71、本気出せ



「オラァッ!」


 ゴスロリ少女『天使ちゃん一号』の振り下ろす大剣を、両腕で受け止める悪魔的なヴィラル。

 

「‥‥‥凄い」


 俺も『天使ちゃん一号』の大剣の撃ち込みを2度もらっているが、とてもじゃないが受け止めるなんて無理だ。

 

 ──この悪魔、本当に強い。


「テメェ、感心してねえで攻撃しろ! 俺はもうかなりギリギリだ!」


 そうなのか?

 ‥‥‥かなりいい勝負をしているように見えるんだが。

 ヴィラルの攻撃は『天使ちゃん一号』を何度か捉え、ダメージを与えているように思う。

 それに比べて俺の投石は、ほぼノーダメージなのです‥‥‥。


「うりゃ!」



 カンッ!



 本気で投げた石。

 『天使ちゃん一号』に当たった石は、変な音と共に弾かれてます。


「テメェ本気でやれ!」


 受け止めていた大剣を払いのけ、俺の横に下がって来たヴィラル。


「おもいっきり本気だ」


 悪かったな弱くて。


「嘘つけ、魔王様の仮面を壊した時はもっとえぐかったろうが!」


「‥‥‥ああ、あれはドーピングしてたから」


 『魔王の元気』の効果で攻撃力2倍になっていた。

 ‥‥‥いろんな意味で、出来ればあまり使いたくない禁断の技。

 

「‥‥‥なんかよくわかんねえが、もうあんまり時間がねえぞ。俺の変身はそんなに長くもたねえ」


「そうなの?!」


「フルパワーで戦い過ぎちまってる。テメェも出し惜しみしてねえで、今のうちに本気出せ。変身がとけたら、俺はクソの役にも立たなくなるぜ」


「‥‥‥わかった。ヴィラル、俺がどうなっても、皆んなには内緒にしてくれよ!」


「‥‥‥俺はテメェが何を言ってるのか、時々分からなくなるんだが。まあいい、ほんじゃ頼むぜ、前衛は任せろ!」


 そう言うと、ヴィラルは俺から離れ『天使ちゃん一号』に殴りかかった。

 なんかこいつ男前だな‥‥‥。

 見た目は悪魔のくせに。


 ‥‥‥さて。

 

 ──いただきます。


 袋から取り出した小瓶の蓋を開け、一気に美味しくいただきました。

 

 ──キタぞっ!


 このメラメラとする感覚。

 攻撃力2倍の効果。

 別の効果もじわりとキタぞ‥‥‥。

 


「くらえ!」



 ドグシュッ!



 俺の投げた石は、あきらかに先程までとは違い『天使ちゃん一号』の身体をのけぞらせた。


「テメェやるじゃねえか! ガンガン行け!」


「もちろんだ!」


 さすが『魔王の元気』。

 今の俺は悪魔的ヴィラルより、攻撃力が高そうだ。


 ──これならいける!




「オラオラッ!」


 数ターン攻撃を繰り返した。

 『天使ちゃん一号』の斬撃はヴィラルがなんとか受け止め、攻撃力の高い俺が遠くから狙い撃つ。

 隙があれば、ヴィラルも攻撃を入れる。

 なんとなく良い連携。

 ‥‥‥まあ俺は投げてるだけなので、頑張ってるのはほぼヴィラルなのだが。


「まだ倒れないのか?!」


「こいつ体力もやべえぞ!」


 かなりダメージを与えているはずなのだが、無表情な為どれくらい効いてるのかよくわからない。


「‥‥‥」


 ──ん?


 『天使ちゃん一号』が、ヴィラルから少し距離を取るように後ろに下がった。


「ヴィラル気をつけろ、何かする気だぞ!」

 

「おう!」


 『天使ちゃん一号』は目を閉じると、光るオーラのようなものを身体中から出した。

 身体の周りを淡い光が包んでいる。

 

「‥‥‥やべえ」


「攻撃してくるのか?!」


「あいつ結界を強くしやがった」


「結界?」


「テメェの初めの方の攻撃、弾かれてたろ? ある程度の攻撃力がねえと、結界を張ってる奴にはダメージが通らねえんだ。あんな視認できるほどの結界とかやべえ」


 そういえばドーピング前の攻撃は、カンッ!とか変な音がして弾かれてたな。


「とりあえず攻撃してみる!」



 カンッ!



「あっ‥‥‥」


「‥‥‥まずいな」

 

 投げた石は見事に弾かれました。

 攻撃が当たらないのでは、勝ちようがない。

 俺の攻撃が通らないのだ、ヴィラルの攻撃もおそらく‥‥‥あっ!


「ヴィラルこっち来い!」


「なんだ急に?!」


「これを飲め!」


 近づいて来たヴィラルに、見慣れた小瓶を手渡した。


「‥‥‥なんだこれは?」


「攻撃力が2倍になる! 飲んで殴りまくれ!」


「‥‥‥テメェそんなもん持ってやがったのか!」


 蓋を開け、口に瓶を近づけるヴィラル。

 

「いろんな副作用があるが、俺は内緒にしといてやるからな。頑張れよ!」


「‥‥‥なんだ副作用って‥‥‥飲むのが怖くなってきたんだが」


 手を止めるヴィラル。


「大丈夫、人としての尊厳を失うだけだ! お前は魔族だから気にせず一気に飲み干せ!」


「‥‥‥テメェは飲んでるのか?」


「現在進行形でメラメラだ!」


「‥‥‥クソが!」


 

 ゴクリッ!



 ヴィラルの喉が鳴った。

 男らしい一気飲み。

 ‥‥‥悪魔的な身体にナニがあるのかは知らんが、どうなっても魔王には黙っててやるからな。

 少ししたらお前もメラメラだ。




「‥‥‥グボァッ!!」


「‥‥‥え?」


 突然、口からおびただしい何かを吐き出し、崩れ落ちるヴィラル。


「テメェ! なんだこれは‥‥‥オエーッ!」


「‥‥‥大丈夫か?!」


「大丈夫じゃねえ! クソ不味い!」


 不味いだけ?!

 地面を転がるヴィラル。

 ‥‥‥魔族には効果が無いのか?!


「‥‥‥あ!」


「げっ!」


 ヴィラルの身体は発光したと思ったら、元のイケメン魔族に戻っていた。


「‥‥‥嘘だろ」


「やべえ、今のダメージで変身が解けやがった!」


 ダメージまで入ったの?!


「ヴィラル、もう一度変身だ!」


「できるわけねえだろ!」




 良かれと思った行動が、裏目に出て大変な事態を生む。

 あるあるである。

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