48、走れ俺



「魔法王国アルフォードの名にかけて、魔族を葬るのだ!」

 

 イケメン法衣野郎が、空を飛ぶ四天王の牛ゴスベールを攻撃しようとしていた。


「構えろ!」


 イケメン法衣野郎の脇に立つシャラサードと呼ばれた黒ローブが、全軍に指示を出す。


「打て!!」



 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッン!!



 四方から飛んでくる物凄い数の魔法が、四天王ゴスベールに着弾する。

 ここはアルフォード軍の中心部分、魔法を打つ兵士の数が半端ない。


「‥‥‥凄いな、花火みたいだ」


 多種多様な魔法が着弾して破裂する。

 さまざまな色が混ざり合って、不謹慎だが少し綺麗。

 俺も攻撃しようとしていたのだが、先を越された。

 

「どうだい、我が国の力は?」


 ニヤリと笑い俺の方を見るイケメン法衣野郎。

 ‥‥‥どうだいと言われてもな。

 

「驚きすぎて声も出ないのかな?」


「凄く綺麗だった。でも多分全然効いてないと思うぞ」


「‥‥‥君、どう見てもそんな訳ないだろ。負け惜しみもここまでくると尊敬に値するよ」


 やれやれといった顔のイケメン法衣野郎。


「そんな事はどうでもいいんだが、本当にもう撤退した方が良いぞ」


 魔法によって出来た煙幕が晴れ、四天王ゴスベールの姿が現れた。

 やはり先程とさほど変化なし。


「ニア、お前は人間の軍隊などを使ってどうしようというのだ。時間稼ぎにもならんぞ」


「‥‥‥俺は関係ない」


 なんか俺の作戦みたいになってます。

 勘弁して下さい。

 

「何故だ! 何故死んでない?!」


 取り乱してないで、退却してくれイケメン法衣。


「今度はこちらからいくぞ!」


 四天王ほぼ牛野郎ゴスベールが、地上に降りて来て俺の前に立つ。


「まだだ! シャラサード、もう一度だ!」


「打て!」


 魔法王国の悪あがき。



 ドドドドドドドドドドドドドドドッッン!



 近くに居た俺も巻き添えじゃないか。

 ‥‥‥こいつら。


「今度のはさっきより多いだろ。あの勇者の下僕も一緒に殺しちゃったけど、僕達を舐めるからこうなるんだ、ザマアみろだ!」


 イケメン法衣め俺をわざと巻き込んだな。

 煙で視界が悪い、声だけ聞こえた。


「スパミュール様、二人とも無事だと思われます。我々アルフォード王国は勇者パーティーに迷惑がかからぬよう撤退するのが最善の策かと‥‥‥」


「何を言ってるんだ、シャラサード?」


「あの男は我々を助けるためだけにここまで来たこと、気付きませんか? これ以上、魔法王国の恥を上塗りされぬ方がよろしいかと‥‥‥いい加減、父上に怒られますぞ」


 煙幕が晴れ、微動だにしてない俺とほぼ牛野郎を見て固まる法衣。


「‥‥‥そ、そんな!」


 正直本当に痛くも痒くもない。

 崩れ落ちて動かなくなったイケメン法衣野郎。

 魔法王国はもう無視で。



「一つ質問いいか?」


 牛に聞きたいことがある。

 

「冥土の土産になんでも答えてやるぞ!」


 優しい牛。

 ‥‥‥笑ってるのかな?

 顔が牛なので表情がよくわかんない。

 

「勇者の相手は誰がしてる?」


「そんな事聞いてなんになる? お前はここで死ぬのだ勇者の救援など不可能だぞ」


「冥土の土産にさっさと教えて下さい」


「魔王様が直接相手をしておられるはずだ。今頃はもう決着がついてるかもしれんがな」


 ──まじか。


 手に持っていた石に力を込めた。


「お前と遊んでる時間は本当にないみたいだな」


 

 ドグシュッ!



「ぐがっ!」


 石で頭を撃ち抜いたら、四天王ゴスベールは一撃で消滅した。

 さらば牛。

 

「おい、そこの黒ローブ。俺は仲間を助けに行くから、もうお前らの面倒は見てやれない。最後通告だ、撤退しないならお前らも巻き込んで戦うからな、覚悟しとけよ!」


「‥‥‥わかりました、撤退しましょう」


 黒ローブのシャラサードは、何かブツブツ言ってるイケメン法衣を抱え上げ、会釈してきた。

 部下の方が物分かりが良い。


「撤退するなら急げよ!」


 そう言い残すと急ぎ走り出した。






「‥‥‥くそ、俺は何やってんだ」


 アルフォード軍兵士の間を駆け抜けながら、魔王城に向かって全力で走る。

 レイラを敵陣に一人で残し、別行動を取った自分に後悔しかなかった。


 ──レイラは強い。


 レベルは487だ。


 ──強い上に俺と違って頭まで良い! おまけに美人だ。‥‥‥魔王なんかに負けるか!


「そうだ、魔王なんかに負けるかよ」


 ──勇者レイラを舐めるな!


 自分に言い聞かせて全力で走る。



 異世界から来た俺の唯一の理解者。

 俺を慕ってくれ、ずっと一緒にいる仲間。


 ──仲間?


 ‥‥‥落ち着け。


 ──本当に仲間のままでいいのか?


 いいから落ち着け俺!

 今はそんな事考えてる場合じゃない。


「‥‥‥後でちゃんと考えるから」



 後悔なんかしたくない。

 今は全力で走るだけだ。

 

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