第12話 宝物

 活気に溢れた街の中で飛び交う、穏やかな様子の人々。

 そんな人々に溶け込むように、街の中を見渡す義姉妹の姿があった。


「……間違いない、昔と比べて外観はかなり変わっているけど、あの時

私が来た街だよ」

「それならよかった!」


(だったら……そういうことだったのかなぁ……?)


 懐かしむように街を様子を見据えるアズリッテに対して明るい態度を向けつつも

疑問の表情を浮かべるマリーチル。

 そんな彼女の様子に気が付いたアズリッテは問い掛ける。


「マリーちゃん? 何かあった?」

「いや……何でこの街の様子が鏡に映ったんだろう?」 


「あの鏡に何かが映る時って、必ず私たちや魔女に関する何かがあるはず

なんだよね……アズリーにこの街を見せたかっただけだったのかなぁ……?」


「確か今までだと隠れた魔女がいたり、不思議な存在の人と出会ったよね?」

「うん、でも今回は特に何も感じないんだよね……魔女の気配も、不思議な

何かの気配も……」


 言いながら首を傾げるマリーチルにアズリッテが横目で見つめていると、少ししてマリーチルが再び口を開く。


「まぁ……魔女に関してはいない方が多分良いんだろうけど……」

「魔女が人間の傍で暮らすなんて簡単な話じゃないからね」


 アズリッテが呟くように言葉を返すと、その言葉からマリーチルは

ある話を思い出す。


「そういえば、大昔に国から出て行っちゃった魔女がいたんだっけ?」

「自らの魔法すらも捨てて人間として生きようとした魔女の話だね」


「魔法を捨てたって……魔女であることを放棄するなんてそんなこと

出来るの……?」

「いや、当然ながら魔女として生まれた運命は変えられないよ」


 冷静な顔で答えるアズリッテを見て、マリーチルは自身の感じた

一番の疑問を口にする。


「それで……その魔女はどうなったの?」

「私が知っている話はそこまでだけど、彼女も知られてしまった可能性は高いと

思うよ……それで討たれてしまったのか、あるいは……」


「まだ何処かで静かに暮らしているのか……」

「私はそっちであってほしいなぁ……」


「ジェデトの書いた本を読んだ時にも思ったけど、やっぱり同胞が酷い目に

遭うのは嫌だからね……」

「……私もマリーちゃんと同じ考えだよ」


 アズリッテの返事を聞いて、彼女へと視線を向けるマリーチル。

 その知的な顔立ちを見て、再び自身の持つ鏡のことを思い出す。


(そういえばあの鏡、アズリーが作ってくれたんだっけ……)


「ねぇアズリー、疑問に思うのも今更かもしれないんだけど、あの鏡って

何なんだろう?」 

「確かに街の景色とかを映しているのは私なんだけどさ、ただ鏡越しから

それ以外のことまで伝わって来るのは、もう鏡の力としか思えないんだよね……」


「マリーちゃんの考えている通り、私の魔力の影響は受けていると思うけど、私は

ただ普通の鏡を作っただけだからそんな不思議なものには仕上がらないはずだよ」


「もう奇跡と言うしか……」


(奇跡か……)


 自身にも説明の付かないマリーチルの問い掛けに、アズリッテは精一杯の

答えを絞り出すと、マリーチルは何かに気が付いたように口を開く。


「奇跡の力を秘めた宝物なんて……! 凄く素敵なことじゃないの!」

「……!?」


 言いながら無邪気な笑みを浮かべるマリーチルを見て、アズリッテは

つられたように笑いながら言葉を返す。 


「私はマリーちゃんが、そんな鏡の使い方をするとは思わなかったけどね」

「え? ちゃんと本来の使い方だってしてるよ! ほら! 気高い!」


 自身の隣で尚も笑うアズリッテに対し、マリーチルは綺麗に整われた

自身の姿を指しながら声を上げた。

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