74、女神様の祠



 女神様の造ったという、結界の張られた祠。

 目覚めた俺は、暫く滞在するであろう祠の中を物色していた。


「ダーリン、こっちには何もないわよ」


 大きな胸や尻が、こぼれ落ちそうな布地の少ない服を着た色欲のイレイザ。

 後ろを向いているので、尻から生えた尻尾がフリフリと動いているのが見える。


「‥‥‥ダーリンって言うの、やめてくれない?」


「あんなに激しく愛し合ったのに、照れないでよ」


 振り向いて妖艶に笑うイレイザ。

 ‥‥‥イレイザ曰く、俺はもの凄かったらしい。


 ──まるで記憶にない。


 『魔王の元気』の影響があるとはいえ、全く覚えてないなんて事があるんだろうか?

 やっておいて記憶にございませんなんて、男としてどうなんだと思うので、イレイザ本人には言えないのだが‥‥‥。

 

「‥‥‥イレイザはもう帰っていいんだよ、

色々ありがとう」


 そう、ここに隠れるのは俺だけでいいのだ。


「駄目よ、私が帰ったら何かのキッカケでバレちゃうかもしれないよ? こう見えて私は魔王軍の四天王の1人な訳だし。それに私が帰ったら、誰がダーリンの世話をするのよ?」


「自分の面倒くらい見れるから」


「ダーリン‥‥‥もしかして、私を遠ざけようとしてる? やっぱり身体目当てだったの?!」


 両手で顔を抑えて、泣く仕草をするイレイザ。

 ‥‥‥なんだろう、物凄く嘘臭い。


「‥‥‥わかった。とりあえず、祠の中をもう少し探索しようか」


「よし、私も頑張るね」


 イレイザは尻尾と尻をフリフリしながら、笑顔で別の部屋に消えた。





 祠の中には部屋が三つあった。

 入り口から入ってすぐ、女神様そっくりの石像が置かれた部屋。

 自分で造った祠に自分を祀るとは、なかなか凄い趣味だ。

 次は石像の部屋の右手にあるベッドが置かれた、俺たちが寝てた部屋。

 この部屋はベッドとテーブルしかない。

 生活スペースかな?

 そして最後は石像の部屋の左手、何も家具などが置かれていない広い部屋。

 床にデカデカと丸い模様が描かれていた。

 そしてその模様の上に、これ見よがしに置かれたメモ。


「ダーリン、これ女神からの手紙かしら?」


「‥‥‥手紙?」


 先に部屋に入っていたイレイザが、メモを拾って俺の方に持ってきた。





【ユウカとサトシへ】

これを読んでるという事は、色々知ってしまったのであろうな。

妾が無事かどうか分からんが、諦めずに頑張るのじゃぞ!

この祠は好きに使ってくれ。

あとこの魔法陣は、この世界の物質ならなんでも召喚できる、妾の最強最高の魔法陣じゃ。

本当はあまり使って良いものではないのじゃが、この祠に居るという事は其方らの敵はおそらく奴なのであろうな‥‥‥。

ゆえに使用を許可する。

其方らのMPがあれば使用できるはずじゃ。

コツはいらん、手を添えて欲しい物を想像したら使える。

武器でも防具でも、なんでも出して使え。

もしこの祠に逃げ込んでおるなら、食糧も召喚可能じゃからな。

なんとか奴を追い詰めてくれる事を願っておる。




 女神様の話し方が『女神の使い』の時のものだから、かなり前に用意したメモなのかもしれないな。

 ‥‥‥というか、そんな事よりなんでも召喚可能な魔法陣ってやばくね?


「ダーリン、なんて書いてあったの?」


「‥‥‥なんか物凄い魔法陣らしい」


 この魔法陣があれば、ダンジョンに行かなくても『勇者の剣』とかも手に入ったのかな?

 ‥‥‥チート過ぎでしょ。


「使ってみましょうよ」


「‥‥‥そうだな、試してみようか」


 俺は魔法が使えないというハンデがある。

 もしかしたら、魔法陣も使えないかもしれない。


 ──えっと、手を添えて欲しい物を‥‥‥。



 シュンッ!



「出来た!」


「あら、いい匂い」


 魔法陣の真ん中に出てきたのは、器に入った美味しそうなシチュー。

 まだユラユラと湯気がたっている。


「‥‥‥最強にチートだが、これってどこから来たんだ?」


 丁度器に入れて、食べようとしてた誰かの食事を盗んでるのか?!

 ‥‥‥なんか、後ろめたいチート魔法陣だな。


「こんな時だし、そんな事気にしてたら駄目よ。私もお腹空いたしもう一つ出してよ」


「‥‥‥ああ」


 もう一度試すと、また同じ器に入ったシチューが出てきた。


「ありがとうダーリン。さ、食べましょ!」


 器を両手で持ち、美味しそうにシチューを飲むイレイザ。

 ‥‥‥魔族ってご飯食べるんだな。


 なんか後ろめたいが、祠に滞在中の食糧はこれでなんとかなるだろう。

 後はこの魔法陣を使って、なんか凄い事出来ないかな?

 どうせ籠ってるだけなんだから、色々試そう。


「ダーリン、食べないの?」


 盗んでしまった人、本当にすいません!

 この際、美味しくいただきます。

 

「いただきます!」






 


「‥‥‥おかしい。客用のシチューが2つ足りないね‥‥‥疲れてるのかな?」


 遠い地で、首を傾げて考え込むキツめの顔をした美しい女性がいた事を、俺は知るよしもなかった。

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