第9話 魔法の鏡
魔女の国には、そこを住処として暮らす魔女たちが作り出した不思議な物が
数多く存在している。
当然それは人間の持ち得ない力で生み出されており、例え精巧な技術を持つ人間であっても作り出せないものばかりである。
その中の1つとして生み出された『魔法の鏡』は、持つ者の姿だけではなく
持ち主が見たいと望む世界を映す力を宿していた。
ある
この
……。
魔女の国・義姉妹の住居。
椅子へと座り、真剣な目つきで鏡を覗き込むマリーチルの姿があった。
その鏡に映るのは彼女自身の姿ではなく、穏やかな表情の人間たちが行き交う
街中の光景。
特に異変の感じられない、見慣れた街の様子であった。
(そうだよね……何も分からないよね……)
諦めたように手鏡を置き、椅子の背に寄り掛かるマリーチル。
そんな彼女の目の前へ静かに置かれたのは、普段から彼女が愛用している
ティーカップであった。
「はいマリーちゃん、お疲れ様」
その聞き慣れた声の方にマリーチルが視線を移すと、そこにいたのはもう1つ
カップを手にしたアズリッテであった。
「ありがとうアズリー!」
マリーチルは目の前に置かれたカップを手に持つと、すぐさま口へと運んだ。
一方のアズリッテも向かいの椅子に座り、合わせるようにカップを口へ運ぶと
至福の表情を浮かべたマリーチルへと問い掛ける。
「さっきからマリーちゃん、ずっと真剣に鏡を覗き込んでいたけど
もしかして……」
マリーチルは持っていたカップをテーブルに置くと、アズリッテへ言葉を返す。
「うん、ジェデトが言っていた本の事が何か分からないかなと思って……
いや、こんな事をした所で何も分からない気はしていたんだけど、頼まれたら
つい探しちゃうよね……」
義姉妹がそんな話していた時、アズリッテの視界にマリーチルが置いた魔法の鏡が目に入った。
魔法の鏡に映されたままとなっていた、ある街の様子。
先ほどまでマリーチルが見ていたその街の光景を見て、アズリッテは目を
奪われる。
(……あれ? この街って……)
まるで吸い込まれるように鏡に映った光景を見つめるアズリッテに対し
マリーチルは疑問の表情で声を掛ける。
「どうしたのアズリー? 何か見えたの?」
「だいぶ景色は変わっているけど間違いない……私、この街に行ったことがあるよ」
アズリッテが驚いた声で答えると、マリーチルは改めて鏡に映った街を見つめる。
「私は初めて見る場所だけど……昔の話だよね?」
「うん、百年以上前の話だね」
どこか懐かしむような表情のアズリッテを見て、マリーチルは提案を
投げ掛ける。
「だったら行ってみようか」
「……!?」
マリーチルの言葉を聞いて、アズリッテは目を丸くする。
「昔に行ったことのある街だったら、アズリーだってその変わった姿を見てみたい
でしょう? 私にとっては初めて見る街だし、それに……」
「そんな場所を鏡が映すなんて、何だか運命を感じない?」
言いながら力強い笑みを浮かべるマリーチルにアズリッテは笑顔を向けると
普段の落ち着いた声で口を開く。
「マリーちゃんの言う通り、私ももう1度行ってみたい」
「……でもその前に、いつも通り仕事を終わらせてからだね」
「うん! そうと決まれば早く終わらせよう!」
アズリッテの言葉にマリーチルがそう答えると、義姉妹は揃って椅子から
立ち上がった。
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