第3話 変わる

 漫画を描くたび、弘樹に見せるようになった。賞に応募したり、出版社に持ち込んだりするようになった。


 弘樹と高校が離れてからも、たびたび会った。弘樹の野球の試合の応援に行くこともあった。私の高校と弘樹の高校が対戦したとき、弘樹を応援したのはここだけの話だ。私の漫画の主人公・一樹が左投げの理由は一番見てきた弘樹が左投げで、その方が描きやすかったからだ。


 高校、大学と野球にいそしむ弘樹は忙しそうだったので、同窓会委員の仕事は全部私がやっていた。弘樹は「俺から誘ったのにごめんな」と言ったけれど、全然苦ではなかった。大学卒業後、弘樹はホワイト企業に就職した。趣味で草野球は続けているらしい。


 一方、私はついに努力が実り少年誌で漫画家としてデビューした。王道バトル漫画で、主人公は左利きの剣士。相棒はメガネのクール系魔術師。弘樹は魔術師推しらしい。結構な人気が出て、多忙を極めることとなった。同窓会実行委員の仕事は、弘樹が全部やってくれるようになった。ちなみに、読者アンケートは女性票が圧倒的に多かった。


 恋愛経験のない私は恋愛描写が得意ではない。なので、ヒロインらしいヒロインは私の作品にはあまり出てこない。けれども、友情描写には自信があった。私と弘樹の友情は、きっと海よりも深い。


「春那~!会いたかった~!」


 同窓会で私に駆け寄ってくる中学時代のオタク仲間、亜由美も漫画家としての私を応援してくれている。ちなみに、亜由美はいわゆる腐女子で、ボーイズラブ(BL)同人誌を趣味で出している。結婚して一児の母となっても、趣味は変わらないそうだ。


「『Cracker Jack』いつも読んでるよ~!アンケートも出してるし、単行本も買ってるし、見てよ、公式グッズも買ったの!」


「ありがとう!すっごく嬉しい」


「春那も私の本読んでよ~、って言いたいけど、春那はBL好きじゃないんだっけ?」


「読まないなあ」


「いやあ、公式が最大手って言われる『Cracker Jack』の作者様がこんなにピュアなんて全国の『Cracker Jack』女子が聞いたら驚くだろうねえ」


「え~、それどういう意味~?」


 お酒を飲みながら、亜由美に聞く。いわゆるオタク女子ではあったものの、男の子同士の恋愛にはハマらなかったので、その手の話には疎い。


「春那作品の友情っていい意味でBLチックでエモいんだよね。独占欲とか執着とかはあるけど、爛れてなくて綺麗な感じのBLっていうの?そんな感じ。あの空気感は春那にしか出せないよ」


「BLは読んだことないからいまいち分からないなあ。どの辺が?」


「『Cracker Jack』だと、友也が一樹の一番になりたがるところとか。基本的に相棒の眼鏡くんが主人公君のことめっちゃ好きな感じがしてエモい。主人公君も相棒君のことは好きそうな感じはある。ほらリアルでもさ、強すぎる友情と恋の境目って結構曖昧じゃん?」


 既婚者の亜由美の恋愛論は妙に説得力があった。

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