第2想定 第12話
「ねぇ宗太郎、整形した?」
「……かっこよくなったか?」
「全然」
俺はこの夏二度目。そして夏休み最後の舞香とのデートだった。
自習用に開放されている高校の図書館。
数日振りに会ったと思えば舞香は興味なさげにこの言いよう。
俺はいつだってかっこいいだろ?
「誰かと喧嘩したの?」
「どちらかというとリンチだな」
顔が変形したことに心当たりがあった。
鹿児島の海で救急搬送中のヘリでの中、蘇生した愛梨にフルボッコにされたのだ。
蘇生したばっかりでしかも肋骨が折れた状態でアレだ。まったく病人らしくしていろよ。
あとから聞いた話だと「ぶっ殺す!」って叫びまくっていたらしい。それを見ていた特務員も高橋さんも、誰も彼女を制止しなかった。酷い話だ。
病院でも大騒ぎになったらしい。それもそうだ。患者は心肺停止した女子と聞いていたのに、搬送されてきたのは顔面をボコボコにされた男子だったからな。
しかも失神していた。
気絶してもずっと殴られ続けていた。
医師の話によるとあと一分到着が遅れていたら手遅れだったらしい。俺が。
特殊部隊員である俺たちの身体は武器であることを意識してほしいものだ。
高橋さんと特務員も左頬と脇腹を怪我していたがきっとそれも愛梨がやったに違いない。仲間をぶん殴るなんて何を考えているんだろう。
「ふうん……」
舞香は興味なさげに吹奏楽モノの小説のページをめくる。
最愛の彼氏がリンチにされて怪我を負ったというのに冷たいやつだな。
まぁ舞香はツンデレというものだろう。
それにしてもアレだ。
愛梨は絶賛入院中。
それも当然。肋骨を二本完全骨折していた。しかし彼女の回復は医者も驚くほど速かった。あと二週間もすれば完治するらしい。
退院すれば当然基地に出勤してくる。
そしたら俺、もう一度ボコられるんだろうなぁ。
嫌だなぁ、ボコられるの。
あと二週間ぐらい入院してくれないかなぁ。
愛梨が復帰した直後にはパラシュート降下で山に降り立ち四日間にわたる潜伏訓練に偵察訓練からの夜間襲撃訓練。その時にも愛梨にシゴかれまくるんだろうなぁ。
肋骨もう一本ぐらいへし折っておけばよかった。
夏が終わる。
俺に残されたのはゆがんだ鼻骨と赤く腫れあがった顔に数枚の始末書。
そしてまっさらな宿題の山だった。
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