47、3日かかる精鋭



「指揮官、返事しろ!」


 今度はアルフォード軍、数万人の中を全力で駆け抜ける俺。

 急ぎ総大将を見つけたい。

 さっきの大暴れは効果があったようで、邪魔をする兵士は居ないようだ。


「おい、指揮官は何処だ!」


「‥‥‥あ、あちらです」


 前方にいた少し身分の高そうな兵士を捕まえ、聞くと教えてくれた。

 兵士が指差した方向に、豪華な天幕の付いた乗り物が見える。

 近い、あそこだな。

 別に闇雲に走っていたわけじゃない。

 偉い人なんだから、軍隊の中心辺りにいるんだろうと予想していた。


「ありがとう!」


 兵士にお礼を言って目的の場所へ。





「すぐ退却しろ!」


 天幕の付いた乗り物の中にいたのは、白い法衣を着た顔の良い若い男。

 装飾が施された豪華な椅子に足を組んで座り、俺を見下ろしている。

 恐らくこいつが総大将だろう。


「さっきから進軍の邪魔をしているのは君かい?」


「邪魔をしてるつもりはない」


「報告は受けている、君は勇者パーティーなんだろ。今までずっと魔王から逃げ回っていたくせに、よく出てこれたね」


「どうでもいいから早く撤退してくれ」


「何故君の指示を僕たちが受けると思うんだよ。君、まさか僕たちと一緒に戦っている気になってないかい? 撤退したいなら勇者様パーティーだけでご自由にどうぞ。むしろ戦場をちょろちょろと逃げ回られると邪魔だから、早くどこかへ消えてくれないかな?」


 ‥‥‥うわ、めんどくさい。

 

「シャラサード」


「はっ!」


 イケメン法衣野郎の横に立つ黒いローブを着たおじいちゃんが返事をした。

 これぞ魔法使い的な風貌。


「まずあの大きな石が邪魔だな、一斉に攻撃して壊しちゃおう」


「はっ!」


「待て! あれを壊すと魔王軍が大量に出てくるぞ」


 お前らを守るために、せっかく門に設置したんだ。

 自分らで壊すんじゃねえよ。

 

「‥‥‥君、まだ居たの? あれ置いたのも君なんだろ? ほんと邪魔しかできないのかい?」


 この自信はどこからくるんだ‥‥‥もしかして魔法王国ってめちゃくちゃ強いのかな?


「シャラサード、撤去にどれくらいかかる?」


「我が軍の精鋭でしたら、3日もあれば十分かと」


 ‥‥‥あ、やっぱりこいつら弱い。


「もうお願いだから帰ってくれ」


 あんな石ころさえ、どうにもならん軍隊に魔王なんてどうにもならんでしょう。


「まだ君はそんな事を言ってるのか。早く君達だけで逃げたまえ。あ、どうせ逃げるならあの石、持って帰って────」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 


 遠くで大きな地響き。

 

「‥‥‥やばいな、もう破壊された」


 門の前の石がモクモクと煙をあげて崩れていくのが見える。

 あまり長い時間は持たなかったか。


「なんだ、石が勝手に壊れたのかい? 門が開いたのなら、突撃しようか」


 勝手に壊れてたまるか。

 もうこれ以上、時間をかけれない。

 残してきたレイラが心配だ。


「俺は魔王城の入り口に戻る。頼むから、あんまり犠牲者を出さないで下さい」


 もう俺に出来ることはない。

 


「お前がニアか」

 

 門に向かって走り出そうとした時、不意に上空から俺を呼ぶ声。


 ──しまったな、接近に気付かなかった。


「お前は城には行かせない」


 牛の姿をした大型の魔族が、上空からこちらを見下ろしていた。

 わざわざ俺を狙いに来たのかな?

 

「勇者を殺すまで足止めしろとの命令だが、ニアはこの四天王のゴスベールが倒す!」


 ‥‥‥レイラ狙いか。

 

「魔族が出たぞ! 我が国の力見せてやれ!」


 なんか言ってる魔法王国アルフォードの指揮官。


「アルフォードの軍人も、四天王とか名乗る魔族も、もうどうでもいいです。俺は急いで門に戻りたい。本気でいくから覚悟しろよ」



 俺は掴む石に力を込めた。

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