97、創造主のブーラー



 決闘当日。

 10日間はあっという間に過ぎた。

 俺はなんやかんやと用事を済ませると、5日ほど前から既に祠に滞在している。

 魔法陣を使ってのレベル上げの為である。

 最後の悪あがきってやつだ。


 ──簡単にやられてたまるかよ。


 トシゾウが創造主だろうが神だろうが、諦める気はない。

 『天使ちゃん』が1,000体で攻めて来ようと意地でも生き残ってやる。

 

「準備も万全だ」

 

 道具袋の中に大小様々な大量の石と、大量の『魔王の元気』が入っている事を最終確認する。


「‥‥‥よし。いつでも来いトシゾウさん!」


 本人に聞こえてるのかはわからないが、俺は大きな声で呼びかけた。






「ニア殿、勝負でござる!」


 祠の外から聞こえる声。


「‥‥‥来たか」


 俺は祠の扉を開けゆっくり外に出た。

 いい天気だ。

 朝日が眩しい。


「ニア殿、覚悟は出来てるでござるか」


 暖かい日差しに目を細めていると、腕組みするトシゾウと、その隣にちょこんと立つ羽根のない金髪少女の女神様が目に入った。

 

「トシゾウさん、簡単に倒せると思わない方が良いですよ。俺だってやる時はやるんですからね」


「いい返事でござる。拙者も本気でいくでござるぞ」


 トシゾウはニヤリと笑うと、腰に下げていた木製の棒を構えた。

 ‥‥‥なんだ?

 ただの木刀に見えるが‥‥‥レアアイテムか?

 それ以前にトシゾウ本人が戦うの?!


「さあニア殿、かかって来るでござる!」


 絵に描いたような、凄いへっぴり腰のトシゾウ。

 

 ──いや、油断しては駄目だ!


 相手は創造主。

 やっぱりアレは、とんでもない武器だと考えるのが無難。

 しかし、どんな攻撃をして来る?

 ‥‥‥分からない。

 

 ──牽制で投げるか?


 不用意に投げて、無防備なところを反撃されたくはない。

 ‥‥‥どうやって攻める?

 こうなったら『魔王の元気』でいきなりドーピングを───

 

「‥‥‥攻めて来ぬのか? そちらが来ぬのであれば、此方から行くでござる!」


 おい、こっちのターンじゃないのかよ?!


「ぶぅうるあぁぁぁあーーっ!」


 考えがまとまる前に変な奇声を上げながら、トシゾウが武器を上段に構え襲いかかってきた。


「くそっ!」


 触れると即死する武器かもしれない。

 受けては駄目だ!

 

「ニア殿、覚悟!」


 俺に向かって武器を振り下ろすトシゾウ。

 ‥‥‥おいおい、嘘だろ?

 動きがあまりにも遅い。

 


 ズシャーーーッ!



 俺が余裕で交わすと、そのまま地面に無様に突っ込むトシゾウ。


「‥‥‥なんだ、いったいどんな攻撃なんだ?!」


 どんなに凄い武器だろうと、当たらなければ意味がない。

 ‥‥‥意図が全くわからない。


「‥‥‥ププッ、クスクスクスッ」


 地面に転がるトシゾウを見ていると、後ろから噛み殺したような笑い声が聞こえた。

 

「‥‥‥女神様?」


 声の主は金髪少女。


「5号、何を笑っているでござるか!」


 泥だらけになりながら立ち上がり、女神様を叱るトシゾウ。


「いえ、笑ってなどいません! 創造主様、どうぞ存分にサトシに力を見せつけてやってください!」


 不自然に下を向く女神様。

 ‥‥‥コイツ! 笑ってるのを誤魔化してるのか?!


「ニア殿、よく躱したでござるな」


 武器を肩にかけカッコよく立つトシゾウ。

 服は泥だらけだ。


「‥‥‥いや、動き遅すぎでしょ‥‥‥。トシゾウさん、その武器はやっぱりかすっただけで相手を即死させちゃうような武器ですか?」


「‥‥‥何を言ってるでござる? どう見てもただの木刀でござろう‥‥‥」


「‥‥‥は? なんで?」


「なんでとは何でござるか?!」


「え? いや、だって‥‥‥」


「ニア殿、お喋りしてる暇はないでござるぞ! 覚悟!」


 そう言うと、トシゾウはもう一度木刀を上段に構え襲いかかって来た。


 ──やばい、遅い!


 また地面に突っ込むトシゾウ。


「くそ! 当たらんでござる!」

 

「‥‥‥トシゾウさん、『天使ちゃん』はどうしたの?」


「‥‥‥ニア殿、さっきから何を言ってるでござるか?」


 起き上がり、片膝をつくトシゾウ。


「何って‥‥‥待って、もう訳がわかんない。トシゾウさん、全力で戦うんじゃなかったの?!」


「拙者は全力で戦ってるでござるぞ!」


「‥‥‥プークスクスッ」


 また後ろから、噛み殺した少女の笑い声が聞こえた。

 ‥‥‥女神様、何笑ってんだ。


「ニア殿、本気で来ぬと知らないでござるぞ」


「‥‥‥本気でって言われても」


 トシゾウはあまりにも弱い。

 本気で戦ったら一撃で倒せそうなんだが‥‥‥。


「ニア殿、言ってなかったが、この戦いに勝った方が、アリス殿を嫁に貰える事にしたいでござる!」


「‥‥‥トシゾウさん、まだそんな事言ってんですか? 創造主だからって、我儘も大概にしないと本当にアリスさんに嫌われちゃいますよ?」


「うるさいでござる! 拙者は絶対にニア殿に勝ち、アリス殿を手に入れるでござる!」


 木刀を構え我儘な主張を吠えるトシゾウ。

 ‥‥‥駄目だ、この人まるで成長してない。

 なんで俺に勝ったら、アリスさんを嫁に貰えると思うんだよ‥‥‥。

 そもそも『天使ちゃん』も使わずに、俺に勝てるとでも思って───

 

「‥‥‥待って、トシゾウさん勝つ気ある?」


「拙者は本気で戦うでござる! そして勝ったらアリス殿は頂くでござる!」


「‥‥‥あの‥‥‥俺が勝ったら?」


「さっき言ったでござろう?! 勝った方が、アリス殿を嫁に貰えるでござる! ニア殿、自惚れるな、拙者は必ず勝つ!」


 また変な奇声をあげて、トシゾウが襲いかかってきた。


 ──嘘でしょ?


 決闘の理由って、そんなだったの?!

 

 ──どうすんだ?!



「トシゾウさん! いい加減、強敵と本気で戦うシーンがないと、読者様に呆れられるぞ!!」


「訳のわからん事を言ってる暇など、ないでござるぞ! 覚悟でござる!」




「ぶぅるあぁぁぁぁーーー!」


 その後、森には何度もトシゾウの奇声が響いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る