82、調教する男



「決めたでござる! 拙者、アリス殿と結婚するでござる!」


 ベッドで寝ていた俺は、魔法陣の部屋から出てきたトシゾウに起こされていた。


「‥‥‥また何言ってんすか?」


「アリス殿に言われたように、下等生物のニア殿とも仲良くするでござる!」


「‥‥‥それはどうも」


 夜中に起こされた俺のテンションは低い。


「ニア殿、教えるでござる! アリス殿はどんな男が好きなのでござるか?!」


「アリスさんの好み?」


 ‥‥‥ぬいぐるみかな?


「拙者、あんなに怒られたのは初めてで、ドキドキしたでござる! アリス殿の事が本気で好きになったでござる!」


「‥‥‥それは良かったですね」


「ニア殿協力して欲しいでござる! 今までの事は水に流してあげるでござる」


 下等生物と呼ばれた俺の気持ちは?


「協力と言われてもな‥‥‥」


 トシゾウはかなり嫌われてると思われる。

 アリスさんのあんなに怒った顔を今まで見たことないもんな‥‥‥。

 

「そこをなんとか、頼むでござる!」


「‥‥‥じゃあまず、アリスさんに言われたように、痩せてみたらどうですか?」


「ほるほど!‥‥‥して、痩せるとは如何様にしたら?!」


「ご飯と睡眠を減らして、運動したら痩せるんじゃないですか?」


「‥‥‥拙者にはどれも無理でござる」


「じゃあ、諦めれば良いと思います」


 多分痩せても無理な気がするし‥‥‥。


「ぐぬぬっ! 拙者のアリス殿への愛が試されているのでござるな‥‥‥。わかった、やる、やってやるでござる! 拙者痩せて、アリス殿をお嫁さんに貰うでござる! こんな気持ちは初めてでござる!」


「‥‥‥明日から、頑張ってください」


 眠いです。


「ニア殿、明日から頼むでござる!」


「はい。おやすみなさい」


 布団に潜り込む俺。


「ニア殿、待つでござる! 拙者はベッドじゃないと寝れないので、そこ変わってくれでござる」


 ‥‥‥さっきまで床で寝てたじゃん。


「トシゾウさん、硬い床で寝ると痩せるらしいですよ」


 そんな話、聞いたことはない。


「本当でござるか?! ニア殿ありがとう! 拙者、アリス殿の為に今日から床で寝るでござる!」


 トシゾウは床で大の字に転がり、イビキをかきだした。

 やっぱり寝れるじゃん。

 しかも早い。


 

 グゴゴゴォーー! グゴゴゴォーー!



「‥‥‥やばい。うるさくて寝れない」


 寝苦しい夜になった。






「まだまだー」


「もう無理でござる〜」


 魔法陣の部屋でトシゾウの調教をする俺。


「そんなことじゃ痩せませんよー」


「‥‥‥ぐぬぬ、頑張るでござる!」


 仰向けに寝転がり、両腕を頭の後ろに添えてピクピクと震えているトシゾウ。

 一応腹筋らしい。

 未だ一回も出来ていない。


「はい、頑張ってー」


「ぐぬぬぬぬぬっ!」


 奇声を上げるトシゾウ。

 まるで頭は持ち上がらない。

 痩せるには有酸素運動が良いと聞いたことがある。本当は走ったりするのが良いのかな?

 しかしここは室内だ。

 とりあえずなんでもいいから身体を動かさせようということで、筋トレさせてます。


「ダーリン、豚が仰向けで転がってるわ」


 ニヤニヤピンピンのイレイザ。


「トシゾウさんは真面目にやってんだから、冷やかさないの」


「私の雷でピリピリさせたら、飛び起きるんじゃない?」


「‥‥‥駄目だよ」


 悪い顔のイレイザ。


「うおおおおおおおお〜!」


 トシゾウの鳴き声が響く。

 とてもうるさい。


「もう、うるさいな。えい!」


 ニヤニヤしながら、イレイザが指先をトシゾウに向けた。


「あ、コラ! イレイザ何したんだ!」


「‥‥‥あれ?」


 目をパチクリとさせるイレイザ。


「どうした?」


「魔法でちょっとだけ、パチパチしてやろうと思ったんだけど‥‥‥えい!」



 バチバチ!



「いたたた! 何すんだ?!」


 今度は俺に向けて指から雷を出したイレイザ。

 ビリビリした。


「‥‥‥おかしいな」


 もう一度、寝転がり奇声を上げるトシゾウに指先を向けるイレイザ。


「イレイザ、やめなさい」


「やっぱり‥‥‥。ダーリン、アイツに魔法撃てない」

 

 イレイザの尻尾はピンと立ち、ゾワゾワと逆立っている。


「だから、やめときなさい」


「ダーリン、なんで?」


「なんでだろうね」


 沈黙するイレイザ。


「トシゾウさん、何やってんですか! そんなんじゃ痩せませんよー」


「頑張るでござる! ぐおおおおおおっ!」


 部屋にトシゾウの鳴き声が響いていた。


 

 

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