第4想定 第8話
俺たちはただ電車で揺られている。
注意事項と帰還時刻を伝えられた生徒たちはそれぞれのグループで都会の町に繰り出した。
俺は昨日のメンバーで電車に乗り、横須賀へと向かっていた。
「……ごまかせると思ったんだけどな」
「あんなのバレバレよ」
母親から忙しいという返信を貰ったと嘘をつこうと思っていたがそれは高田に見抜かれていた。昨日の夜に彼女の目の前で母親にメッセージを送ることになった。もちろん高田が考えた文面で。俺は「忙しいから無理」という返信を期待したが、チャット欄に表示したのは非常に残念な文章だった。
そして今朝の朝食の時間。
俺は再び高田に捕まった。
そして母親に合流時刻のメッセージを送らされた。
段取りを忘れていたということにして逃れようとしていた事が見抜かれていたらしい。こいつらを母親と会わせるぐらいなら俺が高田たちに怒られたほうがダメージが少なかったんだけどな。
そして母親からは残念なメッセージが返ってきた。
俺たちが安針台公園を観光している間に到着できるという内容だった。
日程は問題なくてもその時間帯で都合がつかずに合流できないというパターンに一縷の望みを抱いていたが、その希望は無残にも消え去ってしまった。
母ちゃんだって少しは考えて返信してくれてもいいじゃないか。
電車はようやく横須賀駅に到着した。
高田が事前に手配していたジャンボタクシーに乗り込むと目的地である安針台公園を運転手に告げた。運転手もその場所に乗客を輸送するのは慣れているようだった。
走行距離にして2,500メートルといったところだろうか。道が空いていたこともあって数分程度で到着した。
景色に感動して走り回る取り巻きたち。
頑なに俺の隣から離れない舞香。
高田はいそいそとバックの中を漁る。
そしてお目当ての物を取り出した。
「そんなものを持ってきたのか……」
取り出したものはゴツくて大きな双眼鏡だった。
それを目に当てると高田は港湾を見まわした。
「ねぇ宗太郎、ワシントンって出払ってる?」
「貸してくれ」
高田から双眼鏡を受け取って横須賀基地をひと通り見渡した。それぞれの護衛艦のマストには『U』『W』『2』の国際信号旗が掲げられている。
そして米海軍第7艦隊が普段停泊している場所を確認してみた。
第15駆逐隊のアーレイバーク級駆逐艦。
さらに潜水艦や補給艦。
それだけでも圧倒的な艦隊だが、この部隊の中核ともいえる空母『ジョージ・ワシントン』の姿は見えなかった。
「ドッグ入りしているのかな?」
「いや、外洋に出ているはずだ」
俺は双眼鏡を返しながら返答した。
「第5空母打撃群直属のタイコンデロガ級巡洋艦が1隻も見当たらない。空母と共に外洋に出ていると考えるのが妥当だろう」
アーレイバーク級駆逐艦もタイコンデロガ級巡洋艦も同じイージス艦だ。
しかし排水量が違えば艦影も異なる。
アーレイバーク級はよくあるスマートな艦橋をしているが、タイコンデロガ級は異様に巨大な艦橋を持っている。あんな特徴的な艦影を俺が見逃すわけがない。
「高田ちゃん、双眼鏡貸して~」
取り巻きは高田から借りた双眼鏡を目に当てて湾内を見まわした。
そして自信ありげに宣言した。
「私、昨日のうちに勉強したもんね。アレがイージス艦の『こんごう』でしょ」
「残念。そいつは姉妹艦の『ちょうかい』だ」
「名前が違うだけじゃん」
「『ちょうかい』は第2護衛隊群第6護衛隊の所属。そしてアンタが言っていた『こんごう』は第1護衛隊群第5護衛隊の所属だ」
「じゃあその『こんごう』はどこ?」
「佐世保だ」
というかなんでそこまで『こんごう』に拘っているんだ。
確かに日本で初のイージス艦だから有名ではあるけども。
「イージス艦ってなんか六角形の板が貼ってあるやつのことだよね?」
