68、水着の魔力



「‥‥‥女神は俺にも、これを着ろと?」


 レイラと合流した俺と魔王は、転移魔法でサクッとポキ村の女神様の家にいた。


「魔王ならわかるはずだって言ってましたよ」


 女神様が言った隠し部屋の宝箱の中身は、布地の限りなく少ない赤い水着だった。


「‥‥‥あいつめ」


 俺が誰かに命を狙われていると話すと、迅速に行動してくれた魔王。

 魔王は『ヤバい奴』の存在を知っているのだろう。


「着てくれるんですよね?!」


 超絶美人な魔王ウメとレイラのコンビ。

 そのビキニ姿には興味しかわかない。


「‥‥‥今回だけだぞ」


 やった、着るんだ。

 

「多分お前の命を狙ってる奴は、俺とレイラがこの服で動きまわれば、注意を引けるはずだ」


 ‥‥‥確かに気持ちはわかるが、そいつ色々大丈夫なのか?


「レイラと魔王は狙われないのか?」


 敵の目をそちらに向けたら、狙われるのは俺じゃなくて2人になってしまうのでは?


「それは大丈夫だ。そいつは見てるだけだから、俺たちは絶対に殺されない」


「‥‥‥見てるだけ?」


「そいつは基本的に監視してるだけだ。おそらく女神は、ニアが祠に隠れる所を見られないようにしたいんだろう。隠れる瞬間を見られたら意味がないしな」


 それでお色気作戦ですか?!

 ‥‥‥そいつ馬鹿なのかな。


「そもそもそいつ誰なの?」


「もうなんとなく気付いてるだろうが、そいつは女神より上の存在だ。名前は知らん」


 女神様より上の存在って‥‥‥。


「魔王は面識があるの?」


「俺をこっちの世界に召喚したのはそいつだからな」


「え? 召喚してるのは女神様じゃないの?!」


「召喚してるのは女神みたいになってるが、そいつが俺とレイラを召喚してるのは間違いない。俺を今の魔王にしたのもそいつだ」


 女神様はいらない子じゃないか。


「魔王さん、もしかしてその人って黒い服を着た背の高い男の人ですか?」


 布地の薄い水着を掴んで黙っていたレイラ。

 そういえば大分前に、レイラからそんな話を聞いてたような‥‥‥。


「レイラ、多分そいつだ。召喚された時に見たのか?」


「はい。やっぱりその人か‥‥‥」


 そのまま何かを考え込んで黙るレイラ。


「‥‥‥待ってね、そんな偉い人がなんで俺を狙うんだ?」


 そもそも俺はやりたくもない魔王討伐などなど、レイラを助けてそいつの役に立っていたんじゃないのか?


「ストーリーをぐちゃぐちゃにして、俺とレイラを手込めにしたニアが許せないんだろうな」


「‥‥‥なにそれ」


「とにかく急ごう。『天使ちゃん一号』がニアを殺しに来るんだろ?」


 女神様はそう言ってた。


「そのふざけた名前の人、俺じゃ勝てないくらい強いんですか?」


「恐ろしく強い。俺でも勝てるかわからん」


 名前とのギャップよ。


「ニア様、急ぎましょう! 私もこんな事しか出来ませんが頑張ります!」


 水着を掴み見つめてくるレイラ。

 水着姿が楽しみで仕方がない!


「よし、俺とレイラは女神の言う通り海に転移する。ニアは祠へ急げ」


 ‥‥‥あれ?


「待った。俺も海に行くぞ?!」


「なんでニアまで海に来るんだ。さっさと祠に向かえ」


「嫌だ! 俺も海に一度転移する!」

 

「‥‥‥ニア様、私たちの水着姿が見たいだけですよね?」


 レイラ、なんてことを言うんだ?!


「違うぞレイラ、断じて違う! 2人が心配なだけだ!」


「ニア様、今度見せてあげますから、今は急いで逃げてください」


「‥‥‥男はアホばっかりだな」


 呆れている魔王。


「じゃあせめて‥‥‥せめて、ここで着替えてから転移してくれ!」


 外で着替えるなんて危ないだろ?


「‥‥‥やっぱりそれ目当てなんだな。ニア、俺も今度見せてやるから今は急いでちゃんと逃げろよ」


「ニア様、気をつけてくださいね!」


 魔王の転移魔法で2人は消えた。


 ──着替えることもなく。




「チキショウ!!」


 崩れ落ち、拳で床を殴る俺。


「自分だけ‥‥‥自分だけ良い思いしやがって! 許さん、許さんぞ黒ずくめの男め!」


 

 俺は黒ずくめの男を倒そうと心に誓った。

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