけたし、あの頃から状況も変わった。

 何よりミリーが後ろ盾になってくれたのも大きいし、もう一つの派閥もポールがなんとかしてくれ……たらいいなぁ。

 でもあいつ目の前が見えてないボンクラだし、どこまで信用していいかわかんないところあるし、うーん。


「あら、自分から話振っておいて、ダンマリ?」

「そうじゃねーよ。そうじゃねーけど、あたしに言われるがままでみんなの成長が止まるのもどうかと思ったんだよ。悪いか?」

「へぇ、アリーなりに考えてくれたのね、あたし達の事」

「意外にゃ。この不良シスターは自分が頼られてるのをいい事に、無理難題を押し付けてくるだけの跳ねっ返りと思ってたにゃ」


 にまー、と目だけで煽ってくるにゃんこ先輩。

 いや、この中で一番心配なのはお前なんだよ、ミーニャ。

 ただでさえ最大魔力量が多くないのに、金があるからってあれこれ魔術触媒を買い足したのはいいが使いきれずに要所要所で魔力切れを起こしてるのを知らないわけでもあるまい。


 このポンコツがこのパーティの成長を止めてる理由なのだ。

 あたしが魔力譲渡してなきゃ早い段階で街にトンボ帰りしてる事実に気づけて居ずにあたしを煽ってるんだとしたらバカなのはどちらだろうか?


「そう言うお前はあたしに偉そうな口聞ける立場なのかよ?」

「魔術選択のミスについては謝ることしかできないにゃ」

「ま、ランクCは逃げねーよ。お前の成長があたし達に追いついたら、それからランクアップしても遅くねぇ」

「それってミーが一番足引っ張ってるって意味かにゃ?」

「そりゃ、なぁ?」


 ファルに振り返る。

 苦笑いを浮かべながらこの場を乗り切ろうとしている。

 つまりはそう言う事だ。パーティリーダーからしての判断にミーニャは地団駄を踏む。

 素行の問題はあれど、あたしはどちらかと言えばヒーラーとしては成績優秀。

 ファルは役割としてはこのパーティになくてはならないまとめ役。

 イーシャもここぞという時の胆力の強さで状況判断をするのに優れてる。

 火力についてはあたしも含めてどちらも無いが、火力だけあってコントロール無調整、隙が多すぎる、魔力の無駄使いの多いお荷物である事実。


 平民出という事実が未熟さを如実に表しているが、それでも生まれ故郷では熟練と聞くから期待してるのだが、成長値が人類と違ってのんびり気味なのだ。

 本人の性格からマスコット扱いされてるが、本人的にそこは否定したいらしい。


「みんなもそう思ってるにゃ?」

「そんな事ないわよ? あなたの火力がなきゃ大物は仕留められないもの。居てくれて助かってるわ」

「そうよ、色々と目を瞑る事もあるけど、居て助かってるのは事実よ?」


 ファルとイーシャの言い分には含みがある。

 イーシャに至っては自分がいなきゃ誰がお前のカバーをするんだと数々の履歴を思い返したかのような間があった。

 その間を読むに、あたし以上に苦労してるアピールをしている。

 普段はそんな気配見せないのに、言い出しっぺがあたしだからって言いたい放題である。今なら全部あたしの所為にできるからな。


「それにあたしが魔物の死体を癒さなきゃ解体納品は目も当てられねーじゃん」

「それは、選択属性の相性が悪いだけにゃ!」

「苦手属性で倒せるかの研鑽はしてないのかって話をしてんの」

「倒すのだけで精一杯にゃ! そりゃ、アリーの祈りの力にはお世話になってるけどにゃ?」

「おう、世話してやってるよ。少しでもその態度があたしに帰ってきたことはねーけど?」

「それは……悪かったにゃん。不良シスターとか言い過ぎだったにゃん」

「ま、そこは間違っちゃいねーが」


 にししと笑ってにゃんこ先輩の肩を叩く。

 そして街に帰って変わり果てた街並みと、グロッキーな住民を癒すことから仕事に着手する。

 こういう時、暗黙の了解でみんなの視線があたしに集まるのだ。

 はいはい、どうせあたししかこういうのに対処できる人間は居ませんよ。


 軽くその場でお祈りすると、祈ってる姿の時だけはシスターっぽく見えるにゃと茶化してくる声が入る。

 本当のことなので聞かなかった事にしてやる。

 全くもってその通りだからな。


「おし、こんなもんでいいだろう。あとは当人達に任せようぜ!」

「もういいの?」

「状態異常の回復と自然治癒力を高めておいた。別に重症を追ってたわけでもねーし、無料仕事に精度を求められてもな?」


 呼びかけてきたイーシャに振り返り、答えてやる。


「それでも受け取った方はあんたに感謝すると思うわよ?」

「勝手に恩に着て、変に勘違いされても面倒くせーだけだよ。あたしは聖女様みたいなお人好しじゃねーんだぞ? 無償で働くなんてバカバカしい。今回は特別だよ。宿屋すら機能してないんじゃ、こっちも困るからな」

「そうにゃ、こんな守銭奴が聖女だったら教会は1年も持たずに経営破綻してるにゃ」


 にゃふふ、と口元を押さえて笑うミーニャ。

 このにゃんころは……一応気を遣ってくれてるのか、はたまた本心からの罵倒か。判断出来ないことも多いが、そのように触れ回ってくれるなら聖女として利用しようとしてくる奴は減らせるのも事実。

 口では文句を言いつつも、あたしもこのにゃんこの口の軽さを利用しているのだ。


 結局泊まらず仕舞いだった宿のオーナーを起こして宿泊する。

 ひどい目眩を訴えてきたので解毒ポーションを飲ませながら同時に祈る。

 そうすると解毒ポーションを飲んだオーナーは、ポーションの代金を支払うと言ってくれた。


 コレがポーションを介さずにやっていた場合、感謝だけして賃金は発生しない。

 そしてまた頼むと手間賃程度のチップが送られておしまい。延々とたかられるのだ。


 ここら辺は貴族も平民も同じだな。

 教主が平民に見向きもしなかったのはそこら辺だろう。

 情に訴えて金払いが悪いからな。


 でもこのやり方なら最低でもポーションの代金は得られる狡いやり方である。冒険者として生きていくならコレくらいずる賢くないとな。

 そういう意味では教主の守銭奴っぷりを見習ってるよ。あんなクソ野郎でも役に立つ時があるものだ。


 宿で一泊して、調子の悪い住民に解毒ポーションという名の祈りで清めた水を渡して賃金のやりとりをする。


 何故かそのポーションに注目が集まり、守銭奴のあたしは悪代官扱いである。ポーションの製造方法は知らない、南の方にある町で買い付けたと宣伝しておいた。


 相変わらず女を見かけない街並み、あたし達に集まる視線は多いが、よくない感情は読めない。

 討伐依頼と納品依頼をこなしていけば、ようやく街の顔として認めて貰え、そうして何度か目のランクC昇格打診を受け取る。


 目下の不安はミーニャだが、このパーティでいる限りサポートは万全。あたし達は晴れてCランクへと昇格する事にした。


 ランクCとなればいよいよ内街への入場が許される。

 許されるとは言ったけど……


「やっぱり入場制限があったか」

「そりゃあるでしょう。Cランクは青い街並みまで、Bランクは黄色までAになれば赤までね」

「分かっては居たけど、こうも顕著だとね」

「にゃー変な街並みにゃ!」


 にゃんこ先輩がみんなの心情を物語ってくれる。

 ちなみに思っても言わないのは処世術だ。

 誰だって自分の住んでる街の悪口を言われたら嫌悪感が増すものだろう?


 案の定、飼い主であるファルにペットの躾がなってないと苦言をいただいたわけであるが……どうも内街では亜人はよく思われてないようだ。


 そこまであからさまに嫌われているわけではないが、話を聞くに亜人と組むデメリットの多さを挙げられて妙に納得するあたし達。


 そのあと必死に縋り付いてきたミーニャのガン泣きは今でも笑い話だ。


 要は亜人は成長限界が早いのだと言われている。

 警戒心が高く、種族によっては全く役に立たずに終わるものも多いらしい。


 ではミーニャの猫人種はといえば、知能が高く魔法使い向きだ。

 が、俗に言う金食い虫でそれは触媒に使われる魔石に惹かれるのではないかと推測されている。

 要は使わないのに、あれ欲しいコレ欲しいと拝み倒した挙句、パーティ資金を食い潰すだけ食い潰してなんの悪気もなくのうのうと生きてるお気楽主義者なのだ。


 ここまで聞けば酷い奴もいるものだ、とパーティを解散してる人たちも多いんだって。

 あたし達は、そこら辺弁えてるから気にしちゃいないけど、コレからはそれらも含めて絡まれるかもな?


「ミーニャは違うって周りに言ってやりゃいいんだよ。実力で証明してやるんだ。向こうが間違ってたって言わせてやればミーニャの勝ちだ」

「にゃー、アリーはそう言うところで変に頼もしいにゃね」

「そりゃそうよ。シスター時代はそりゃ大変だったんだぜ?」

「ええ、あんなに素晴らしいシスター様だったのに、素がこっちだなんて勿体無いわ」

「じゃあ素を隠してずっと神に支えて居ろって? どんなストレス環境だよ。こっちから願い下げだわ」

「まぁ、アリーの気持ちもわかるわ。適度な発散の場所は必要よね?」

「そうだよー、やっぱりイーシャは分かってるな。おし、今日は飲もう。宴会だ」


 イーシャと意気投合し、呆れ返るファルとミーニャを連れて青い酒場に入って注文をしていくと……


「おいおいおいおい、どうしてここに猫人族様がいらっしゃるんだ!? 人間様の街に連れてきちゃあだめじゃないか!」


 柄の悪い、男の声が酒場中に聞こえるほどの大音量で響き渡った。

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