「その通り。ちなみにその板の名前はフェイズドアレイレーダーな?」
イージス艦とは128以上の目標を捕捉追尾し、10個以上の目標を同時迎撃できるイージスシステムを搭載した艦のことだ。その目標探知に大型で固定式のフェイズドアレイレーダーを使うから、そのレーダーが艦橋構造物に張り付けられていればイージス艦と思ってもいい。
「手前の桟橋に『ちょうかい』が泊っているだろ? その隣に係留されているのが『おおなみ』。その桟橋の向かい側に留まっているのが『いかづち』だ。そしてもう一つ隣の桟橋に留まっているのが『おやしお型潜水艦』。こればかりは艦番号が消されているから艦名までは分からない。話が逸れるがさらに奥に停泊しているのが米海軍第15駆逐隊所属のアーレイバーク級駆逐艦たちだ。手前のは13番艦の『ステザム』だな」
「……名前ってどこに書かれているの?」
「艦尾に書かれているじゃないか」
それに艦首の艦番号が分かれば容易に特定ができる。
『ちょうかい』が176。
『おおなみ』が111。
『いかづち』が107。
艦番号が分からなくてもヘリ甲板の数字さえ分かれば問題ない。ヘリ甲板に書かれている数字は艦番号の下2桁なのだから。
ちなみに『ステザム』の艦番号は63だ。艦名が特定されにくいように船体はロービジ化されているが、この距離であれば普通に艦番号が分かってしまう。
「そして今日は運がいいぞ。『おやしお型潜水艦』の向かい側を見てみるんだ」
桟橋を挟んだ向かい側に珍しい艦が停泊していた。
艦橋のフェイズドアレイレーダー。
特徴的なヘリ格納庫。
マストにたなびく国際信号旗。
「韓国海軍の
冷静に説明をする俺だったがその声は震えていた。
動揺しないわけがない。
そして俺は初めて本物の
あの艦が韓国海軍に就役してから何度もインターネットで画像や動画を見ていた。しかし距離が離れているとはいえ、インターネットでしか見たことがなかった艦が目の前にいるのだ。
この状況で興奮しない人間はいないだろう。
「そして右を見てくれ」
「右?」
「そうだ。右の岸壁だ」
取り巻きはゆっくりと双眼鏡で湾内を見まわす。
樹木に囲まれた安針台公園。その木々の隙間から見える湾内の端っこ。
横浜地方総監部の建物が建てられている岸壁を視界に捉えたようだ。
「デカっ!」
その岸壁には巨大な艦が横づけされている。
複数の着艦マークが施された全通式飛行甲板。ステルス化されたアイランド式艦橋。艦尾の
「あれが護衛艦『ひゅうが』。今のところ海自で最も巨大な護衛艦だ」
時代が経てばもっと大きな艦が建造されるだろうけどな。
「!」
人の気配だ。
ふと振り返ると人影が公園に入ってきていた。
帽子を被り、左手にはいくつかの紙袋を下げている。
よく知っている人物。
不本意ながら俺の母ちゃんだった。
その接近に高田たちも気づいたようだ。
帽子にはデフォルメされた雷神。そしてアーチ状に『DD107 IKAZUCHI』と刺繍されている。
海自式の敬礼をしながら接近してくる母ちゃん。
高田たちはその独特な威容に戸惑っている。
「初めまして。宗太郎がお世話になっています」
「こ、こちらこそ初めまして。上岡2佐」
いつもの高田ではなかった。
普段の様子からは想像もできないほどにガチガチになった彼女はぎこちない動きで挙手の礼で返答した。
おいおい。
帽子を被ってないときは挙手の礼はしないぞ。
秘密組織ではあるが本職である俺は高田の動作を見逃すことはできなかった。
口にすることはしなかったけどな。
母ちゃんは全員に軽く話しかける。
そして舞香のことを覚えていたようだった。
「舞香ちゃん、宗太郎に変な事されていない?」
「変なことはされていないですけど、ちょっと浮気しているみたいです」
「ごめんね。うちの男共はろくなのがいないから」
誰がろくでなしだって?
