76、尻尾が可愛い




 ムニュ。



 ‥‥‥またか。

 この感触は良くない。

 


 ムニュムニュ。



 ──良すぎるのが良くない。

 

「‥‥‥はっ!」


 目を覚ますと、隣で気持ちよさそうに寝てるイレイザが目に入った。


「‥‥‥あ、ダーリンおはよう」


 目を覚まし上半身を起こすイレイザ。

 柔らかそうな膨らみが揺れている。

 ‥‥‥とても素晴らしい。


「なんでここで寝てるの?」


「ベッドは寝る場所でしょ?」


「イレイザのベッドはあっちね」


 万能魔法陣でベッドを拝借して、石像の部屋に置き俺の部屋としていた。

 イレイザは奥の部屋で寝てたはず。


「寂しかったから来ちゃった」


「もう来ないでね」


「ダーリンはイジワルね」


 ベッドから降りて、服を着るイレイザ。

 なんとも美しい。

 

 ──さすが色欲!


 ついつい凝視してしまっている、煩悩の塊な俺。



「そういえば、イレイザは俺の素顔を見ても平気なんだな?」


 寝起きの俺はノーマスクである。

 

「そういえば、魔王様はダーリンの顔を見てメロメロになってたわね。私は魔族だから人間の魅了は効かないのよ」


 知らなかった。

 魔族には効かないんだ。


「そういえば、ヴィラルも俺の素顔を見ても何も言わなかったよな」


 男を魅了するのは本意ではないが、人間の男が俺の素顔を見て腰を抜かしてるのを過去何度か目撃している。


「ああ、アイツは更に特別。基本的に状態異常にならないらしいのよ」


「変身も出来るし、ヴィラルだけなんか優遇され過ぎじゃない?」


 他の魔族と比べて、明らかに頭ひとつ抜けて強い気がする。


「アイツは元魔王だから」


「‥‥‥元魔王?」


「魔王様が勇者やってる時の、魔王がヴィラルだったのよ」


 ベッドに座る俺の足に、自分の足を絡ませてくる色欲のイレイザ。


「そうなの?!」


 そっと足を払いのける俺。


「‥‥‥もう、イジワルね。私たち魔族全員、昔魔王様と戦って負けてるのよね」


 さすがは魔王ウメ。

 変身後の悪魔的ヴィラルはかなり強いはず。


「魔王の方がヴィラルより強いんだな」


「僅差だったって魔王様は言ってるけど、負けは負けでしょ」


 ‥‥‥僅差か。

 本人も言っていたが、魔王でも『天使ちゃん』には苦戦しそうだな。

 やはりレベルを上げて『天使ちゃん』を自分で圧倒するしかないな。

 

「よし! 今日も頑張るぞ!」






「ダーリン、ご飯できたよ」


 魔法陣の部屋に入ってきた、上機嫌なイレイザ。

 ‥‥‥新婚みたいだな。


「ありがとう。でも自分の分は自分で作るから、俺のはほっといてくれていいよ」


 魔法陣の前に座り、軽作業をするように『皇帝』を召喚しては石を投げている俺。

 一度召喚するのに、消費するMPはたったの1なのでかなり効率が良い。


「ダーリンは遊んでくれないし、私物凄く暇なの。腕によりをかけて作ったから一緒に食べてよ」


 ニコニコ顔で部屋を出るイレイザ。

 ぴょんぴょんと嬉しそうに揺れている尻尾が、なんか可愛い。


 ──わりと良い娘なのかな。


「‥‥‥はっ! いかんいかん」


 顔をブンブンと振りながら、俺も魔法陣の部屋を後にした。

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