51、レベル100の魚は捌けない



 斬られた。

 脇腹から物凄い痛みが脳に届く。


「‥‥‥ぐっ」


 吹き飛ばされ、地面にうずくまりながら斬られた箇所を確認する。

 剣で斬られたんだ、血が大量に出てるはず。

 止血しないと血を流しすぎたら動けなくなるって、なんかの話で読んだことがある。

 それ以前に内臓とか斬られたら死んじゃう?

 やばい、頭が混乱する。

 落ち着け、まずは状況確認だ!

 

「‥‥‥‥‥‥あれ? キレてないですよ」


 物凄く痛いが、血は出てない。


「流石に頑丈だな」


 恐ろしい鉄仮面魔王が、剣を構え直してこちらを向いています。

 

「‥‥‥その剣、カッコいいだけで切れ味悪い感じですか?」


 いつかどこかで読んだ殺さずの逆刃刀でござるか?


「お前、今までどうやってレベル上げてたんだ? ステータスの身の守りが上がったら斬撃くらい、少しは防げるようになるだろ。なんで知らんのだ」


 そうなの?!

 ‥‥‥確かにRPGの世界は、剣で斬られても身体は無事なイメージ。

 冒険中に腕が飛んでなくなる勇者とか見たくないよね。


「スライムとしか戦ってこなかったので知らなかった、教えてくれてありがとう!」


「‥‥‥お前、変わった奴だな」


 剣で斬られても切れない丈夫な身体。

 レベルの高い魚とかいたら板前さん大変だな。


「そういえば、何故俺のサンドアタックが効かなかったんだ」


「お前は俺たちがあんな砂如きで怯むと思っていたのか? 魔王軍を舐めすぎだ」


「‥‥‥後ろの皆様は、かなり疲弊してるようですよ」


 魔族達は砂が口にも入ったようで、オエーッとか言いながら唾をペッペッと吐いてます。

 我ながら、かなり嫌な攻撃だ。

 精神的にもダメージを受けそう。


「ニア、テメェふざけた攻撃すんじゃねえ!」


 ヴィラルは目が真っ赤です。


「私の美しいお肌に傷が‥‥‥」


 肌を露出してる方が悪いぞ、色欲のイレイザ。


「‥‥‥お前ら、鍛え直しだ」


 冷めた声の魔王。

 ‥‥‥魔王が鍛えてるんだ。


「違います魔王様! こんな攻撃してくる方がおかしいんです!」


「ヴィラルの言う通りです! 砂を投げるなんて聞いたことがありません!」


 必死な魔族達。

 魔王のシゴキはそんなにきついのか?!


「くどい。お前らあんな子供みたいな攻撃をくらって情けなくないのか?」


「お言葉ですが、魔王様も初見でアレを避けるのは無理ですって!」


「しつこいぞヴィラル。俺はちゃんと回避した」


 確かに魔王には全く効いてなかった。


「‥‥‥魔王様、絶対それのおかげでしょ?」


 色欲のイレイザが魔王の顔を指差している。

 ‥‥‥あ、鉄仮面!

 

「違う! 俺はちゃんと回避した」


 魔王は完全に俺に背を向けて、魔族達と言い争いをはじめてしまった。


「あの‥‥‥次、俺のターンなんですけど」



「──だから砂とか──お前らは──」


 ‥‥‥無視された。

 まだ言い争いは続くようです。




 ──今のうちに逃げようかな。

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