俺の家でろくでもないのは父親ぐらいのものだ。
そもそも俺がいつ浮気したって言うんだ。
確かに俺は学校でモテモテだ。
ひなたは舞香から俺を奪う勢いで猛アプローチしてくるし、栗野は王道のツンデレだ。そして引っ込み思案な坂本さんもどうやら俺に好意を抱いているらしい。
しかし俺は浮気した覚えはない。
ヤンデレ気味の舞香の事だからそう思い込んでいるだけだろう。
俺は腕をさすりながら彼女の重すぎる愛に感心していた。
そして話題はいよいよ本題に突入する。
「護衛艦が見たい女の子がいるって聞いて驚いたよ」
そりゃあそうだろうな。
クラスの他の奴らは東京タワーとか有名な寺院に行くと言っていた。その中でも高田だけは横須賀基地に護衛艦を見に行くと言ってクラスメイトを驚かせていた。
俺の趣味では嬉しい限りだが、少なくとも修学旅行の自由時間でここに行こうと考えるのは少数派に違いない。
「高田さんだっけ? もしかして海自志望?」
「はい」
高田は照れながら回答した。
別に女性自衛官なんて珍しいものではない。
高校卒業後の進路としてもごく普通のものだろう。
「乗りたい艦はあるの? やっぱり護衛艦?」
「はい。やっぱり戦闘艦に乗ってみたいです」
海上自衛隊が運用している艦艇は何も戦闘艦だけではない。
地上部隊を展開させるための輸送艦。
機雷を除去する掃海艦や掃海艇。
それ以外にも訓練支援艦や潜水艦救難艦といったさまざまな艦種が運用されている。
しかし花形であるのはやはり戦闘艦だろう。
「今はまだ就役していないですけど、将来的には空母に乗ってみたいです」
それはとんでもない将来の夢だった。
ヘリ空母であれば護衛艦『ひゅうが』が運用されているが、戦闘機を運用する空母が就役するのはかなり先のことだろう。
しかし空母の乗組員か。
たしかにあの巨体に憧れるのは当然のことだろう。
大きいことはいい事だ。
「空母かぁ……就役するとしてもかなり先だと思うけど。もしかして艦載機要員志望?」
「はい。贅沢ですけどもできたら空母の艦載戦闘機パイロットになりたいです」
「う~ん。艦載戦闘機ねぇ……米海軍だったらパイロットも海軍所属だけど、自衛隊だとどうなるのかなぁ……」
現在の護衛艦『ひゅうが』は世界的にはヘリ空母として運用されている。
しかし空母となると回転翼だけでなく固定翼。つまり戦闘機や早期警戒機といった航空機を運用することになる。
となると空母自体は海自が運用し、固定翼機は航空自衛隊の運用ということになるのだろうか。餅は餅屋という言葉がある。空母を建造すると同時に艦載戦闘機を調達する必要があるが、パイロット養成のノウハウを有しているのは航空自衛隊だけだ。さらに米海軍に
「高田さん、たとえばなんだけどHSに乗るのはどう?」
「HS……ですか?」
「そう。艦載ヘリコプターのパイロット」
母ちゃんは持参していた紙袋を思い出したかのように高田たちに配り始めた。
舞香に渡し、取り巻きたちに渡し。
そして一冊のパンフレットを取り出した紙袋を高田へと渡した。
「ここを受けてみたらいいんじゃないかな?」
「航空学生……ですか?」
取り出されたものは自衛官募集用のパンフレットだった。
航空学生。
その名の通り航空機パイロットを養成するための採用区分だ。
「高田さん。艦載機でも地上機でも同じなんだけど、戦闘機が撃墜されたらパイロットはどうする?」
「
戦闘機のパイロットが座っている座席は射出座席と呼ばれている。
これは人命を優先するという人道的な意味もあれば、戦力の維持という側面もある。
パイロットが生存していれば、治療して再び戦闘機に乗せることが可能だ。
例えば
それに対して
金額だけで見ればパイロットは機体の18分の1。
しかしイーグルを飛ばせるようになるまでの教育に数年の期間が必要となる。しかしイーグルを飛ばせるだけでは実戦任務に就くことはできない。戦闘参加資格を取得するまでさらに数年が必要だ。パイロットが戦死したからすぐに他のパイロットを補充する、ということはできないのだ。
それ以上に空中戦の結果はパイロット自身のセンスに左右される。戦闘機に乗るために産まれてきたといっても過言ではない人材を簡単に放棄することはできない。
パイロットは戦闘機の最も高価な部品とも言えるのだ。
「それじゃあ、ベイルアウトしたパイロットはどうする?」
「救助に行きます」
「その通り」
母ちゃんは感心している。
