第四話ー③
リリナによる
といっても、聞いてくる内容は学校での生活や、1人暮らしについてだったり、返答に困るものはない。だからってわけじゃないけど、わたしも
わたしたちは長時間、時には大笑いをしたりして、楽しげに会話をしている。だけど、ふとした沈黙の後、リリナは急激に、きりっとして
妹の
だって、リリナがこういう態度を取るのって、良くないことの前触れだから。わたしは経験則から、身構えていた。
「お姉ちゃんってさ。胸おっきくなってないよね。わたしはまだまだ成長しているっていうのに!」
「う、うるさいっ。っていうか、どこ見てるのよ。それに、こんなところで言わないでよ!」
わたしは顔を赤らめて、見られていた事実に
もう、わたしだって気にしているデリケートなことなんだから。妹よりも小さいだなんて、あってはならないことだよ。負けた気分にすらなる。
リリナはそれを、にたにたと
それを
クレアにだけは、胸のことを指摘されたくないのにー……。
生きた心地のしないわたしとは裏腹に、リリナは満足げに、うんうん、ってしきりに頷いている。
「それで、クレアさんとは普段どんなことしてるの? パートナーになったきっかけは?」
「もー、なんなのよ、リリナ」
表情だけでなく、話題すらも急変させてくるリリナを相手にするのは、神経が疲れる。妹の気分は、まるで山の気候みたいだな、っていつも思う。
口早に聞いてきたリリナは、それがずっと聞きたかったことなのではないか、と勘ぐってしまう。わたしは
その質問の内容は、恋人としても友達としても当てはまるし、わたしが動揺さえしていなければ、どのように答えても問題はないのかも。それに気づいたわたしは、変に構えないように心をリラックスさせた。
「ちょっとリリナ。あんたはそろそろ、こっちを手伝いなさい」
助け舟を出してきたのは、お母さんだった。
バッチリのタイミングで、部屋外から声をかけてくる。
「え~、今いいところだから! もうちょっと待って!」
「そうだ。久々だし、わたしがお母さんの手伝いするよ。クレアはリリナとお喋りしてていいからね」
わたしは逃げるのに好都合だと悟って、ここぞとばかりに立ち上がる。
それに、お母さんの手伝いをすることは小さい頃からの習慣だ。リリナに任せるよりも、わたしがやったほうがいいし、懐かしい気分にも
だけど、それを
「エリナは長旅だったんだし、ゆっくりしてなさい。リリナ、あんたは言い訳せずにこっちに来るんだよ」
「は~い」
リリナは
わたしは嵐が過ぎ去ったとみるや、はぁ~、って重たい息を吐く。
「元気な妹さんね」
「あはは、うるさいでしょ、ごめんね。クレアも、適当にあしらったほうがいいよ」
リリナがいなくなったわたしの部屋には、静けさが訪れた。
っていっても、台所から妹の騒がしい声がたびたび響いてくる。やかましいことこの上ないよ。
クレアはそれが
「やっぱり姉妹ね。すごくそっくりよ」
「えっ、嘘でしょ!? わたし、あんなにうるさいかな……」
わたしは
容姿ならば似ているかもだけど、今のクレアの言葉は、雰囲気が似ている、ってニュアンスがあったから。
あんなにけたたましいと思われていたなんて、ショックだよ……。
「そういうことじゃなくって、なんていうのかしらね」
「顔は似ているって言われるけどね……」
「そうじゃなくって、空気、っていうのかしら……」
「あ、やっぱりそうなんだ。今後、うるさくしないように気をつけます……」
しおらしくなるわたしを見たクレアは、慌ててそれを否定した。
だけど、しばらく立ち直れないかも。
確かに元気には自信があるけど、わたしはリリナほど馬鹿っぽくはないと自負しているし、空気だって読めるはず。でも、他人からの評価が妹と同じっていうならば、
「エリナは、こんな良い家庭で育ったのね」
クレアはわたしを気遣ってか、ふと、呟く。それは本音がこぼれ落ちてしまったかのように、儚げな声音を
そうだ、わたしは何をしているんだろう。
クレアの家族について、わたしは何にも知らないんだよ。聞こうとは思っても、どう切り出せばいいか、わからない。
