第6話 地下

 長く続く薄暗い階段を、2人の魔女は慎重に下っていく。

 「この下に何があるんだろう?」

 「……もし大変なものだったら、すぐに戻ろうね」


 そんな会話をしながら地下への階段を抜けた2人を待っていたのは

簡素な部屋の光景であった。

 狭い空間の両端に置かれた2つの配置物。

 先ほどいた部屋にあったものとよく似た魔女の像と、古びた本棚である。


 部屋の様子を伺う2人であったが、先にマリーチルが反応を示したのは

魔女の像だった。

「あれ? ここにも置いてある」

 そう言いながらマリーチルが像に駆け寄ると、それを追ってアズリッテも

彼女の傍へと立った。


「もしかして姉妹かな? 何だか私たちみたい」

「確かに上の人に似ているし、そうかもしれないね」

 像の頭部を興味深そうに見つめるマリーチルに、アズリッテは明るい声で

答えると、2人は揃って本棚へと視線を向けた。

 

「あの本棚、どう考えてもこの部屋の主役だよね……」

「うん……」

 2人は静かに本棚へ近寄ると、その様子を確認する。

 赤色の本が一杯に詰められた古い本棚からは、薄暗い部屋の雰囲気も

相まって不気味さを漂わせていた。


 その時、本棚を見上げるアズリッテの目にあるものが留まる。

 それは棚の上に飾られた、中性的な容姿を持つ美しい男性の絵画だった。

 すると、アズリッテの視線に気が付いたマリーチルも同じように絵画へと

視線を向けた。


「うん、格好良いお兄さんだねぇ」

(あれ? この人……)

「それで、この本は何なんだろう……読んでも良いのかな?」


 絵画の男性を凝視していたアズリッテの意識は、マリーチルの言葉によって

棚に収められた本へと戻された。

 血を思わせる赤色の表紙が、2人の心に何処とない危機感を煽っていた。


 少しの間、無言で本棚を見つめていた2人であったが、突然アズリッテがゆっくりと本へ向かって腕を伸ばした。

「え!? 読むのアズリー!?」

「うん……」


 普段なら自分が先に事を起こしているマリーチルにとって、そのアズリッテの行動は驚くべきものあった。

 マリーチルの丸くした瞳に見つめられながら、アズリッテは慎重に本を開く。

 そして、真剣な目つきで本を読み進めるアズリッテであったが、次第にその表情は曇ったものへと変わっていく。


 そんなアズリッテの様子を見たマリーチルが心配そうに問い掛ける。

「大丈夫アズリー? 一体何が書いてあるの?」

「ごめん……自分で読んでもらってもいい……?」

 そう言ってアズリッテは手にしていた本を閉じると、マリーチルへと手渡した。


「……?」

 受け取った本をすぐさま開くマリーチル。

 本に目を通した瞬間、彼女はすぐにアズリッテが浮かべた表情の意味を

理解する。


 本に記されていたのは、魔女と人間による物語。

 しかし、その内容は穏やかなものではなく、それぞれの残虐なる行いの数々が

生々しく綴られていたのであった。

 

「な……なるほど……そういう本だったんだね……」

 マリーチルは青ざめた顔を浮かべながら本を棚へと戻す。


「ね、ねぇ……もしかしてこの話って……」

「……多分、本当にあった事だよ」

 顔を歪ませながら問い掛けるマリーチルに、アズリッテは寂しげな表情を

浮かべながら答えた。


「……」

 本棚を見つめたまま、言葉を失う義姉妹。

 しばらくの間、薄暗い部屋の中に静寂が訪れたが、その静寂を先に破ったのは

マリーチルの方であった。


「こ、ここも少し汚れているみたいだし、綺麗にしようか……」

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