29、旅立ちの儀式



「よく来たな勇者レイラよ」


 王様との謁見。

 跪く勇者レイラと俺。


「そして、よく勇者を見つけ戻ってきてくれたニア殿」


「では俺の仕事は済んだのでこれで」


「では私もこれで」


 立ち上がり帰ろうとする俺。

 それについてこようとするレイラ。


「ニア殿! 最後まで聞いてくれ、頼む」


 相変わらず王の横に立つ、ヒゲのおじさんことバルカン。

 王様は寂しそうにこちらを見ている。


「手短にお願いします!」


 俺とレイラはもう一度跪いた。

 王様は嬉しそう。


「勇者レイラよ、古より復活せし魔王が暴れておる」


 そんな事、国民の隅々までもう知れ渡ってます。


「魔法使いニアと力を合わせ、魔王を倒しこの世界に平和を取り戻してくれ!」


 定型文お疲れ様です。

 ちなみに王との謁見前に、パーティーメンバーの名前と職業を書く書類を渡され記入している。

 役所か。


「返事も頼む」


 小声でバルカン。


「レイラ返事してあげて」


「私がですか?!」


「レイラが勇者」


「私緊張します、ニア様お願いします!」


「俺が返事すると話が変になるから」


 コソコソと話す俺たちを、寂しそうに見つめる王。


「どちらでも構わんから早く頼む」


 また小声でバルカン。


「ニア様、せーので言いましょう」


「‥‥‥なんで俺まで」


「いきますよ、せーの!」



 ‥‥‥‥‥‥。



「レイラずるいぞ、ちゃんと言えよ」


「ニア様を差し置いて、私が王様に返事なんて出来ません」


 うつむいて肩を震わせる王。

 泣いてしまった。


「わかりました、勇者レイラ共々なんか頑張ります!」


「‥‥‥うむ、頼んだぞ勇者レイラと魔法使いニアよ! これからの詳しいことは、そこのバルカンに聞くがよい!」


 涙を拭き笑顔の王。

 なんだか晴れ晴れとしている。


「旅立つ其方らに、余から餞別がある。受け取るが良い」


 王の合図で家来達が立派な宝箱を二つ抱え現れる。

 宝箱は俺たちの前にそれぞれ置かれた。


「くれるの?」


「受け取るが良い」


 宝箱の豪華さに少し胸がときめく。


「‥‥‥うわ、何これ」


 俺の宝箱の中身は魔法使い用の武器『ヒノキのロッド』と50ゴールド。


「私のはこれでした」


 レイラの中身は『銅の剣』と50ゴールド。


「しょぼ!」


「私はニア様に買って貰った『煉獄の剣』がありますので」


 銅の剣  100ゴールド【1万円】

 煉獄の剣 20,000ゴールド【200万円】


「王国のくせにケチり過ぎだろ。それに1人50ゴールドって、だいたい5,000円位なんだぜ」


「そうなのですか?! 酷い!」


「魔王を倒せとか言っといて、これはないよな」

 

「あ、ニア様、王様が‥‥‥」


 王は涙を隠す事なく、前を向いて泣いていた。

 その堂々とした姿には威厳さえ感じられる。


 ──これが王者の風格!




 俺たちはアイテムをそっと道具袋にしまった。

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