29・告白

「確かに馬鹿馬鹿しくもなるな。ただのゲームの中の世界で、僕は成り上がりを示す数字を作ろうとひたすらに足し算、引き算頑張ってただけな訳か」

 ヴェイグがすぐにそんなふうに言う。

「芸術は数学だって言葉があるんだよ。その事実も数字の組み合わせなんて、むしろそれこそ芸術だね」 

 むしろ楽しそうなアミィ。

「ジジイが妙に無気力なのもしょうがない事だな。そんなんが真実なら」

 シオンははっきりショックを受けていた。

「俺が選ばれなかった訳だ」

 ラッカスも同じような感じだった。

 エリザとシェイジェは何も言わなかったが、2人ともそれなりに暗い顔をしていた。

「しかし師匠、ひとつわからないのですが」

 1人だけ。普段と何1つ変わらないようだったイザベラ。

「私にどうやってその秘密を知らせるつもりだったのですか?」 

「フィリアは俺たちみたいに、何も口伝する暇なく”命の書”の継承を行った場合もちゃんと想定してる。アークスとレイレルが調べた分も含めて、自分までの知識を全部書いた紙を数枚、”命の書”の最初につけてくれてる。後、大した情報はないけど他の継承者何人かも、それぞれが気づいた事とかそこに記録してる」

 ネイサも継承者となってから、自らそこを読んで、全てを知った。

 ちなみに数枚の紙といっても、魔術により同じ部分に思念で切り替えられる文字を、何十字と重ね使っているので、その情報量は本編に負けていないほどにかなり多い。


「私も、1つ聞いていいか?」

 恐る恐るという感じのエリザ。

「何?」

 それが意外な事であるように、不意をつかれ、きょとんとしたようなネイサ。

「死も、単に数字にすぎないのだろう? なら適切な数字を用意すれば」

「理屈では命だって自由自在だ。死を無効化する事も、記憶まで全く同じ生命体を再度作り直す事も出来る、この世界では数字次第なんだ」

 幸か不幸か、”命の書”によるアクセスでは、それは出来ない訳だが。

「そうか」

 顔を伏せるエリザ。同じように思う所があるのか、シオンとラッカスも顔を伏せる。


「みなさん」 

 心配そうに他の全員を順に見ていくイザベラ。

「ネイサは」 

 師匠でなく名前で呼ぶ。彼女は本当は、彼の事を名前で。

「ネイサは私が、そういう事あんまり気にしないから選んだんですか?」

 実際、イザベラにはあまり気にならなかった。

 この世界が単に、ちっぽけな箱の中の数字の羅列だから何だというのか? 正直そんな事考えるの難しいし、つまんないし。

「私が能天気なバカだから、選んだんですか?」 

「イザベラ」 

 笑みを見せるネイサ。

「だからだよ」

「え?」

 何を言ったのかイザベラにも、他の誰にも聞こえなかった。

「いつもいつも、何度考えたって、例え何がどんな存在であっても、そんな事関係なくてさ」

次はちゃんと聞こえた。

「お前の事が好きだからだよ、イザベラ」

「ネイサ」

「この心」

 自身の胸に手を当てるネイサ。

「一緒にいたら楽しい。この気持ちは今、確かにここに存在してるから。例え単にそういう数字の組み合わせにすぎなかったって、やがてこのハコニワと一緒に消えるとしたって」

 ネイサは笑顔で、イザベラは泣きそうな顔。


「熱いな」とラッカス。

「熱いよ。数字じゃなくてな」

 彼も笑顔を見せた。

「全くだ」

 エリザも、そして彼女らにつられるように、今や顔を真っ赤にしたネイサとイザベラ以外の全員が笑う。

「今、確かにここにか。そうかもな、間違いなく確かな真実は、俺たちは存在してる」

 また真剣な顔で言うシオン。


 そう、彼らはそこに存在してる。それだけは確かな真実。絶対に間違いなく。

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