それに、放置していい問題でもないから。クレアの核心に迫る部分な気がするけれど、それ
わたしがあれこれ悩んでいると、1つの足音を近づいてくる。
「エリナ、ちょっと入るわよ」
お母さんが遠慮がちにそう
クレアの家族について聞くチャンスだったのに、今度はタイミング悪いんだから、お母さんってば。
だけど、また機会は巡ってくるよね。しばらくはクレアと過ごすんだから。
「そろそろ夕飯だけど、クレアちゃんは何か食べられない物でもあるかい? 良い食事をとっていそうだから、それが心配になってねぇ」
クレアはお母さんに対しては緊張が解けないのか、姿勢を正して向き直る。
「いいえ、お構いなく。お気遣い、すみません」
そして
こんなクレアは、やっぱり珍しいな。学園では
「本当に丁寧な子だね、リリナに見習わせたいくらいだよ。だけどね、気を張らないでいいからね」
「そうそう、いつもみたいでいいよ。リリナにもお母さんにも」
わたしたち親子に説得されているみたいなクレアは、
お母さんはそれだけを聞くと、
もうすぐ晩ごはん、ってこともあってか、わたしとクレアはのんびりとくつろぐ。
そうやって過ごした後は、お母さんに呼ばれて、一緒になって食卓を
テーブルいっぱいに並べられた食事は、見ただけで腕をふるったんだろうな、ってわかるものだ。わたしの家族だけで食べ切れるのかな、って不安が襲ってくるほど。
リリナは
「まぁまぁ、座って座って。わたしも手伝ったんだから、おいしいよ!」
リリナはぞんざいな手つきで椅子を引いて、クレアに着席を
「リリナ、料理できるようになったの?」
わたしはからかうみたいにして、おどけた口調で聞く。リリナは、むっとしたのか、
「この子ったら、エリナの真似して、料理の手伝いもするようになったのよ。面倒臭がることのほうが、圧倒的に多いけどね」
「あはは、それっぽい」
お母さんはリリナの反論を待たずして、口を挟んでくる。おかげで、食卓には笑いが生まれていた。
クレアは家庭の雰囲気に
「もー、なんでそういうこと言うかな。クレアさんなら、わたしのこと、わかってくれるよね?」
リリナはクレアに話題を振ることで、自然と家族の輪へ誘い込んだ。
わたしは、あっ、てなって、自分がすべきことだった、って後悔する。
「こんな感じで夕飯をするのは初めてで……。学生寮の食堂に生徒はたくさんいるけど、談笑しながらの食事は、したことがなかったわ。本当に嬉しい」
クレアは自身の感動を伝えるべく、真剣な
お母さんは、彼女を我が子を見るかのような
「こんな家でよければ、いつでもおいで」
お母さんは一言、声をかけてあげるだけだった。だけど、それがクレアにとって必要な言葉だったのかもしれない。
ほんわかとした空気が食卓には流れていた。
一部始終を
「それじゃ、食べよ!」
わたしは家族に救われたところが嬉しいと思う反面、自分の
だけど、暗い雰囲気にはさせないよ、と言わんばかりに、リリナが凄い勢いで食事に手をつけていく。
まるで掃除機のように食べ物を吸い込んでいく妹を見て、
「エリナのくれたお弁当に似ていて、とても美味しいわ」
「あはは、お母さんのが料理上手だからね」
それでも、わたしは自分が
料理を喜んでくれているかどうかは、食べている人の表情を見れば、伝わってくる。クレアの顔を見てもわかる。わたしが以前、お弁当をあげた時のように、心からの
だから、お母さんにもクレアの気持ちが見て取れたのだろう。
「いっぱいあるから、たくさん食べてね」
「あ、それはわたしが作ったんだよ!」
クレアを連れての食卓は、新しい家族が増えたかのように、
食事が終わった後は、そのまま全員での
騒がしい時間が過ぎると、わたしのお父さんも帰ってきた。
お母さんが、エリナが大切な人を連れてきた、って説明したために、誤解を呼ぶハプニングも発生したよ。――でもね、あながち間違いでもない、むしろ核心をついていたとは思うけど……。
あたふたとしていた父親と、より緊張を見せるクレアの挨拶が終わって、わたしの部屋に戻ってきていた。
