第7話 擬装

 ジェデトからの仕事を終えて、再び彼女の前へと姿を現した義姉妹。

 地下の本に記された惨劇によって沈んだ2人の内心とは真逆の明るい声で

ジェデトは2人を迎える。


「ありがとう、助かったよ」

「……ねぇ、ジェデト」

 満悦な表情を浮かべるジェデトに対し、マリーチルは静かに口を開く。


「向こうで地下の部屋を見つけてさ……そっちにも入ったんだけど、入って

良かった……? いや、駄目だったとしても、もう入っちゃったけど……」

 気まずそうな態度のマリーチルに、ジェデトは変わらずの表情で言葉を返す。


「先に話を切り出してくれて良かったよ」

「あれ? 分かっていたの?」


「ああ、君たちの事は番人を通して見ていたからね」

「番人?」


「部屋にそれぞれ魔女の像があっただろう? 僕は彼女たちを番人と呼んでいる」

「あの子たちに何だか妙な存在感があると思ったら、そういうことだったのね」


「だが誤解しないで欲しい、別に君たちのことに不安があって監視していた訳

じゃなく、確認する必要があったんだ」

「……君達があの本に目を通すのかどうかをね」

 そんなジェデトの言葉を聞いたアズリッテが彼女へと問い掛ける。


「初めから私たちにあの本を読ませるために書庫の整理を……?」

「その通りだよ、周りくどい事をして悪かったね」

 そう言うとジェデトは2人へと向き直り、真剣な表情で口を開く。


「それで、あの物語は君たちの目にどう映った?」

「……正直、少し読んだだけでかなり応えたよ」

「辛いものでしたね……」


 苦い顔で答える2人を見て、ジェデトは何処か無理をしたような笑みを

浮かべる。

「そうか……それなら勇気を出して記した甲斐があったよ」

「え? 記したって……」


「あの本は僕が書いたものだよ」

「えぇ!?」

 驚くマリーチルの横で冷静に佇むアズリッテにジェデトは声を掛ける。


「アズリッテ、君は気が付いていたのかい?」

「はい、まさかとは思いましたが……」


 答えるアズリッテの横でマリーチルが感心した声を上げる。

「まるでこの目で見たような生々しい内容だったよ」

「……実際に僕がこの目で見たものだからね」


「……え?」

 その言葉に目を丸くしたマリーチルが慌ててジェデトへと詰め寄る。


「この目で見たって……ジェデトは大丈夫だったの!? 酷いことされ

なかった!?」

「される訳ないさ……あの時の僕は自身を人間の男性として偽っていた

からね……」


「……!」

 揃って驚く2人にジェデトは静かに言葉を続ける。


「……その上、双方の争いを傍観して見ていたんだ……卑怯な奴だろう?」

「そんな事ないよ!」

 突然発したマリーチルの大声にジェデトが驚くと、マリーチルは鋭い目付きで

ジェデトを見つめる。

 

「上手い言葉が見つからないけど……ジェデトは悪くないよ」

「……マリーちゃんの言う通り、ジェデトちゃんまで傷付く必要はないですよ」


「……」

 揃って力強い眼差しを向ける2人を交互に見つめ返すジェデト。

 すると、穏やかな表情で2人に向かって口を開く。


「……ありがとう、2人共」

 和らいだジェデトの様子を見て、義姉妹も安堵の表情を浮かべていると

突然アズリッテは地下で感じた、ある疑問を思い出す。


「あれ? それじゃあ、地下にあった絵画の人って……」

「それも見られていたのか……僕だよ」


「えぇ!? あれジェデトだったの!?」

「当時、仲の良かった友人に描いてもらってね、僕の宝物さ」


 ジェデトの答えを聞いたマリーチルは、はにかみながら彼女へと声を掛ける。

「ごめん! 格好良いなんて言っちゃったよ!」

「え? いや……謝る必要はないさ、ありがとう……」

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