73、色欲に溺れた男



『──サトシ、聞こえる』


 ‥‥‥はい。

 最近よく出てきますね。


『今もコッソリだから、あまり時間はないわよ』


 またそのパターンですか?


『無事に祠に辿り着いたみたいで良かったわ』


 ‥‥‥俺、祠に居るんですか?


『魔族がサトシを抱えて、祠に連れ込んでくれてたわよ。作戦は成功ね』


 ‥‥‥いえ、作戦は失敗です。

 『天使ちゃん一号』に見つかって、戦闘になってしまいました。

 

『それは大丈夫。あの時、あいつは完全にウメとユウカしか見てなかったわ』


 ‥‥‥そんな事あり得ますか?!

 殺害命令を出してる相手を見つけて、攻撃を開始してるのに?!


『‥‥‥あいつはそういう奴よ。まんまと罠にハマって、サトシを見失ったって焦ってたわ。ざまあないわね』


 ‥‥‥敵ながら情けない。

 レイラと魔王は無事ですか?


『2人ともあいつの気を引くために、かなり頑張ってくれてたわ。今度会った時、ちゃんとお礼を言いなさいよ』


 ‥‥‥俺も見たかったな。


『凄い色っぽかったわよ。私までドキドキしたわ』


 ‥‥‥本当に見たかった。


『あ、そうそう。2人には作戦の成功と、サトシが無事に祠に着いた事を伝えといたから、安心してちょうだい』


 何から何まですいません。


『それと暫くサトシには接触するなって、言っといたわ』


 なんでです?


『その祠はこっちから見えないように、結界を張ってあるの。そんな所にウメやユウカが入ったら、急に見えなくなるから怪し過ぎるでしょ? 転移魔法でも駄目よ、魔力の痕跡を調べられるから』


 それはわかるんですが、俺は『天使ちゃん一号』に勝てました。

 もう隠れる必要がないのでは?


『見てたわ‥‥‥あなた色々凄かったわね』


 それって、ちゃんと褒めてます?


『‥‥‥まさか勝つと思ってなかったから、ビックリしたのは本当。でも、事を構えるにはまだレベルが低すぎるわ。あいつの『天使ちゃん』は1,000号までいるけど、大軍で攻めて来られても勝てる自信ある?』


 あんなのが1,000体も?!

 無理でしょ、体力がもたない。

 ‥‥‥『天使ちゃん』をそんなに従える黒ずくめの男は、やっぱり神様なんですか?


『あいつをそんな大それた名称で呼びたくないわ』


 ‥‥‥とりあえず女神様が、そいつを嫌いってことは理解しました。


『本当はまだ教えたくなかったんだけど、どうせウメに聞いたらわかっちゃうし、レイラも気付きだしてるもんね』


 流石レイラ。

 頭の出来が俺とは段違い。


『簡単に言うと、あいつはこの世界を作った創造主よ』


 そういう存在を人は『神』と呼びます。

 

『この世界に神なんて存在しない。私が認めない』


 ‥‥‥認めないと言う、あなたは『女神』です。


『私はあいつに任命されただけよ。‥‥‥まあ、今は管理責任を問われて、あいつのお世話係に降格されてるんだけどね‥‥‥』


 神様のお世話とはまた凄い。


『だから、あいつは神じゃないわ』


 はいはい。

 ところで『天使ちゃん一号』が、女神様とそっくりだったんですけど何故ですか?


『‥‥‥うん。まあそういう事よ』


 うん、どういう事ですか?


『あんまり言いたくないんだけど、それどうしても聞きたい?』


 ‥‥‥どうしてもではないですけど。


『じゃあ‥‥‥』


 やっぱり、どうしても聞きたいです。

 気になって夜も眠れません。


『あっそう。‥‥‥まあ良いわ。私はあいつに造られた『天使ちゃん五号』なの』


 ‥‥‥ほう。


『あいつに造られたってのが、凄く嫌で納得出来ない』


 天使ちゃん達は、皆んな女神様と同じ顔なんですか?


『そうね』


 女神様も強いの?


『そうよ』


 天使ちゃん一号は全然話してくれませんでしたが、女神様はなんで話せるの?


『天使ちゃんシリーズは、本来自我をもたない。あいつの命令だけを忠実に遂行するために存在するの。たまにバグで私みたいなのが生まれるみたいよ‥‥‥』


 ‥‥‥なるほど。

 女神様にも色々あるんですね‥‥‥。


『私が嫌なのは、あいつに造られたっていう事実』


 創造主はそんなに嫌な奴なんですか?

 

『‥‥‥会ったらわかるわ。本当に気持ち悪い。嫌悪感しか湧かないわ‥‥‥あ! やばい、起きたみたい!』


 創造主様?

 寝てたの?!

 

『そうよ、あいつはほとんど寝てるの。早くご飯の用意をしないと!』


 ご飯?

 お母さんみたいですね。


『私は今、あいつの世話係だから。後は掃除、洗濯、夜伽と大忙しよ! あと啓示がバレるとまずいから切るわよ!』


 夜伽って‥‥‥。

 女神様、大丈夫?


『サトシはそこの祠に暫く居なさい。絶対に出ない事! また連絡するから。‥‥‥私の心配までありがとう』


 きつかったら、すぐ助けに行きますから!


『‥‥‥サトシは優しいわね。じゃあまた連絡するから────』


 ‥‥‥女神様も大変だな。

 夜伽とか‥‥‥創造主は嫌な奴か────。



 



 ムニュ。



 柔らかい。

 


 ムニュムニュ。



 そして暖かい。

 幸せだ。

 


 ムニュムニュムニュ。



 ‥‥‥ん?

 なんで柔らかい?


 

 ガバッ!



 勢い良く身体を起こすと、そこは見慣れない部屋。

 ベッドに寝かされていたようだ。

 

 ──確か女神様曰く、ヴィラルが祠に運んでくれたんだったよな?


「‥‥‥もう少し寝ましょうよ。‥‥‥ムニャムニャ‥‥‥」

  

 女性の声。


「‥‥‥えっ?」

 

 何故か同じベッドに見知らぬ裸の女性。


 ──なんで裸?!


 いや待て、こいつ見たことがあるぞ。


 ──色欲のイレイザ?!

 

「‥‥‥何故俺まで裸なのだろう」


「ダーリン、もう起きるの?」


 色っぽい動作で、色欲のイレイザが上半身を起こした。

 丸見えだ!

 さっきの柔らかい物体の正体が分かった。


「‥‥‥色欲のイレイザ、ここで何をしている? ヴィラルは何処行った?」


「ヴィラルは魔王様に報告に帰ったから、私が代わりにここまで運んであげたんじゃないの」


 俺の胸の辺りをサワサワと触る色欲のイレイザ。


「それはありがとう。‥‥‥で、なんで裸でここにいるの?」


 俺の胸を触る色欲のイレイザの手を、そっと払いのけながら距離を取る。


「ダーリン、女に言わせる気なの?」


「‥‥‥ダーリンとは? 俺‥‥‥何かしました?」


「昨日は、激しかったわ」


 艶っぽいしなを作りながら、抱きついてくる色欲のイレイザ。

 確かに『魔王の元気』により、とんでもない状態ではあったが‥‥‥。

 ‥‥‥まさか?


 ──やっちまった?!




 創造主の事をとやかく言う権利は、俺にはないのかもしれません。

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