リリナはしつこいぐらいに付きまとってきたけど、夜も深まってくると自室へ帰っていった。
すっごく濃い1日に感じられたよ。
でもね、故郷のわたしでそう思うのなら、クレアにとってみれば、より
だけど、クレアの顔には疲労は一切浮かんでいなくて、いつものような染み1つ存在しない美顔が存在するだけだ。
わたしの部屋には布団が
夏場だけど、夜になると涼しいのが、故郷のいいところだね。
わたしは開いた窓から流れてくる夜風を受けながら、外を眺めていた。
「ねっ、クレア。もう眠い?」
「それほどでもないけど……どうかしたの?」
「外、いかない?」
「こんな時間に外? 何かあるのかしら」
「うん。涼しくって気持ちいいし、とっても綺麗な景色があるんだよ。いこっ」
わたしの中ではもう決定事項、クレアの返事を待たずして立ち上がる。
それがクレアにも理解できたのか、それとも
両親は眠っているようで、家内はしんとしていた。さしものリリナも、1人では騒げないのだろう。妹の部屋からは明かりが漏れていたので、彼女にバレないように、こっそりと移動する。
わたしとクレアの手は、どちらから言うでもなく、自然と繋がれていた。
夜に忍び足で家を抜け出すのって、なんだか
わたしはクレアといけないことでもしているかのような、変な緊張感をはらませつつ、自宅を後にした。
リリナには無事、見つからなかったようである。ミッション完了ってとこかな。
別に妹がついてきても問題はなかったんだけど……今はクレアと2人っきりがよかったから。
やっぱり外も、
だって、こんなド田舎に深夜遊べる場所なんてあるはずもないし、村中
のどかで、平和で、ゆっくり過ごすにはうってつけの村だよね。この周辺には魔物も
さらには、上空の星空。無数の輝く星たちは、雲ひとつない夜空からわたしたちを見下ろしている。
これだけでも、外に出た価値はあるよね。
わたしは、風の音がかすかに聞こえるくらいの
ここまで静かな世界だと、話しかけるのを
ほどなくして、開けた丘のような場所に到着する。視界を遮るものは何もなく、
わたしはクレアに振り向いて、月光に浮かび上がる幻想的な美少女に笑いかけた。
かける言葉はないけれど、掴んでいた手を離して、その場へ寝転がる。
わたしの背は、ふさっとした雑草のベッドが受け入れてくれた。
「これが気持ちいいんだよー」
ようやく口を開いて、手足を思いっきり伸ばす。
外での解放感に加えて、
クレアは
その感触が
わたしたちは夜空を
「ねぇクレア」
「どうしたの?」
わたしは慎重に言葉を選んでいたため、次の台詞が
「クレアの家って、いったい、どういう家庭だったの?」
触れたら壊れてしまうかもしれない。そう思いつつも、わたしはおそるおそる、口に出していた。ずっと、聞きたかったこと。聞いてあげたかったこと。
わたしのほうこそ、か細い表情になっていたのかな。じっとクレアを見返すと、月光を浴びて
そのことについては、特に
「私の家、ね。うーん、なんて言えばいいのかしら。両親は、私のことをしっかりと育ててくれてはいたわね」
クレアは
「だけどね、料理だとか、お掃除だとか、身だしなみだとか。身の回りの世話をしてくれるのは、全部お手伝いさんだった。両親がしてくれたことは、教育ばかり。勉学や剣技、他にもいろんな習い事をさせられたわ。決して、面倒見が良い親、とは言えないわね」
クレアはそれが他人事であるかのように、くすりと笑っていた。
だって、わたしの過ごしてきた人生とは別物だったのだから。彼女の言葉から、どれほどの孤独を味わってきたのか想像するのは、容易ではなかった。
でもね、クレアが
「あっ、心配しないで。親のことが嫌い、ってわけじゃないのよ。私のことを、きちんと家を
クレアは最後まで
わたしのたった一言の質問。それに対して
それとも、わたしに問われたから、だったのかな。彼女の顔からは、何も
それでもわたしは、これまで謎めいていたクレアの過去を知ることができて、複雑ながらも感動していた。だって、クレアのことをより一層、詳しくなれたんだから。
