96、返事はカミナリで



「で、教えてください。なんでトシゾウは、レイラや魔王を勇者として召喚したのか」


「‥‥‥サトシ、この状況でも聞くの?」


 女神様の言うこの状況とは外の天気の事。

 空は厚い雲に覆われ、昼とは思えないほど辺りは暗くなっていた。


「たまたま天気が悪くなっただけですよ」



 ピカッ‥‥‥ゴロゴロゴロゴロッ!



「‥‥‥絶対怒ってるわ」


「今のも偶然ですから。さあ、教えてください」


「‥‥‥サトシ、私は後で怒られたくないわよ‥‥‥。多分この話、創造主はサトシに聞かれたくないと思うのよね。私に謝ってくれた時に、自分が間違っていたって言ってたし‥‥‥」


「女神様大丈夫! 急に天気が悪くなったくらいで、女神様ともあろう者がビビっててどうするんですか?!」


「‥‥‥じゃあ、少しだけ。ウメやユウカは創造主の伴────」



 ピカピカッ! ドォォオオーーンッ!!



「‥‥‥あ、近くの木に落ちましたね」


 宿屋の前の道に植えられていた街路樹に、カミナリが落ちたようだ。

 なんとタイミングのいいカミナリでしょう。


「‥‥‥サトシ、やっぱり聞かれたくないんだわ‥‥‥」


「女神様はまだそんな事を言ってるんですか! 今のもたまたまです! なんですかウメとユウカは創造主のなんなんですか?!」


「‥‥‥ウメとユウカは創造主の────」



 ピカピカッ! ドッガァーーーン!!



「女神様、今のも、たまたまさっきの隣の木に落ちただけです!」

 

 宿屋前に植えられている街路樹が2本消し炭になっている。


「サトシ、どう考えたって、もうたまたまな訳ないでしょ‥‥‥。創造主はこの世界のどんな力も使えるのよ」


「‥‥‥俺といる時はそんな力使ってませんでしたよ? それにそんな力使えるなら、祠で俺に攻撃できたでしょ」


 物凄く嫌われていた訳だし、攻撃してきててもおかしくなかっはずだ。


「創造主は自分の部屋にいる時しか、天変地異的な力は使えないの」


 なるほど、だからトシゾウは引きこもってたのか。


「トシゾウさん卑怯だぞ! 召喚した理由くらい聞いたっていいじゃないですか!」


 

 ピカッ! ドッカーーーーーンッ!!



 3本目の街路樹が綺麗に燃やされました。


「‥‥‥サトシ、創造主と変な方法でやり取りをしないでくれる? 街の木がなくなっちゃうわ」


「トシゾウさん、決闘の日にちゃんと教えてくださいよ! 教えてくれないと、死んでも死にきれませんから、化けて出ますからね!」


 ‥‥‥カミナリは落ちなかった。


「サトシ、私もう帰るね。これ以上話してると、なんか色々あれだし‥‥‥」


 あれとはどれだ。


「トシゾウによろしく言っといてください!」


「たぶん直接聞こえてるわよ‥‥‥」


「なるほど」


「‥‥‥じゃあ、サトシ気をつけてね」


 何に気をつけんだよ。

 あなたの上司をなんとかしてください。


「女神様、またがあったら会いましょう」


「そうね必ず。私も、もう少し頑張ってみるから‥‥‥」


 女神様は掌から魔力を出すと、音もなく消えた。

 何を頑張るのだろうか‥‥‥。

 無茶はしないでもらいたい。





「‥‥‥さて」


 一人になった俺は部屋の入口に向かった。

 出来るだけ静かに。

 ‥‥‥まだ居るな。


 ──覚悟しろ!


 俺は深呼吸すると、勢いよく扉を開けた。



 バタバタバタッ!!



 床に崩れるように部屋に入ってくる人影が三つ。


「‥‥‥そんなコッソリ聞き耳をたてないでも、気になるなら入ってきて良かったのに」


 床に転がってる美人が3人。

 

「違うんですニア様! イレイザがどうしてもって言うから!」


「あら勇者も率先して来てたじゃないの。それに、言い出しっぺは魔王様だからねダーリン」


「俺はお前の部屋から、女神の気配を感じるって言っただけで‥‥‥そんなんじゃない」


 ‥‥‥この人達は威厳も何もないな。


「入ろうとしたら、ダーリンが女神と抱き合ってたから私たち入れなかったのよ‥‥‥」


 ‥‥‥ああ、そこら辺から聞いてたのね。


「別にやましい事はしてないからね!」


「お前はロリコンかもしれないって、前にアリスが言ってたから、俺たちは気を遣ってやったんだ」


 立ち上がり偉そうに胸を張る魔王。


「‥‥‥またあの人は‥‥‥違うから」


 大分前に、女神様が俺の膝の上に座ってるのを見たアリスさんが、俺をロリコンだと勘違いしてたのを思い出した。


「でもダーリン、やる事はやったんでしょ?」


「‥‥‥やるわけないだろ」


 なんで女神様とやるんだよ‥‥‥。


「‥‥‥ダーリン、嘘はダメよ。残骸が服に付いてるわ」


 イレイザが指差したのは俺のシャツ。

 腹の辺りにピカピカしたものが、カピカピとこびり付いていた。


「イレイザ‥‥‥まさかこれが?!」

 

「そう、これが男の欲望の象徴よ!」


「‥‥‥これがそうなのか! 俺は初めて見るぞ」


 マジマジと俺のシャツを見つめる3人。


「初めては女神様に取られちゃいましたね‥‥‥」


「悔しいわ!」


「‥‥‥女神め」


 俺のシャツを引っ張る3人。

 この人達はいったいこのカピカピを、何と勘違いしているのだろうか‥‥‥。


「‥‥‥それ、女神様の鼻水だから‥‥‥」


「「「え?!」」」


 

 前の街路樹が3本燃えましたが、今日もプリングの宿屋は平和です。

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