「戦闘機には限らないんだけど、海でも陸でも前線部隊というものがあってね、いざというときに助けに来てくれる味方がいるから安心して任務に行けるの」
「救助部隊、ですか?」
「そう。もしも艦が撃沈されても味方が助けに来てくれるって信じているから私たちは前線に行く覚悟ができるの」
汎用護衛艦という戦闘艦。
有事の際には真っ先に前線に出ていく部隊を指揮している艦長としての意見だった。
そして俺もその考えを痛いほど理解している。
秋の頃だったか。
綾町の山奥に取り残された愛情保安庁の機動隊員を救出するために俺たちSSTはパラシュートで輸送機から降下した。機動隊員は脚を負傷。さらに神出鬼没なヤンデレに包囲され、いつ攻撃を受けるか分からない。攻撃を受けても機動隊の装備では交戦不能。そのような状況下での救難作戦だった。
あの時の俺はただ仲間を助けたいがために戦った。
別にあの機動隊員たちの名前なんて知らないし、顔すら見たことがなかった。
しかし連中は俺たちが必ず助けにくると信じていた。俺はその期待に応えたい一心で道のない山奥を歩き、彼女たちを無事に離脱させるために俺は単独で囮任務をこなした。
いかなる手段を使ってでも前線部隊を救出する。
仮に救助部隊から戦死者を出してでも前線部隊の救助に向かう。
そういう存在がいるからこそ彼らは覚悟を持って任務に就くことができるのだ。
「それに空母の天敵って何だと思う?」
「……対艦ミサイルの飽和攻撃ですか?」
高田は迷いながらもそう答えた。
飽和攻撃とは攻撃目標の防御能力を超える攻撃を仕掛ける方法のこと。簡単に言うと対空ミサイルで迎撃できない本数の対艦ミサイルを同時着弾するように発射することだ。
「たしかに空母を攻撃するとしたら飽和攻撃はセオリーだよね。だけど空母って護衛のイージス艦と艦隊を組んで行動するから、飽和攻撃を仕掛けたからといって必ず成功するわけじゃないかな」
空母『ジョージ・ワシントン』を中心とする第5空母打撃群には直属のタイコンデロガ級巡洋艦が3隻配備されている。さらに第15駆逐隊からアーレイバーク級駆逐艦を連れてくる。これらの艦はすべてイージス艦だ。艦隊防空に特化したイージス艦をこれだけ引き連れていれば、旗艦である空母にミサイルを命中させることは不可能に近いだろう。
「これって今も昔も変わらないんだけど、水上艦の一番の天敵は潜水艦なの」
母ちゃんは秘密めかしてそう答えた。
しかし防衛機密というわけではない。
ちょっと歴史や社会史、そして軍事的な知識を持っている人ならば簡単にその答えにたどり着くことができるだろう。ちょっとインターネットで調べれば普通に出てくるし、海自の装備から推測することも容易だ。
「探知距離の問題もあるけど水上艦も航空機もレーダーで探知できるからね。最近はステルス化が進んでいるけど、ミサイルを発射したらレーダーに映ってしまうの」
例外もあるが対艦ミサイルは自らが発射した電波を用いて目標を捜索、突入する。
この電波を探知すれば接近する対艦ミサイルを発見することができるし、何なら電波の周波数で自艦が捕捉されたかどうかも分かってしまう。
そもそも飽和攻撃を仕掛けるためには大量の対艦ミサイルが必要だ。1発で数億円もする対艦ミサイルをポンポン発射する戦術なんて簡単には採用できないだろう。
戦術レベルどころか戦略レベルでの問題となるはずだ。
「でも潜水艦って海中に潜っているでしょう? そして海中って電波が通らないから音を聞いて捜索するしかないの」
「
「高田さんってかなり勉強しているね」
その発音を聞いて母ちゃんは感心した。
そして俺も感心した。
一般人は『ソナー』と言うが、彼女は『ソーナー』と伸ばして発音した。
これは旧日本海軍と海上自衛隊が統一して使っている呼称だ。
「水測状況――海中の状態によっては潜水艦を探知できない範囲もあるし、むしろ一方的に水上艦が探知される状況もあるの。それに水上艦の魚雷よりも潜水艦の魚雷は比べ物にならないほど射程がはるかに長いから護衛艦にとっては天敵って言われているの。それに水上艦からミサイル攻撃を受けても戦闘能力を失うだけだけど、魚雷を受けたらほぼ撃沈されるからね」
護衛艦が搭載しているVLAの射程は約9キロ。
それに対して潜水艦が搭載している89式魚雷の射程は約50キロ。
同じ海上自衛隊の装備同士の比較だけども、射程がこれほど大きく違っていれば水上艦は迂闊に手を出すことは難しいだろう。それどころか潜水艦の存在が見積もられる海域に進入することさえためらってしまう。
本職の話を真剣に聞く高田。
