30、ゲーム好きの共演




「ニア殿、魔法使いになられたのですな」


 王との謁見を終え、部屋を出た俺たちを呼び止めたのはバルカン。


「バルカンさん、お久しぶりです。前に使ってるところ見たでしょ?」


「‥‥‥まさかとは思うが、以前助けて頂いた時のあの石を投げる?」


「そうです」


 キッパリと俺。


「‥‥‥ニア殿、あれは魔法ではない」


「魔法です! 俺は魔法使いです!」


「ニア様が言う事を、否定する気ですか!」


 今にも切りかかりそうな剣幕のレイラ。


「‥‥‥ニア殿、王に嘘の書類を出してはいかん」

 

「だって魔法使いって、カッコいいじゃないですか」


「そんな理由で嘘を書かんで下され」


「ではバルカンさんに聞きますが、俺の職業って何なんですか?!」


 胸を張る俺と、剣の柄に手をかけるレイラ。


「戦士ですか?」


「石を投げる戦士が何処にいますか!」


「‥‥‥魔法使いですな」


「そうですよね」


 ニコニコする俺とレイラ。


「お二人は良いコンビですな」


 ふっと笑いながらバルカン。



 バルカンさんの言葉に、凄く嬉しそうなレイラであった。






「ニア様見てて下さい!」


 花が咲き乱れる草原を走るレイラ。

 顔、身体、仕草すべてが美しかった。

 まるで美女を描いた絵画の切り抜きのよう。


 手に剣を構え、走る理由がモンスターを切り裂く為でなければの話だが。


「えい!」


 レイラの掛け声とともに、消滅する我が戦友ノーマルスライムさん。


 俺たちは今バルカンの依頼で、城近くの草原にいる。

 勇者パーティーの力を試す為の初めの試練、スライムさんを30匹倒せとの事。

 呼びつけておいて、力を試すとか失礼すぎます。

 もちろん丁重にお断りするつもりだったのだが、レイラが二つ返事で引き受けてしまった。

 余程俺と『良いコンビ』と言われたのが嬉しかったらしく、バルカンさんの手を握りニコニコのレイラ。

 当のバルカンさんはと言うと、レイラに手を握られ鼻の下がこれでもかってくらい伸びていた。

 妻子が泣くぞ。

 まあレイラは絶世の美女だから仕方ないか。


「レイラ、魔法でチャチャっと倒してみたら?」


「やってみます!」


 返事と共に周囲に火の魔法を撃ちまくっているレイラ。

 まるで爆撃機のよう。

 そして吹き飛ぶ哀れなスライムさん。

 

 レイラは魔法が使える。

 レベルが上がるとステータスアップを伝えるウインドウに、魔法を覚えた事を知らせるメッセージも出るそうだ。

 もちろん俺はそのメッセージを見た事がない。


 ──俺の有り余るMPって何?


 才能ないのかな。

 少し悔しいです。


 嘘です、めちゃくちゃ悔しいです。

 俺も魔法使いたかったな──


「ニア様、30匹倒しました」


 気付くとレイラが横に座っていた。

 

「ニア様?」


 小首をかしげ俺の顔を覗き込むレイラ。

 間近で見るとレイラの顔は恐ろしく可愛い。

 バルカンの二の舞になりそうだ。


「ねえ、魔法って楽しい?」


「‥‥‥すいません! ニア様の気持ちも考えずに私ったら!」


 悲しい顔をするレイラ。


「いや、純粋に聞いただけだから」


「ゲームが好きな19歳、思春期真っ盛りのニア様が魔法に憧れてるのはわかっています! それなのに私は自分だけ良い気になって‥‥‥」


 人を中二病みたいに言いよって。

 俺より一つ年下のくせに。


「‥‥‥待ってね、なんで俺がゲーム好きだと?」


 そんな話をした事がない。

 実際にかなり好きで、色々とやり込んではいたが。


「私の『レイラ』って名前も、ゲームから取って頂けたのでしょ?」


 ‥‥‥ん?


「私もゲームが好きだったので、色々と、そのいろんなジャンルのゲームを‥‥‥」


「いや、違う。たまたま一緒なだけだ」


「私もあのヒロイン好きだったので、もの凄く嬉しかったです」


 頬を染め見つめてくるレイラは、とても可愛いかった。




 名前の由来がエロゲだとバレてました。

 穴があったら入りたい。

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