例えそれが、物哀しい感情の共有だったとしても。クレアと同じ気持ちになれるのは嬉しいし、クレアのことはもっと知りたいと思える。
無論、彼女は悲しい、なんて一言も言っていないし、心が読み取れるわけでもないけど。でもね、わたしには、なんとなくわかるんだよ。クレアは、やっぱり寂しかったんだな、って。
わたしが黙りこくってしまったので、クレアは優しい微笑を浮かべていた。わたしが何を考えているのか知り尽くされているみたいな、そんな目で見つめられている。
「エリナ。私はね……、あなたと出会えて良かったわ」
「……うん、わたしもだよ。これからは、独りじゃないからね」
きっとね、クレアはずっと孤独だったんだ。
家にいた時から、ずっと孤独。両親も、家庭教師も、家政婦さんもいたのかもだけど。彼女の心を開けてくれる人間は、誰もいなかったのだろう。
こんなわたしがクレアを救ったのだとしたら……これからも手を差し伸べ続けてあげたい。
だから、それが伝わっていればいいな、ってわたしも精一杯の笑顔を作っていた。
クレアは思い馳せるようにして目を閉じる。
わたしはそれをじっと凝視して、彼女の表情がかすかに変わったのを見逃さなかった。
月明かりだけでは、ぼんやりとしていて、はっきりと
でもね、わたしは確証を持っていた。
クレアも、わたしといることを幸せに感じているんだ、って。
わたしたちは、温かさに包まれているみたいだったのだから。
彼女のこと、聞いてみてよかった。わたしはそう思えて、クレアと一緒になって目を
星空の下、全身で浴びる夏の夜風は、例年とは違うもの。わたしが今まで感じたことのない、精神面が満たされていく心地の良いものだった。
クレアと一夜を過ごしてから……なんて言うと意味深に聞こえちゃうけど、別におかしなことは何もなくって。お友達とのお泊り会のような日々が続き、何事もなく毎日が経過していった。
あらかじめ警告しておいたように、ド田舎なわたしの故郷ではすることが限られるため、連日、
その他には、クレアが家事を手伝ってくれたりもした。掃除や洗濯、お料理なんかもしてくれたのだ。
クレアは本人の言葉通り、家事の経験はなかったみたい。家にいた時は、家政婦さんに任せっきりだったらしいから。だけど、彼女は
といっても、クレアだって学生寮で1人暮らしをしているのだから、洗濯なんかはちょこちょこやっていたみたいだけどね。料理とかお掃除は手を付けたことないらしい。割とずぼらなのが、新発見だった。
そんな数日を経て、明日にはもう学園へ戻る日だ。
わたしとクレアは、以前、夜に寝そべった丘で寝転がっていた。
あの日みたいに2人っきりだったけれど、今は真っ昼間。さっきまではリリナもいたのに、今はお母さんに呼ばれて、この場から離れていた。
実家にいるときは、何かとリリナが付きまとってくることが多かったので、お昼にクレアと2人っきりは珍しいシチュエーションだ。
その空気にあてられたのか、わたしは決心したことがあった。
お昼寝でもしたくなるような、のどかな雰囲気とは裏腹に、わたしは表情を固くしている。
「この数日、クレアが家族になったみたいだったね」
「ふふ、とっても楽しい毎日だったわ。ここに連れてきてくれて、ありがとう、エリナ。感謝しきれないくらいよ」
「良かった、クレアがそう思ってくれるなら、わたしも嬉しいよ」
そこで会話が途切れてしまったようになったので、クレアは頭上を流れる雲へと顔を向けてしまう。
「あ、あのね。クレアと一緒に過ごして、クレアのこと、色々知ることができた。それも嬉しかったんだよ」
わたしは必死になって、クレアの興味を引き戻そうとして、話を続けた。
彼女は上体を起こして、わたしが何かを伝えようとしている、って感じ取ってくれたみたい。
わたしもクレアにならって起き上がった。
「私のこと、何かわかったのかしら?」
「朝から晩まで一緒だったからね。クレアってば、こんなに綺麗な見た目なのに、おしゃれなこと全然しないから、それが一番意外だったよ」
わたしもナチュラルさを
