75、皇帝と王様の違い



「ダーリン、今度は何を召喚するの?」


 目をキラキラさせているイレイザ。


「‥‥‥何にしよう」


 女神様の用意してくれた、この世界の物ならなんでも召喚出来るらしい魔法陣。

 何か有効的な使い方はないものかと思案中。

 なんでも召喚出来ると言われたら、逆に何を召喚したら良いか分からなくなってきている。

 自分のボキャブラリーのなさにがっかりだ‥‥‥。

 まあどうせ、当分祠から出られないのでゆっくり考えようか。

 

「イレイザはさっき、何を召喚しようとしてたの?」

 

 実はイレイザにはこの魔法陣を使えなかった。

 どこかの誰かから強奪したシチューを食べた後、イレイザはウキウキと魔法陣に手を置き、勝手に何か召喚しようとして失敗している。

 魔法は使えるらしいので、イレイザにもMPはあるはずなんだけどな。


「世界中のありとあらゆる財宝よ」


 強欲のイレイザ。


「‥‥‥そうか」


 今の俺には必要ない。

 まるで参考にならなかった。


「ダーリンは無欲過ぎるのよ」


「そもそも、誰かの物を盗む感じになるんだろ? 人が持ってそうな物は出来るだけ召喚したくないよな‥‥‥」


 食事も出来るだけ食材を召喚して、自炊するのが良いのかもしれない。

 先程のシチューも誰かが食べようとしてた物なのだろう、急に目の前から消えたのだろうから騒ぎになってるかもしれない。

 ‥‥‥召喚したらどんな感じで、元あった場所から消えるんだろうか。


 ──ちょっと実験してみるか。


 俺は魔法陣に手を置いた。

 この部屋にある物を召喚して確認しようと思ったのだが、魔法陣の描かれた部屋には何もない。


「‥‥‥ごめんイレイザ、なんか隣の部屋から持ってきて────」


 

 パシュゥーー。



 突然魔法陣が輝きMPが消費された。

 

 ──俺はまだ何も望んでないぞ?!


「‥‥‥イヤん、ダーリンったら」

 

 何故か身体をクネクネとよじるイレイザ。

 魔法陣の真ん中には、黒いツヤツヤした布が一枚召喚されていた。

 

「‥‥‥何これ?」


 手に取って確認すると、真ん中に切れ目の入った女性用の下着。

 なんだこの切れ目は?

 ‥‥‥恐ろしくいかがわしい。

 パンツとしての用途をなしてないぞ!


「ダーリン、欲しいんだったら言ってくれれば何枚でもあげるのに」


「‥‥‥イレイザの?」


「脱ぎたてホカホカよ」


 ‥‥‥何故だ、分からん。

 俺は一体何を想像してるんだ?!


「ごめん、そんなつもりはなかった。返します」


「ダーリンのエッチ」


 イレイザはニヤニヤとしながら下着を受け取ると、後ろを向いて装備し直していた。

 

 ──あ、なるほど尻尾のための切れ目なのか!


 などと考えながら、じっくり凝視している自分に気付く。

 俺の頭の中は、煩悩でいっぱいなのかもしれない。

 ‥‥‥あまり考えがまとまってない状態で、魔法陣に触れるのは控えよう。





 何度か召喚を試してみて分かった事。

 ハッキリとその物を想像出来たら良いが、あやふやな想像だとなんかそれっぽい物が召喚される。

 初めのシチューも、俺はなにか食べ物を召喚しようとしただけである。

 シチューとは思っていない。


「ダーリン、食材が大量よ」


 魔法陣の周りには、肉や魚やらが所狭しと並んでいた。


「これで当分食糧には困らないけどな‥‥‥」


 今までこっちの世界で食べていた肉が、何の肉か分からなかったので、肉と考えたら解体された物や調理された物が召喚されていた。

 ‥‥‥また誰かに迷惑をかけたような気がする。


 俺にはこの世界の知識量が、あまりにも少ない事に気付かされた。

 ずっとレベル上げしかしてなかったもんな。


 ──スライムさんだったら、正確に想像出来るんだけど‥‥‥。


 ふと召喚された魚が、ピチピチと音をたてて床で跳ねてるが目に入った。


 ──まさか、生物もイケるのか?!


「イレイザ、ちょっと下がって」


「今度は何を召喚するの?」


「‥‥‥大きな物。成功したら俺の祠ライフは劇的にハッピーになる」


「ふーん」


 イレイザが後ろに下がったのを確認してから、俺は魔法陣に手を置いた。


「さあ、出よ! 我が最強のライバルよ!」


 

 パシュゥ!



 光り輝く魔法陣。

 中央には大きなメタリックボディーのアイツ。


「来た!」


「なんだ、皇帝スライムじゃない」


「‥‥‥王様は皇帝だったのか?!」


「ダーリンたち、私を無視してコイツばっかり倒してたわね」


 そういえば、イレイザの守っていた『勇者の剣』のあるダンジョンに居るんだよな。



 ドゴンッ!



「ふ‥‥‥。経験値もちゃんと入ったし、言うことなしだ」


 投げつけた石を回収して、俺は魔法陣に手を付いた。

 

「さあ、どんどんいこうか」


 

 祠に籠りながら、レベル上げが出来るなんて最高だ。

 せめて『天使ちゃん』を軽く倒せるくらいまで、強くなりたい。

 そうすればここから出ても良いだろう。


 俺はもう『王様』改め『皇帝』への興味しか頭になかった。

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