熱心に勧誘する母親。
その話の流れから俺は目的を察していた。
母ちゃんは高田に航空学生に進んで
そして自身が乗り組む汎用護衛艦の天敵が潜水艦である話。しかし艦長が自身の艦の弱点ばかりしゃべるわけがない。新入隊員を獲得しようとしているのにネガティブキャンペーンをする意味がない。
ここまでの話を聞いていれば、母ちゃんの勧誘方針なんて丸わかりだ。
「でもこの弱点だってHSを投入することで埋めることができるの。HSは艦より高速で移動できるでしょう? それに潜水艦ってまず対空ミサイルは装備していないから迎撃はできないし、潜水艦って居場所がバレたらほぼ撃沈されたようなものだから、HSで睨まれているとほぼ水上艦を攻撃することもできなくなるの」
母ちゃんが乗り組む護衛艦『いかづち』。
この艦の仲間である『むらさめ型護衛艦』。
通称『あめクラス』。
さらに略して『あめ』は
ちなみにその装置は『いかづち』からより高性能に改造されている。
それにHSは短魚雷を装備している。
潜水艦が装備している長魚雷に比べると威力は小さいが、常に水圧を受けている潜水艦を沈めるには十分な破壊力を持っている。
「それに航空学生だったら哨戒機パイロットになるコースもあるから。対潜哨戒機なら護衛艦やHSよりも高速で広範囲を警戒できるの。海自に空母が導入されるかなんてまだ分からないけども、空から空母を護衛する任務ってかっこいいと思わない?」
探知距離も交戦距離も潜水艦のほうが遥かに長い。
護衛艦の探知圏外から目標を探知すれば、HSが飛んでくることを予測した行動ができるだろう。
しかし潜水艦は航空機を直接探知することはできない。哨戒機は前兆もなく高速で接近し、味方部隊を呼び寄せる。そしてその気になれば装備している短魚雷でいつでも海底に沈めることができる。
隠密部隊は敵に発見されること自体が作戦失敗だが、もし仮に発見されたとしても増援を呼ばれる前に敵を殺害すれば作戦計画のリカバリーも多少は可能になる。しかし対空兵装を持たない潜水艦は哨戒機を撃墜することはできない。
潜水艦にとって哨戒機はまさに天敵とも言える非常に恐ろしい存在だろう。
最初は空母の艦載戦闘機パイロットになりたいと言っていた高田だったが、彼女は空母を守る側の仕事にも興味を抱いたようだ。
きっと彼女は来年の就職活動で航空学生にも志願することだろう。
現在の日本は空母を保有していない。
だけど防衛装備というものは仮想敵国の装備に対抗するように設計調達されるものだ。現在の近隣諸国の情勢を考えると将来的に空母が建造されることは十分に考えられる。
その後も高田はいろいろな質問を続け、そして約束していた時間が終わりに近づいた。
どうやら母ちゃんはこれから司令部に用事があるらしい。休日だというのに職場に用事があるなんて海上自衛官は大変なのだろう。
もっとも、俺も似たようなものだけどな。
別れ際に母ちゃんは舞香に語り掛けた。
「宗太郎が浮気したら遠慮せずに教えてね。太平洋に沈めてくるから」
「はい!」
舞香は満面の笑みで、そしてこれまでに見たことがないほど元気に返事した。
冗談じゃない。
本当に冗談じゃない。
本当に沈められかねない。
過去に父親が母ちゃんに半殺しにされるところを見たことがあるのだ。どうやら職場の付き合いでキャバクラに行っていたらしい。しかもそれでドはまりした父親は職場付き合いとは関係なしに何度もキャバクラに通いつめ、お気に入りのキャバ嬢に大金を貢いでいたようで母ちゃんによって半殺しにされたのだ。
しかも発覚した経緯もしょうもない。
母ちゃんが長期休暇で帰省してくる事を忘れてキャバクラで遊び、アフターで飲み歩いた末に泥酔して朝帰りしたところを現行犯となってしまった。しかも名刺や連絡先といった証拠類を一切処分しておらず言い逃れができない状況だった。
俺だったらもっと上手くできるのに。
朝から母ちゃんの怒号が響き、父親は風呂場にぶち込まれ着衣のまま冷水のシャワーを浴びせられた。そしてその場でフルボッコ。
問題は離婚寸前にまで発展していた。
まぁ俺は姉ちゃんさえいれば良かったから親の離婚なんてどうでも良かったけどな。
しかし父親をフルボッコにする母ちゃんを知っている俺からすれば、母ちゃんと舞香のやり取りは俺への牽制として十分すぎた。
もっとも俺は浮気なんてするような男じゃないけどさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます