第十一話ー①
11
晴れて2年生へと進級を果たしたわたしは、再び授業の日々に追われていた。
1日の講義が終わると図書室に寄って自習をしたり、自分の部屋にリリナを迎え入れたりと、毎日を余すことなく
そんな日常が経過していく。
ここ最近、どういうわけなのか、リリナはわたしの部屋に来なくなっていた。
あの妹のことだから、仲の良い友だちのところに入り浸っているのかな。
とある日の放課後、わたしは渡り廊下を歩きながら、なんてことを楽観的に思っていた。
目指しているのは学園の図書館。
オディナス学園は3つの校舎が
少しばかり
放課後、
クレアにはお昼休みの時、放課後、図書室に寄る
中央棟の入り口に迫ってきた時、1つの影がわたしの目を奪った。
ひっそりとした廊下に、突然現れたかのようなその人物に、わたしはどきっとした。だって、まるで幽霊かのような、
……薄暗いし、遠目だったから、今まで気づかなかっただけだよね。
こちらに向かって歩いてくるその人は、どこか見覚えがあるような気がした。
スカートを履いているところを見ると、わたしと同じ魔法科の生徒のようだ。
よくよく注視すると、足音すらしないそのしなやかな動きは、常人とは逸した空気を
じっと凝視していては失礼かな、と思いつつも、わたしの視線は彼女に釘付けのまま。その女性が徐々に近づいてくると、彼女が
「あら、こんなところで、
くすくすっとした笑いとともに
わたしは
「ゆ、ユーリィ?」
「違う人に、見えるかしら?」
疑問を疑問で返されたけれど、わたしは力なく首を横に振るうことしかできなかった。
そう、その人物は見知った人。わたしの記憶では、いつも白のローブを纏っていた妖しい美女、ユーリィその人だ。
しかし今の彼女は、誰がどう見ても、魔法科の制服を着用している。それがまた、ありえない現実として、わたしに認識させていた。
「ど、どうして学園に……?」
虚を突かれたわたしは、愚直にそう問いただすことしかできなかった。
頭の中はぼんやりとだけど、リリナが学生寮に現れた時と似たようなシチュエーションだなあ、って
「どうして、って
「そ、そうだったんだ……。今まで見たことなかったから、全然知らなかったよ。っていうか、それなら教えてくれたって良かったのに!」
「うふふ、つい先日、入学したばっかりだったから。挨拶が遅れちゃったみたいね」
「って、えええええええっ!?」
なんだかわたしって、驚いてばっかりだなあ、って自己嫌悪しそうにもなるよ。
「も、もしかして……。ユーリィってば、わたしより、年下だったり……する?」
「そうだけど?」
彼女は、にべもなく言い放つのだった。
わたしはまたしても、大声をあげてしまうところだった。
だって、だって、だって……。ユーリィってば、どこをどう見たって、大人の美女って感じじゃない!
信じられない。
良くてクレアと同い年。そう思っていたのに、
「そっか、そうだったんだね。じゃ、じゃあ、これからは同じ魔法科同士、よろしくね」
「ええ、よろしくね、エリナさん」
ぎゅっ、と握手を交わしたところで、わたしの脳内にはノイズのようなものが走った。
このむず
それは、この前の入学式にあったものと同じ。あの
きっと、あの日、ユーリィを視界の
ようやく合点がいったわたしは、すっきりとした脳みそに満足した。
すると、廊下の床を鳴らす靴の音が辺りに響き渡ってくる。
出どころは、先にある中央棟から。
顔を出したのはクレアだった。……よくよく見ると、その横には、小さい影が引っ付いている。どうやらリリナも一緒みたい。
「あ、クレア、ごめんね。こっちまで来てもらっちゃって」
わたしが慌ててクレアに駆け寄ると、ユーリィも一緒になって向かってきてくれた。
「……あら、そちらの方は」
どうやらクレアも、彼女がユーリィだということに気づいたようで、口を半開きにして戸惑っている。……あのクレアですら、驚きに声が出ないなんて、相当だよね。だって、ユーリィってどう見ても学生の年齢に見えないし……。
「ユーリィもね、今年から入学したんだって」
「……驚いたわ」
クレアはそれ以上言葉が続かないのか、何かを思案しているような顔つきで、わたしとユーリィを見比べている。年齢でも比較しているのかな……。いや、その気持ちは痛いほどわかるからね。
すると、ぴょこん、と頭を出してきたリリナが話の輪に加わってきた。
「あれ? お姉ちゃんたち、ユーリィちゃんのこと知っているの?」
「ゆ、ユーリィちゃん?」
その呼び方も違和感たっぷりだったけれど、それよりもリリナとユーリィが顔見知り、ってことが意外。新入生同士ではあるけどさ……。
もう、何が何だかわからないよ。
目まぐるしい環境の変化に、わたしの頭はついていけなかった。
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