50、砂場の王者
魔王城の外壁に備え付けられた門。
対峙する魔王と俺。
「さて始めるか」
魔王がゆらりと攻撃の構えに入った。
細い刀のような剣をこちらに向ける。
「やっぱり戦うの?」
こっそり道具袋に手を入れ、手頃な石を掴む。
「‥‥‥お前は何しにきたんだ?」
「何って戦争を止めに」
魔王と戦いに来たわけではない。
「さっきから人間の兵士達が退却し始めたのはそのせいか」
見るとアルフォード軍が撤退を開始したようで、周りには俺たちと魔族しか居ない。
「目的は達成した」
本来の目的を見失ってはいけません。
「残念だが、こちらは四天王を2人も葬られているんだ。簡単に帰すわけにはいかんだろ、諦めろ」
さっきの牛とボルディアとかいう村を襲ったあいつ。
「そんな剣で斬られたら痛いから嫌だ!」
言いながら、隠し持った石を投げた。
完全に不意打ち。
──捉えた!
バシッ!
「石を投げてくると聞いていたが、本当に投げるんだな‥‥‥」
顔狙いで投げた石は軽々と片手で受け止められていた。
‥‥‥嘘だろ。
「お前、なんで武器を装備しないんだ?」
「うるさいな! ほっといて下さい」
こいつ次元が違う。
「‥‥‥まあいい。今度はこっちの攻撃の番だな」
あ、攻撃してくるんですね。
律儀にターン制を守らなくてもよろしいんですよ。
魔王は剣を構え姿勢を低くした。
来るか!
‥‥‥シュッ。
──消えた?!
「うわ!」
次の瞬間、俺の目の前で剣を上段に構えている魔王。
振り下ろされた剣をすんでのところでかわし、無様に後方へゴロゴロと転がる俺。
──危なっ!!
やばい、全く見えませんでした。
「よくかわしたな」
剣を構え直しこちらを向く魔王。
この人本当に駄目だわ。
「剣はずるいぞ! 素手で勝負しろ素手で!」
「‥‥‥ここはそういう世界だ。それにお前も石を投げるじゃないか」
いちいちごもっとも。
「レイラ、少しは動ける?」
後方へ転がったので、レイラの側にいます。
「はい、一緒に攻撃ですね!」
「いや、あの人はやばい。頑張って隙を作るからいけそうなら、走って逃げて」
「ニア様は?」
「もちろん逃げるつもり。俺も後で行くから先に魔法陣で城に帰ってて」
「‥‥‥私だけ先には嫌です」
「大丈夫。自分を犠牲にして好きな女を守るとか、俺はそんなカッコ良い事は出来ない。意地でも逃げる、死んでも逃げる」
我ながらダサい。
「‥‥‥ニア様、今なんて?」
「死んでも逃げる」
「好きな女って?」
‥‥‥あ。
「‥‥‥まだ考え中の事案です。‥‥‥とりあえず次の俺の攻撃は、後ろの魔族も巻き込む予定だから全力で走れ! レイラが逃げてくれないと俺も逃げられない、城で会おう!」
キョトンとしたレイラから離れ魔王の元へ。
「密談は終わったか?」
「相変わらず律儀にターンを待ってて頂けたようで、いくぞ!」
レイラにも聞こえるように大きな声。
逃げるにもタイミングが大事。
俺は道具袋に手を突っ込んだ。
「魔王様! そいつアホみてえにでかい石投げてくるんでご注意を!」
ヴィラル黙れ。
「石の大小など俺には関係ない」
魔王が言うと本当に聞こえる不思議。
‥‥‥大きい方が痛いだろ絶対。
「俺の持てる最大の石の威力見せてやる!」
「来い」
嘘です。
最大の石なんて使いません。
俺が道具袋から取り出したのは大量の砂。
最大どころか最小の武器。
「これなら避けられまい! くらえ、サンドアタック!」
ズシャーーーッ!
「‥‥‥こいつ!」
説明しよう『サンドアタック』とは砂を投げて相手の目を見えなくする、俺の幻術魔法だ。
‥‥‥我ながら石を投げたり、砂を投げたりと本当にダサいと思ってますよ。
子供の喧嘩か。
「今だ、レイラ走れ!」
「ニア様、待ってますから! さっきの続き絶対聞かせて下さいよ!」
走り去るレイラを確認して前を向く。
アレな技だが、効果はあったようで魔族達はうずくまっていた。
俺の力も加われば少しはダメージも入っただろ?
「お前はガキか」
「‥‥‥え?」
側で聞こえる澄んだ声。
「うわ!」
声の方を向くと、恐ろしい鉄仮面がこちらに向かって剣を薙ぎ払う瞬間でした。
俺は脇腹付近に激しい痛みを感じながら、後ろに吹き飛ばされていた。
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