52、魔王の前で『魔王の元気』を飲む男



「すまない、お前のターンだったな」


 こちらを向く魔王。


「終わりました?」


 座って体力の回復をしていた俺。

 斬られた脇腹はまだかなり痛い。

 道具袋に入れていた『魔王の元気』を飲みながら、魔族達の言い争いを観戦してました。

 やっぱり回復はしないようだ。

 まるで役に立たないアイテム。

 ‥‥‥立つのにね。

 『魔王の元気』を飲んで魔王と戦う、こんなレアな経験は出来ません普通。


「さあ、かかってこい」


 剣を構える魔王。


「色々考えても仕方ない、今度は思いっきり投げる!」


 結局、俺にはこれしかないんだよ。


「くらえ!」


 大きく振りかぶり、魔王の顔を狙って投げる。



 ドギャンッ!



「くっ‥‥‥なんだと?」

 

 ‥‥‥いつもより石が指に掛かった!

 投げた石のスピードも上がり、威力も上がった気がする。

 石は魔王の鉄仮面を打ち抜き破壊していた。


「‥‥‥お前、さっきまでは手を抜いていたのか」

 

 そんな余裕あるわけないだろ。

 

 ──レベルが急に上がった?


 俺はステータスウインドウを開いた。



【ニア】

レベル583

力3516 ↑

素早さ1699

身の守り1685

かしこさ1791

魅力1656

HP 2158 / 3385

MP2019



 レベルは変わってない。

 ‥‥‥ん、何だ? 力の横に変なマーク。

 あ、まてっ! 力が2倍になってます!


「‥‥‥まさか?!」


 俺は『魔王の元気』のビンに書いている文字を読んでみた。



【〜魔王の元気〜貴方の健康を損なう恐れがあります。用法・用量を守って正しくお使い下さい。身体に異常がある時は速やかに使用をやめ、医師にご相談下さい】



「わかんない!」


 だが間違いなくこいつのおかげだろう。

 チートアイテムじゃないか、誰だ作った奴は!

 

「お前、やはり油断ならん奴だな」


 鉄仮面を破壊された素顔の魔王。

 駄目です、油断して下さい。

 

「違う、今のはまぐれで──」


 魔王の素顔。

 ‥‥‥え? 女性だ。

 黒髪のロングヘアー。

 この世のものとは思えぬ絶世の美女。

 ‥‥‥あ、やばいこの感じは!


「‥‥‥ぐはっ!」


 俺は膝から崩れ落ちた。

 こいつレイラを上回る魅力を持ってるかもしれない。



 ‥‥‥ポタッポタッポタッ。



 ん?

 地面が血に染まっている。

 やばい、どこかやられたのか?!


 ──これは‥‥‥鼻血!


 斬られても出血しないが、美人を見たら鼻血が出ました。

 ‥‥‥どうしよう、物凄く恥ずかしい。


「‥‥‥お前、大丈夫か?」


 魔王に心配されました。


「卑怯だぞ! その攻撃は卑怯だ!」


「俺は何もしてない。勝手にダメージをくらうな」


 全くその通りだ。


「次は俺のターンだ、そろそろ攻撃していいか?」


 やばい、この状態で攻撃なんてされたらまともにくらう。


「そっちの攻撃はもう終わりだ、こちらはもうダメージを受けた! 今度はこっちのターンだ!」


「だから俺は何もしてない」


 呆れ顔の魔王。

 くそ、効くかわかんないがこっちもやってやる!

 

「魔王! これを見ろ!」


 這いつくばりながら、血で染まったマスクを投げ捨てた。


「‥‥‥な、なんだと!」


 崩れ堕ちる魔王。


 ‥‥‥効いた!

 鼻血を流すイケメン。

 なんてマニアックなんだ。

 

 ──今ならいける!


 魔王と俺には決定的な違いがある。

 そう、俺は毎日レイラに鍛えられている。

 俺には最強の回避魔法があるのだ。


 瞼を薄く開け白目になる俺。

 これで全てがぼんやり見える!


「くらえ! サンドアタック!」



 ズシャーーーッ!



「テメェ、またかよ!」


 後方でヴィラルの罵声が聞こえたが、知ったことか。

 俺は全力で走って逃げる。



 ────逃げる男

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