12、マスク必須でソーシャルディスタンス
「失礼するよ」
宿の部屋。
ドアを開けて入って来たアリスさん。
顔を赤く染め腰を抜かしてます。
ノックもせずに勝手に客の部屋に入るのが悪い。
俺はマスクをしてません。
「‥‥‥もう無理」
涙ぐみ、床でモジモジしている。
「勝手に入って来て失礼な」
「お願い‥‥‥顔を隠して! もう直視出来ない」
上目遣いでこっちを見つめながら言うセリフではない。
「人を化け物みたいに」
「‥‥‥あんたもう神話級にカッコいい」
マスクをしたので少し落ち着いたようだが、まだ少し涙目。
「お腹すいた。ご飯まだ?」
「‥‥‥お母さんみたいに言わないで。夕食持ってきたのよ」
まだ顔が赤いアリスさん。
今日の献立はパンとスパイスをふんだんに使い焼いた肉、それとデザートにリンゴのケーキ。
俺をリンゴ好きだと勘違しているアリスさんは、時折リンゴで作ったデザートをサービスしてくれます。
変わらず優しいお姉さん。
「飯がうまい!」
「‥‥‥そう」
あと最近知ったが、アリスさんは料理が物凄く上手。
街の料理屋さんで一度食事したことがあるのだが、味もそっけもなかった。
転移して初めに食べた料理がそれだったら、この世界をここまで気に入ってなかったかもしれない。
アリスさんは恩人かもしれない。
いや、間違いなく恩人だ。
料理だけでなく色々と教えて貰った、俺の今があるのはこの恩人の──
「アリスさん、顔が近い」
「‥‥‥え?」
テーブルの反対の椅子に腰掛け、両手で頬杖をつきながら俺の顔をポーっとした顔で凝視するアリスさん。
食べる時はマスクを外しますもんね。
「見てちゃ駄目?」
「見るのは全然良いんですけど、近すぎて食べにくい」
鼻息が届きそうな距離。
一応言っておくとアリスさんは結構綺麗。
思春期真っ盛りの俺に、この距離感はドキドキで食事が喉を通りません。
「あーもう、駄目駄目! あんたと居ると仕事になんない! 他の客に夕食持って行くから、ゆっくり食べて、後で片付けに来るね!」
アリスさんは怒ったように、バタンと扉を閉め出て行かれました。
何故俺が怒られるのか。
顔が良いのにも限度が必要。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます