72、血だらけの決着



 目に見えるほどの結界を張り、光り輝く『天使ちゃん一号』。

 ヴィラルの変身も解け、完全に手詰まりな俺たち。


「クソッ‥‥‥どうする?」


 イケメン魔族に戻ったヴィラル。

 もはや、攻撃を受け止めることすら出来ないだろう。


「‥‥‥ヴィラル、下がってろ。その状態で攻撃されるとやばいだろ」


「んなダセェこと出来るか!」


 言うと同時に『天使ちゃん一号』に襲いかかるヴィラル。

 

「ウラァッ!」



 カンッ!



 ヴィラルの振り下ろした拳は『天使ちゃん一号』の顔の前で止まる。

 ‥‥‥結界!


「‥‥‥」


 まるでダメージを受けてない『天使ちゃん一号』は、両手で大剣を振りかぶりヴィラルを狙っている。


 ──まずい!


 ‥‥‥何か援護を!

 俺の攻撃も効かない事は証明済み。

 ここはこれで!


「くらえ! サンドアタック!」


 

 ズシャーーーッ!



 投げたのは大量の砂。

 大量の砂は『天使ちゃん一号』の結界にあたると、モクモクと煙幕みたいになっている。

 

「ヴィラル、今だ下がれ!」


 砂の煙幕の中から、転がるように出てくるヴィラル。

 攻撃はかわせたようだな。


「‥‥‥クソッ‥‥‥ペッ! ペッ! テメェまた砂なんか投げやがって!」


 ヴィラルの目は真っ赤。

 砂が口にも入ったのだろう、唾を吐きまくっている。

 仲間にも当たる、なんて恐ろしい技だ。

 ‥‥‥なんかすまん。


「‥‥‥残念だが、俺は本当に役立たずかもしれねえ」


 地面に片膝をついたままのヴィラル。

 

「ヴィラル、話がある」


「‥‥‥なんだ?」


 俺は覚悟を決めていた。

 

「俺は人の姿を捨てる!」


「‥‥‥どういうことだ?」


「今から起こること、誰にも言わないでくれ!」

 

「なんかわからんが、魔王様に言わなきゃいいのか?」


 俺はコクリと頷いた。


「俺も今から変身する。人にはとても見せられる状態じゃなくなる‥‥‥」


「テメェ、変身出来るのか?!」


 またコクリと頷く俺。


「‥‥‥この手だけは使いたくなかった‥‥‥」


「‥‥‥テメェ、死ぬ気じゃねえだろうな!」


 ‥‥‥死にはしない。

 人としての尊厳が死ぬだけだ!

 

「ヴィラル、頼んだぞ! 絶対に秘密にしてくれよ!」


 俺は袋から『魔王の元気』を5本取り出し、全ての蓋を開け放った。

 

「‥‥‥おいおい、何すんだ?」


「さらばだ、人としての俺!」



 ゴクゴクゴクゴクゴクッ!



「プハーーッ!」


 一気に全て飲み干した。

 身体が熱い。

 そして、この高揚感がたまらない!

 

 ──キタぞ!!


「‥‥‥フハハハハッ! 俺は無敵だ!」


 みなぎる『力』。

 止まらない高揚感。



 ブシューーッ!



 そして噴き出す鼻血。


「‥‥‥おいおい、テメェ‥‥‥大丈夫か?!」


「‥‥‥下がってろヴィラル。変身した俺は、いつもの優しい俺じゃない。何をしでかすか自分でもわからん」


 振り返った俺を見て、ヴィラルは目を見開いた。

 よほど狂気的な顔をしているのだろう。


「‥‥‥テメェ‥‥‥これは、変身じゃねえ。‥‥‥変態だ!」


 ヴィラルの視線は、俺の下腹部を捉えていた。


「フハハハハッ! 最強の力を手に入れた俺に敵うと思うなよ『天使ちゃん一号』!」


 対峙する、大剣を構えるゴスロリ少女と、下腹部が凄いことになって鼻血を流す変態。


「‥‥‥」


 相変わらず無言の『天使ちゃん一号』は、大剣を構え攻撃体制になった。


「覚悟しろ!」


 袋から適度な石を取り出す。


「くらえ!」


 投げられた石はあまりのスピードにより、炎に包まれている。



 スバァーーーンッ!!



 石はそのまま『天使ちゃん一号』を貫き彼方へ消えた。



「‥‥‥戦闘不能と判断、戦闘離脱」


 『天使ちゃん一号』は腹に穴が空いた状態だが、くるりと振り向くと凄いスピードで空に消えた。


「追わねえのか?!」


「‥‥‥可愛い娘を殺す気はない」


 『天使ちゃん一号』が消えた空を見つめる血まみれの俺。


 ──激しい戦いだった。


「‥‥‥テメェ‥‥‥いろいろ凄えな」


「‥‥‥今の俺は最強だ」


「確かにそれはそうかもしれねえが、俺にはとてもじゃねえが真似できねえ‥‥‥」


 なんか失礼な意味で言ってないか?


「フハハハハ! さあ黒ずくめの男も、このまま葬りに行ってやろうではないかっ‥‥‥‥‥‥ぐっ!」


 激しい目眩。

 ‥‥‥なんだ?


「おい、どうした? 大丈夫か?!」



 ブシューーーーー!



 突然、目の前が真っ赤に染まった。

 

「変身の‥‥‥反動、か‥‥‥」


 俺はそのまま大の字で地面に倒れた。

 遠のく意識の中、ヴィラルの声が聞こえる。


「‥‥‥それは変身じゃねえ、変態だ。ゆっくり休め」




 ──失敬だぞ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る