第8話 忠言

 物静かな書庫の中で向き合う3人の魔女。

 するとジェデトが普段の冷静な態度で、義姉妹に向かって声を掛ける。


「あの本に目を通してもらって僕が言いたかったことは、あれが今の君たちにも

起こりうる出来事だということが分かって欲しかっただけだよ」

 それを聞いた2人が複雑な表情で顔を見合わせると、ジェデトの言葉に答えたのは

マリーチルだった。


「私たちの事を心配してくれているのは凄く嬉しいし、自分たちでも自覚は

あるけど、それがガルネッタの言うように叩かれたり焼かれるようなことに

なっても、やっぱり私たちはあの世界を見てみたいかな……さすがに変な事

されるのは嫌だけど」


 マリーチルが話を終えると、ジェデトは穏やかな声で言葉を返す。

「気にしないでくれ、あれで君たちの気が変わると思っていたら始めから魔導書の

件は頼んでいないさ」

「確かに僕も心配はしているけど、恐らく一番君たちの事を心配していたのは

ガルネッタだよ」

 

 ジェデトの言葉に2人は尚も複雑な表情を浮かべると、それぞれの考えを

口にする。

「……あの子、凄く良い子なんだよね」

「……いつだって私たちを心配してくれる優しい人ですからね」


「今回の件は、彼女と君たちの友として忠言だけはしておかなくてはと思っての

事だから、あまり深くは考えないで欲しい」

 表情を変えたままの義姉妹にジェデトはそう口を開くと、再び話を切り出す。


「今日はありがとう2人共、今度このお礼は喜んでさせてもらうよ」

「何だかお礼を言うのは私たちみたいになっちゃったけどね」

「私たちで良ければ、またいつでも呼んで下さい」


 その後、義姉妹とジェデトが別れの挨拶を交わすと、2人はジェデトに

見送られながら書庫の外へと出て行った。


(さて……)

 2人の姿が完全に見えなくなった後、ジェデトは本棚の方へ視線を向けると

その方向へと声を上げる。


「聞こえていたかい? ガルネッタ」

「…………」

 ジェデトの声に応じるように本棚の影から姿を現したのは、赤面させながら

険しい表情を浮かべるガルネッタだった。


「まさか本当に物陰から見る選択をするとは思わなかったよ」

 言いながら静かに笑うジェデトに対し、ガルネッタは鋭い声で言葉を返す。


「私の事……揃って言ってくれたじゃないの……」

「怒らないでくれ、誰も君のことを悪く言っていないさ」


「あと、貴女も貴女よ!」

「……? 僕、何か言ったかな?」


「あの子たちに探しものを頼むなんて、これからの好き放題を促すようなもの

じゃない!」

「……確かにその通りだったね、済まない」


「いや、謝らなくてもいいけど……」

 そう言うとガルネッタは、先ほどの尖った態度とは一変した辛い表情を浮かべる。


「それと……私まで貴方の話を聞いちゃったんだけど、本当に良かったの……?」

「ああ、嫌だったら初めからこんな話はしないさ……見損なっただろう?」


「そんな訳ないでしょう! ジェデトの事がもっと好きになった!」

「……!」

 ガルネッタの力強い言葉にジェデトが驚いた表情を浮かべると、その様子を

見たガルネッタの顔が再び赤く染まる。


「あ……いや! 別にそういう意味じゃないよ!」

「分かっているよ、ありがとう」


 慌てるガルネッタにジェデトが答えると、ガルネッタは動揺した声で

言葉を続ける。

「そ、それにしてもあの2人……あの子たちが自分で言っている程こたえて

無いじゃないの!」


 膨れた顔で声を上げるガルネッタを横目に見ながらジェデトは考える。

(分からせてやると大口を叩いたものだが、逆に僕の方が分からせてもらう事に

なるとはね……良い友たちを持った)

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