第九話ー①



「特訓をしましょう」


「へっ?」


 誘いは突然だった。

 朝ごはんが終わって少しばかりした、午前のゆるい時間。自室にて。

 わたしはすっかり、その攻撃に慣れきっていたと思い込んでいた。

 けど、それを受けたのはすごく久々な気がしたし、誘い文句も何やら熱血じみたものだったので、わたしは間の抜けた声をあげてしまう。


 時は冬休み。

 先週の期末試験が終わって、無事に休みを迎えた初日だ。

 わたしはこれでも、勉強に関しては相当に頑張ったんだよ。だからか、成績はメキメキと上がっていた。

 ……魔法の潜在能力はどうすることもできないけれど。それでも、知識においては、魔法科の中でそこそこ上位にくるくらいに、奮闘したのだ。

 少しは自分を褒めてあげたいくらいだよ。


 しかしながら、クレアはそれでは満足していないみたいな家庭教師のように、厳しい意見を寄せてきていた。

 ……まあ、わたしの成績に対して言ったんじゃないのは、クレアの性格をかんがみれば明白だけどね。


 うーん、でも。クレアが家庭教師ってお似合いな気がする。ちょっとしたインテリ眼鏡でもかけてあげたいよ。だって、めちゃめちゃ美人教師、って感じに見えそう。


 なんて妄想をピシャリと打ち切ってくるように、クレアはさやに入ったままの剣を手にしていた。それではどちらかといえば体育の教師だよ。……ジャージ姿のクレアは、それはそれで見てみたい気もするけれど。

 って、そんな場合じゃないよね。


「……エリナは嫌かしら? わたしたちには、まだまだ訓練が必要だと思うのだけれど……。無理にとは言わないわ」


「ううん、それは全然いいけど。また、実戦場に行くの?」


「ええ。そうしましょう。エリナの成績も上がっているから。エリナの特訓をしたいと思っていたの」


 クレアはわたしを褒め散らかしたいのか、頭をよしよし、と撫でてくれる。ことさら、成績も上がっている、って台詞に力が込められていた。


 ……クレアに認めてもらえるのって、すごい嬉しいな。

 わたしは懐柔かいじゅうされた野生生物みたいに、クレアに絶対服従を誓いたくなっていた。

 いや、わたしが流されやすい女、ってわけではないからね。


「で、でも、わたしの特訓って言っても……。クレアの足を引っ張っちゃうよ、また」


「そう気張らないで。今回は初級の実戦場にしようと思って。私はあくまでエリナの護衛。今のエリナの実力なら、初級の魔物は退治できるはずよ。危なくなりそうなら、私が手を貸すから。どうかしら?」


「……ちょ、ちょっと怖いけど。やってみたい! わたしだって、戦えるようになりたいもん」


 魔物との戦い。

 それは初めてってわけじゃないけれど……過去2回のものは、どっちもあたふたと腰を抜かしていただけ。


 だからこそ、クレアはわたしの実戦に付き合ってくれるのだろう。

 ……冒険者を目指すにしても、ニーシャのやしろを目指すとしても、魔物との戦闘は避けては通れない道なのだから。


 わたしの実力が最底辺のへっぽこ魔法使いだったとしても、せめて低級の魔物くらいならば、追い払えないとね。

 幸いにも、魔道具まどうぐさえしっかりと扱うことができれば、恐らくだけど中級までなら相手には出来ると思う。

 魔法使いの割合としては、そんな人たちが多数を占めているはずだから。


「じゃあ決まりね。楽しみだわ、エリナと2回目のデート」


「あはは、わたしも楽しみだよ。お弁当は……いらないよね」


「私としては欲しいところだけれど。エリナにお任せするわ」


 相変わらずクレアは、実戦場に向かうっていうのに、遊園地にデートするような気楽っぷりだ。

 

 にしても、2回目のデートであり、実戦。

 気合い入れないとね。

 前みたいに無様な結果にはならないんだから!

 わたしは鼻をふくらませて、やる気の満ちた表情で準備を始めるのだった。

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