第10話 義姉妹の仕事
義姉妹の住居・作業部屋。
物静かな空間の中で1人、備えられたテーブルへと着くマリーチルの姿があった。
彼女の目の前に置かれているのは数々の魔導書。
これはマリーチル自身の知識と彼女の持つ魔力によって、たった今修復された
ばかりのものである。
普段は知的なイメージとはかけ離れた活発な態度を周囲に見せるマリーチルで
あるが、本来の彼女はこうして真面目な性格でもあった。
自らが積み上げた魔導書の山を見つめながらマリーチルは考える。
(アズリーの方もそろそろ終わった頃かな……?)
……。
一方のアズリッテ。
彼女もまたマリーチルとは別の部屋である作業をこなしていた。
室内を囲うように設置された数々の道具や設備は、例えるならば実験室や
工房などと呼ぶに相応しいものであった。
その中でアズリッテは普段と変わらない落ち着いた雰囲気で作業台へと
座っている。
彼女の前にある作業台の上へと並べられた硝子瓶。
不思議な色をした液体が詰められたその瓶の正体は、彼女自身が複雑な工程に
よって生み出した魔法薬である。
アズリッテは瓶を手に取り中身を真剣な眼差しで見つめると、傍に置かれていた
頑丈な造りの箱へとその瓶を中に入れた。
そして全ての瓶を入れ終えたアズリッテは箱に錠を掛けると、既に同じ工程が
施された箱が置かれた別の作業台へと移動させた。
アズリッテが作業台の上を片付けていると、彼女のいる部屋の扉を叩く音と
共に聞き慣れた声が聞こえてきた。
「アズリー? 大丈夫?」
「あ、マリーちゃん……ちょうど今終わった所だよ」
アズリッテの返事を聞いて部屋の中へと足を踏み入れてきたのは、心配そうな
表情を浮かべながら口元を覆ったマリーチルであった。
「ア、アズリー……いつも思うけど本当に大丈夫なの……?」
「うん、私は別に気にならないけれど……」
顔を歪ませながら問い掛けるマリーチルに対し、アズリッテはまるで正反対の
大人しい顔で答えた。
「何度嗅いでもなれないなぁこの臭い、私がアズリーの立場だったら吐いてる
かも……」
マリーチルの言葉にアズリッテが苦い笑みを浮かべたその時、突然住居の外から
豪快な物音が響き渡った。
力強い駆動音と共に住居へと伝わる振動。
その音に気が付いた2人が外へ出ると、そこに立っていたのは大きな魔獣の
姿を模った魔導機械であった。
まるで兵器を思わせるその存在は、見上げる義姉妹を捉えるかのように頭部を
向けていたが、2人は動じることなく獣に近づくと、マリーチルはそれに向かって
大きな声を上げる。
「チトリーネ! こんな狙ったように来るなんて一体何処で見ていたの!?」
するとマリーチルの声に応えるかのように獣の背中にある開口部が開くと
その中から1人の魔女、チトリーネが姿を現した。
暗い色の衣服とフードを纏った彼女の姿は、何処か不吉な存在を思わせる
ような不気味なオーラを放っていた。
しかしその容姿とは裏腹に陽気な態度で義姉妹へと声を掛ける。
「別に何処からも見ちゃいませんよ、プロの直感というやつですねぇ」
そう言いながらチトリーネは獣の身体から滑るように地面へ降りると、自身に
疑念の眼差しを向ける2人へと再び話し掛ける。
「そんなに嫌な顔をしないで下さいな、ものを受け取ったらすぐに帰りますから」
チトリーネの声に合わせて獣の腹部にある分厚い扉が開くと、その様子を見ていた義姉妹が言葉を返す。
「別に嫌には思っていないけどね、私たちも呼ぶ手間が省けて助かったよ」
「すぐに持って来ますから、少し待っていて下さい」
2人は住居へと戻ると、先ほどまでそれぞれが手掛けていたものを持って
獣の前へと立った。
そして開いている獣の腹部へと差し出すと、それらは吸い込まれるように中へと
入っていく。
少し経って全てのものを入れ終えた2人を見て、チトリーネは感心の声を上げる。
「さすがは御二方、いつも仕事が早くて助かりますねぇ……でもそんな貴女方が
人間の手によって命を落とす事になんてなったらいたたまれませんよ」
チトリーネの言葉を聞いて、マリーチルが呆れた声で口を開く。
「何縁起でもない事を言っているの、私たちはそんな気高くない最期を迎える
気はないよ」
「私もお二人がそうならないように祈っておりますよ、それじゃあまたよろしく
お願いしますね」
そう言うとチトリーネは獣の身体を伝って軽やかに上まで乗り込むと、彼女を
乗せた機械の魔獣は2人の元へと離れていった。
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