38、懐かしい部屋



「で、なんで嘘ついたの?」


 怒ってるアリスさん。


「‥‥‥色々ありまして」


 しゅんとする鉄仮面の男。

 俺。


「違います! ニア様はそんなつもりでは!」


 割って入るレイラ。


「凄く綺麗ね。この娘が探してた勇者?」


「はい」


「私に気を使わないで堂々としなさいよ。嘘をつかれるのが一番辛いよ。別に綺麗な彼女が出来ても怒りはしないんだから」


 堂々と何をしろと?

 アリスさんまた色々勘違いしてます。


「アリスさん、なんで俺だとわかったの?」


「それ、あげたやつだし。それに‥‥‥見たらなんとなくわかる」


「なるほど」


 手に持つ財布を指差された。

 なんとなくでわかるとか、エスパーですね。


「とりあえず、ここじゃなんだし。宿に来る?」


 可愛い店員さんが、俺をキラキラした目で見てる。

 バレたら仕方ない諦めるか。


「行きます」


 久しぶりの凱旋。






 宿屋の一室。

 いつものあの部屋。

 懐かしい。


「‥‥‥そんな事があったんだ」


 経緯を説明したら許して頂けたようです。


「なので変装してました。見つかっちゃいましたけど」


「変装が甘いのよ。しかも怪しすぎるでしょ」


 怪しさは否定しない。


「で、今はその剣を探してるんだね。すぐ行くの?」


「今日はもう遅いので明日かな」


 外はもう夕方。

 神父様が待ってるかもしれないが、まあ良いだろう。

 松明買うのにどんだけ時間かかってんだと思われてるかな。


「泊まって行く?」


「さっき言いましたけど、あまり関わらない方が良いです」


「人質になるの? 私が? それはないでしょ。あんたは気にしすぎ」


 そうか?

 俺が魔王なら真っ先に狙うけどな。


「今日はゆっくり泊まっていきなよ。えっと、一部屋でいいのかな?」


「なんで?」


 まだ何か勘違いしたままのアリスさん。


「ニア様、私はそれでも構いません!」


 レイラ、モジモジしないの。


「二部屋貸して下さい」






「で、付き合ってんの?」


 ニヤニヤしながらアリスさん。

 酔っ払って絡んでくるオジサンみたい。


「レイラはそんなんじゃありません」


 夕食を持ってきてくれたアリスさん。


「なんでよ、もったいない。あんな可愛い娘見たことないよ。しかもあの娘、あんたの事好きなんでしょ? いかなきゃもったいないよ!」


「アリスさん、おじさんみたい」


「うるさいよ。さっき、あの娘の部屋に食事持って行ったら、あんたのぬいぐるみ大事そうに抱いてたよ。ニコニコしてて本当に可愛かった」


 抱かれてます。


「そういえば、アリスさんは何買ってたの?」


「‥‥‥そういえば見られてたね」


「怖いです」


「うるさい! 私はぬいぐるみが好きなの」


 流石のぬいぐるみマニア。

 

「抱いて寝るんですね」


「‥‥‥抱き枕だからね」


 確かに。


「食べないの?」


 テーブルにはすでに食事が用意されていた。

 パンと、魚と野菜のシチューです。

 美味しそう。


「帰って来るってわかってたら、なんか用意出来たんだけどね」


「十分美味しそうです」


「そう、良かった」


 じっとこっちを見てるアリスさん。


「脱ぎにくいです」


 まだ鉄仮面をかぶってます。


「久しぶりだから、気合いを入れて見てるの」


「怖い」


「早く食べないと冷めるよ」


「脱ぎます」


「‥‥‥あん」


 久しぶりに崩れ堕ちるアリスさん。

 楽しんで頂けたようです。


「‥‥‥あんた、またカッコよくなったね」


「多分そうでしょうね」


 レベル上がったし。


「いただきます!」


「どうぞ」



 やっぱり飯が美味い!

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