13、姫堕ちる



 今日も森でお仕事です。

 やめられないとまらない、金属スライムさんとの戯れ。

 

 「せい!」


 遠くで響く鈍い金属音。

 そして現れるウインドウ。



【経験値30070 獲得】



 もう堪りません。

 さてさてお金の回収だ。


「毎度ごちそうさまです」


 お辞儀をしてからお金を財布に入れる。

 ここまでがルーティーン。


 ──ん?


 少し違和感。

 なんだろ、遠くで人の声?

 耳をすます。


「‥‥‥‥‥‥では‥‥‥ないか!」


 やはり聞こえる。

 叫び声かな?

 複数人居そうだ。

 

「行ってみる?」


 森に人が居るのはかなり珍しい。

 この世界のモンスターはかなり強いらしく、人々は危ないので殆ど街や村から出ない。

 襲われているのであれば、助けないと寝覚めが悪いな。


「とりあえず行こう」


 マスクをしっかりと装備し直して、森を進む。

 




「姫様、お逃げ下さい!」


 森の中を通る街道。

 馬車が一台。

 それを囲むように鎧を装備した数十人の屈強な男たちと、それに襲いかかる牙の長い虎の群。


「私だけ逃げるなど出来ません!」


 馬車の中から姫と呼ばれる美しい女性が大声で叫んでいる。




 絵に描いたような光景。

 見事に襲われてます。

 ‥‥‥なんでこんな所通るんだよ。

 袋から小石を出し、屈強な男に襲いかかる虎を狙う。

 正式な名前は知らないが虎は何度か倒した。

 牙が長いだけでそんなに強くない。


「せい!」


 ドブシュッ!



【経験値35 獲得】



 1匹倒すと残り数十匹の群れは後退りして、馬車から少し距離を置いた。

 

「大丈夫です?」


 俺はそのスキに馬車の横へ。


「‥‥‥凄く怪しい風貌ですのね」


 助けてあげようというのに、失礼な姫と呼ばれる綺麗な女性。

 高価そうなドレスを着ている‥‥‥本当に姫かも。

 それに引き替え汚いマスクで顔を覆う俺。

 急に現れたら確かに怪しくはあるか。


「今のは其方がやったのか? 頼む、力を貸して頂きたい!」


 屈強な男たちの中で1番偉そうな、ヒゲのおじさん。


「皆さん、少し下がって貰っていいです?」


「1人で戦うつもりか?! 無理するな、我ら王国の親衛隊でも手こずるサーベルタイガーの群れだぞ!」


 手こずる? やられそうだったの間違いでは?


「皆さん、少し下がって貰っていいです?」


 ヒゲのおじさんはムッとしながら、他の隊員を下がらせる。

 俺は袋から大量の小石を出し、両手に持てるだけ持った。


「くらえ我が最強の魔法『メテオ』!」


 全ての小石を、一気にサーベルタイガーの群れに向けて投げる。


 ドシュッドシュッドシュッドシュッ!!



【経験値525 獲得】



 15匹いたみたいね。

 全部消滅しました。


「‥‥‥其方何者だ」


 ヒゲのおじさん失礼ですよ、まずお礼では?


「じゃあ俺はこれで」


「待て! 其方あれは石を投げておるのか?」


「見たらわかるでしょ」


「‥‥‥何故魔法と言っておるのだ、思いっきり物理攻撃ではないか?」


 キョトンとヒゲのおじさん。


「そう言った方が、カッコいいからに決まってるでしょう!!」


 最強魔法『メテオ』を否定され熱が入る。

 足をダンと踏み出した拍子に、マスクがするりと落ちた。


 ──しまった!

 

「‥‥‥はあぁ〜ん」


 馬車に乗っていた姫と呼ばれる女性が、モジモジしながら崩れ堕ちる。

 ‥‥‥見たな。

 

「さらばだ!」


 瞬時に木の枝に飛び移り、木から木へ。

 森の奥に逃げだす俺であった。

 

 なんで俺が逃げんだよ。

 

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