まったく、クレアってば、素材は完璧なのに、女の子らしいことにはてんで
何せクレアは、朝起きてから、髪型をセットすることなんてしないんだから。軽く
けどね、それと同時に、もったいないなあ、って思っちゃうよね。
「んっとね……。もし、これからも一緒に生活するとしたら、もっともっと
クレアは息を呑むかのようにして、わたしを真っ直ぐに見つめている。その翡翠色の瞳には、先の言葉が予想できているかのような輝きが伴っていた。
「クレアと1週間、隣り合って寝てみたけど、未だに緊張しちゃったりするし……。至らないところ、たくさん出てくると思うけど。……学園に戻ったら、一緒の部屋に……なってみたいな」
わたしは、それを言い終わる頃には、
すごく勇気のいることだったんだから。
クレアと共に過ごした1週間は、かけがえのないものだった。この先もこれが続けられるならば……って思って、出した答えだったの。
クレアは口をあんぐりと開けて、珍しい反応を見せていた。
予想通りだったのかもしれないけれど、それでも信じられない。そんな態度だ。
「こんな幸せ、本当に良いのかしら……。毎日が、楽しみになるわ」
クレアは両の手を合わせて、幸福に満ちた笑顔を浮かべている。
わたしも、おんなじくらい、幸せでいっぱいだった。
学園に戻ってからも、2人で一緒に過ごすんだ。ドキドキで胸が壊れちゃうかもね。それでも、夢のような毎日がわたしたちを待っていてくれるだろう。
楽しみだね、すっごく。
そして翌日。
昨晩は最後の夕飯ということもあってか、初日と同様にかなり豪華な食事だった。さらにはリリナが夜遅くまで部屋に居座っていたため、わたしとクレアは若干寝不足気味。同じ時間に寝たはずのリリナは朝から元気いっぱいで、なんだか理不尽さを感じるよ。
荷造りも終わっていたため、後は家を出るだけ。
馬車の手配ができる村までは歩いて行かなくてはならないので、早朝から出発の予定だった。
わたしたちは玄関に並んで立っており、それを見送るためのお母さんとリリナが向かい合っている。
「2人とも、気をつけて帰るんだよ。クレアちゃん、またいつでもおいで」
お母さんは
そしてようやくわたしも、実感していた。またしばらく、実家には戻ってこれないんだな、って。次に帰ってくるのはいつになるかな、なんて寂しさに襲われそうなわたし。けど、それを察したわけではないだろうリリナが、ずいっと前に進んできた。
表情で気づかれないように、わたしは慌てて笑みを浮かべる。
「わたしも来年、お姉ちゃんのところに行くから」
「え、ええっ? 何言ってるのよ、リリナ。お母さん、こんなこと言ってるけど、いいの??」
リリナの口走った言葉に、動揺が走る。
お母さんは、やれやれ、って頷いていた。おそらく、リリナの迫力に押されて、
わたしだって、学園に行く、って決めた時は、説得に時間をかけたものだ。
「クレアさんのような人を見つけたお姉ちゃんが羨ましい。それに楽しそうだしね!」
「あのね、わたし、魔法を学ぶために通ってるんだけど……」
「そのくらい、わかってるってば! お姉ちゃんくらい、すぐに追い越すもんね」
わたしは
姉妹だから、リリナのことは詳しく知っているつもり。何か将来、とんでもないことをしでかしそうな、秘めた才能を持っている気がするのだ。もしかしたら、大魔法使いの資質が眠っていた、とか言われても、驚かないかもしれない。ま、現実はそう簡単にはいかないよね、きっと。
「来年が楽しみね」
クレアとリリナは握手を交わしながら、楽しげだ。
「学校が騒がしくなっちゃうね」
わたしは苦笑しつつ、妹のいる学園を想像していた。どう想いを
来年からの若干の不安要素はあったけれど、わたしたちは家族に見送られて、家を
リリナのお陰で、しんみりとした別れはしないで済んだ。しょうがないから、それだけは感謝してあげることにする。
そして、わたしたちを乗せた馬車は、学園の待つトールデン地方へ走るのだった。
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