Ⅻ 魔導師の勧誘(1)

「──という感じで、すべてはパーネス司祭のたくらんだ猿芝居だったというわけさ。巨人もパーネスもいなくなったからもう安心だよ?」


 その後、わらわらと四辻に集まって来た村の者達に、マルクは巨人の正体とこの事態に至った経緯についてすべてを説明した。


 最初は信じようとしない村人達であったが、風車の中に残る悪魔召喚の証拠や、目撃者であるドゥルジアーネの証言、そして、なによりも教会の地下倉庫に隠されていた貢物の山が決定打となり、半信半疑ながらも彼らとて、その事実を受け入れざるを得なくなったのだった。


「ありがとうございます! 騎士さまあぁ!」


「あなたさまのおかげで娘は救われました! なんと、なんとお礼を申せばいいか……うぅぅぅ…」


 巨人の脅威がなくなり、その裏に隠されていた真実も明らかになると、それまで抑え込んでいた素直な気持ちをようやく露わにして、ドゥルジアーネの両親は涙ながらに礼を述べる。


「あの恐ろしい巨人を倒すだなんて、ほんとにすげえ騎士さまだ!」


「まさか、あの司祭さまが裏で糸引いてたなんて……その悪だくみを暴いてくれた騎士さま達は、まさにこの村を救ってくれた英雄だ!」


 その他の村人達も、巨人の恐怖支配から解き放ってくれた大恩人に、こぞって感謝の言葉を口にしている。


「なあに、それほどのこともないでござるよお……テヘヘへ…」


「旦那さま……」


 そうした感謝と称賛の声に、キホルテスは照れ笑いを浮かべながらまんざらでもない様子であるし、そんな主人を従者のサウロもなんだか誇らしげな表情で見つめている……彼らは本当に、騎士道物語で語られるような冒険を見事、成し遂げたのである。


「いやいやいや、さすがは騎士さま。一目お会いした時から必ずや巨人を倒してくれるものと信じておりましたぞ! 従者の方も、それにお医者さまも、やはりお仲間だけのことはあって素晴らしいご活躍!」


 また、あれほど迷惑そうに嫌味を言っていたくせに、ニコロース村長までもが手のひらを返してキホルテス達をヨイショしてくる。


 とはいえ、それはもちろん本心からの感謝ではなく、これまでずっとパーネス司祭の唱える巨人への恭順路線(実際は自作自演の狂言だったのだが…)を全面的に支持してきたこともあり、村人達の信頼を失わないための保身を目的としたものである。


「騎士さまも他のお二方もこの村にとっては大恩人! いつまでもごゆるりとこのトボーロ村にご逗留くださいませ。おおそうだ! よろしければ我が家にいらしていただければと。いささななりとおもてなしをさせていただきたく……」


 それでもまあ、「早く村を出て行け!」と邪魔者扱いされなくなっただけ良いというものであろう。


 ともかくも、こうして正式に村への滞在を許された三人は、下心ありありな村長のお誘いを丁重にお断りすると、とりあえず果樹園隅の農作業小屋へと戻ることにした。

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