18・作戦

 ハンテス。

 ベースとした古代都市の建築物から、魔術により築かれた空中に浮かぶ建築物まで、様々な景観が堪能できる、ルメリア最大の都市。

 そのハンテスのとある宿の1室。


「それでいよいよディスギアは目の前だが、どうする?」

 剣の手入れをしながらエリザが問う。

「言っとくけど、今さらなんとか穏便に、てのは無理な話だぜ。レグナまでもう奴らに知られてるし。それにニグテグントでのグルックの件」

 そこで少しだけ顔を暗くするシオン。

「明らかに政府は、ネイサ、お前を危険視してる。交渉なんて不可能なくらいに」

「わかってる」

 頷くネイサ。

「作戦がある。ディスギアはセキュリティ上、気づかれずに侵入は不可能だ。その絶対的な探知を逆に利用してやろう」


 ネイサが提案した作戦はこうだった。

 まずはネイサがレグナと共に先攻してディスギアに攻め入り、存分に暴れまわる。そうしてゴーレムやホムンクルスの注意をネイサたちに集めている間に、彼らが開いた道から他の者たちも潜入する。それからグランデでも、魔術師たちの目を他の仲間に向けさせている間に、イザベラを知ってて、かつ身体能力、判断力に優れたエリザがグランデに侵入、イザベラ救出を目指す。

「これが俺たちがとれる最善の策だと思う。イザベラを取り戻した後は、逃げるのか、戦うのか、その時の状況で各自判断してもらうしかないと思う」

 反対する者はいなかった。


 そしてそれから数時間後には、ネイサはレグナに、ディスギアの防壁に、大砲の一撃による風穴を開けさせた。


ーー


 ディスギアの防壁に、レグナの攻撃が与えられるより少しばかり前。

「ヴェイグさん、遅いですね」

「そうだな」 

 イザベラに比べ、さらに不安そうなラッカス。ヴェイグが部屋を出ていってからもう半日。

「俺たちに味方するのを辞めるにしても、続けるにしても、遅い」

 そう、彼ならば、敵になったならなったで、ラッカスたちに対し、もう何らかのアクションを起こしているはず。

「もし」

「あいつが敵になったら、だろ。そうなった時は、ネイサに先攻して奴らと戦うだけさ」

 そして笑みすら見せるラッカス。そんな彼を見て、前に彼が告げた事を思い出すイザベラ。


(「お前と同じさ、俺もあいつに大きな恩があるんだ」)


「恩」

「ん?」

「ラッカスさんが師匠に感じてる恩って?」

 自然と尋ねていた。踏み込んではいけない事かもしれないと、これまでは遠慮していた問い。

 ラッカスは一瞬きょとんとするも、またすぐ、今度は楽しそうというより、思い出を懐かしがっているような笑みを見せる。


「あの日の事」

 それはネイサにとっても、ラッカスにとっても、そしてルイーヤにとっても、まさに特別な日となった。

「あいつが”命の書”を受け継いだ日の事。何か聞いてるか?」

 その問いに、イザベラは無言で首を横に振る。そういえば自分は師がどのような経緯で、”命の書”を受け継いだのかを知らない事を思い出すイザベラ。

 彼の師ルイーヤには、ネイサの他に2人。つまりラッカスと、もう1人、確かサミュエルという弟子がいたはず。つまり継承者として彼らが選ばれてもおかしくなかったはず。

 そしてその通り、まさしくルイーヤは元々サミュエルに”命の書”を継がせようと考えていた。まさしく予定外にネイサが”命の書”を継ぐ事になったあの日までずっと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る