67、パンツは最後の砦



『───あ、あ、あ、聞こえますか? あー、聞こえますか。応答せよ、応答せよ』


 ‥‥‥うるさいな。

 俺は眠いんだ、静かにしてくれ。

 

『おーい! サトシ応答せよ、応答せよ!』


 ‥‥‥聞こえてますよ。

 女神様久しぶりですね。


『そうね、久しぶり』


 あの変なおじいちゃんみたいな話し方は、やめたんですか?


『あれは女神の使いの時の話し方よ。今の私は正真正銘の女神だから、この話し方なのよ』


 ちゃんと使い分ける気があったんですね。


『女神は威厳が大事なのよ』


 そんな事より、今どこで何やってんですか?


『そうだわ、こんなくだらない話をしてる場合じゃなかった。あまり時間がないの』


 時間がない?


『サトシ、あなたウメまでたぶらかしたわね!』


 ‥‥‥何言ってるか、まるでわかりません。


『本当に時間がないのよ、早急に理解しなさい』

 

 俺は賢くないんですよ。

 ウメって誰?


『今、イチャイチャしてるんでしょ?』


 ‥‥‥確か、今俺は『魔王の元気』の過剰接種により気絶していますが?


『ウメが寝てるサトシに、じゃれついてるわ』


 ‥‥‥まさか、魔王の本名?!

 いつの時代の人ですか?


『まずい事になったわ』


 それは本当にまずいです。

 女神様‥‥‥俺はパンツを履いてません!

 貞操の危機です!


『‥‥‥あなた何やってたの?』


 価値ある実験です。


『ユウカだけでもお怒りだったのに、ウメにまでちょっかい出して‥‥‥サトシの殺害命令が出たわ』


 全く理解できません。

 ‥‥‥とりあえず起きて、パンツ履いて良いですか?


『真面目に聞きなさい! とにかく今すぐ逃げるのよ』


 逃げるって何から?

 どこに?

 

『時間がないわ、私は自由に動けない状況なの。この啓示も隙を見てなんとかしてるのよ、感謝しなさい!』


 女神様は大丈夫なの?


『‥‥‥あまり良くないわ。でもサトシが生きてさえいれば、なんとかなるはず。その街からずっと東に迎って進むと森がある、そこの中に私がこっそり作った祠があるから、そこに隠れてなさい。そこなら安全なはずよ』


 何から逃げるんです?

 敵の魔王は、今俺とイチャイチャしてるんでしょ?


『サトシを殺したいのは、もちろんウメじゃないわ。あなたを狙ってるのはもっとヤバい奴よ。後でちゃんと説明するから、とりあえず起きて逃げなさい』

 

 ‥‥‥そういうの凄く嫌なんですけど。


『後、村にある私の家の場所覚えてる?』


 はい。


『机の下に隠し部屋があるから、そこの宝箱に入ってる服を着せて、ウメとユウカを海にでも行かせなさい。サトシはその間に1人で逃げるのよ』


 ‥‥‥女神様、もう駄目です。

 話が入って来ません。


『ウメに話せば、なんとなくわかってくれるはずよ。とにかく急いで逃げる事。あいつはネチネチとしつこいから気をつけて!』


 あいつってヤバい奴?


『そうよ、じゃあ後はなんとか頑張って! 起きたらすぐ逃げなさいよ。もう【天使ちゃん一号】がサトシを狙って動き出したわ』


 ‥‥‥天使ちゃん??

 何そのふざけた名前。


『‥‥‥名前はいいから。じゃあ頑張って!』


 あ、待って!

 まだ聞きたい事が‥‥‥。






「‥‥‥ん?」


 宿屋のベッド。

 目の前には血に染まる美しい顔。

 ‥‥‥魔王ウメだ。


「大丈夫か?」


「なんで血まみれなんですか?!」


 どんなハードプレイをしてらっしゃったのですか?!


「お前が俺の顔を見て、鼻血を出したからだろうが。噴水のように出てたぞ」


 なるほど、俺の鼻血をもろに被ったのですね。

 何故、血まみれのままでいるのかという、疑問は残るが‥‥‥。


「‥‥‥なんで横に寝てるの?」


 身体にピッタリと引っ付いてる魔王。


「俺の勝ちだろ? 敗者は慰み者になるのが世の道理」


 俺たちはいったい何に勝ち、そして何に負けたんだろうか。


「あの、とりあえずパンツ履いて良いですか?」


 やはり剥き出しで寝てました。


「いいぞ、ちょうど目のやり場に困っていたんだ。お前は部屋ではいつもその格好なのか?」


「違います」



 イソイソとパンツを装備する俺。

 こんな状況だが、頭の中は女神の啓示でいっぱいだった。

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