第47話 VS竜牙兵
エイラが指を鳴らす。
次の瞬間、どこからともなく小石が飛んできて、シスターが手にしていたナイフを弾き飛ばした。
「な……っ!?」
「今だ、シズっ!」
「おう!」
相手が怯んだ一瞬の隙を突き、シスターに肉薄。
体の正中、みぞおちを軽く殴打した。
「あ――――」
シスターは短い呻き声を上げて白目を剥いた。
意識を失ったシスターを抱きとめながら、エイラに呼びかける。
「エイラ!」
「神石よ、弾けろっ!」
指示を送らずとも、為すべきことはわかっている。
エイラは再び指を鳴らした。
――――バチバチバチッ!!
暗闇に轟く短い雷鳴。弾ける雷光。
俺たちを取り囲んでいた竜牙兵が雷光に射貫かれる。
「ガガ…………っ!」
竜牙兵は骨をきしませて断末魔をあげると、魔石も残さずに塵と化した。
「
エイラは竜牙兵の最期を見届けると、呪文を唱えて神石を手元に戻した。
アシヴァルは、古代エルフ語で【逆さイチイ】という意味らしい。
神石の正体は、【ルーの神石】と呼ばれる神器だ。
使用者の意思に従い、あらゆる形状の武器に変化させることができる。
エイラが普段使ってる【超弓タスラム】も、神石を変化させたものだ。
壁際に蹴飛ばした弓を神石に戻した後、雷をまとわせて攻撃。
「シズ。シスターの容体は?」
「息はしてる。ケガも軽いみたいだ」
「そいつはよかった。趣味ではないとはいえ、目の前で人の命が奪われるのは目覚めが悪い」
エイラは微笑を浮かべると、シスターを地面に置くように指示を送ってきた。
言われた通りにシスターを横たえると、エイラは羽織っていた外套でシスターの裸を覆い隠した。
エルフが身につける外套は特注品だ。ある程度の精霊術を無効化できる。これでしばらくは瘴気から身を守れるはずだ。
「ようやく戦いに集中できるな。シズ、おまえには何かと借りがある。シスターに言い寄られて鼻の下を伸ばしていた件は黙っててやろう」
「ありがとよ。逆に借りを作っちまったな」
俺はエイラと軽口をたたきながら、シスターを護るように身構える。
「オオォォォォォォ――――ッ」
竜牙兵は倒したが、
祭壇の地下に眠っていた骸骨兵や死霊どもが、次から次へと蘇ってくる。
場を支配していたスプリガンの気配が消えたことで、統率が取れなくなったのだろう。
死霊たちが無秩序に動き始め、生者である俺たちに襲いかかってきた。
「霊場を鎮めないことには、死者の魂は座に還らないようだな」
エイラはそう言うと、手に持っていた神石を黄金の鎌に変化させた。
【アッサルの黄金鎌】と呼ばれる、金の精霊の力が宿った聖なる鎌だ。
「シズ。おまえは村に戻れ。スプリガンは時間稼ぎだと言っていただろう? ヤツの狙いは――」
「クロか!?」
「そういうことだ!」
エイラは迫り来る死霊を黄金鎌で切り伏せながら、精霊術を唱える。
「
エイラは羽根の生えた小人――
次の瞬間、俺の体が宙に浮かぶ。
「ここは私に任せて先に行け、というヤツだ」
「だが……」
「槍使いの少年に同じようなことを言っていたらしいな。つまりはそういうことだ」
エイラはニヤリと口元を吊り上げて笑う。
「日の当たらない場所ではアガートラムの力も存分に奮えまい。足手まといだ。早く失せろ」
「おまえな。もう少し言い方ってものが……」
「他にも理由付けが必要か? なら、それらしい理由を並べてやろう。霊場の乱れを正すのは自然の番人たるエルフの役目だ。趣味ではないがシスターは私が村まで送り届ける。途中で捨てたりしないから安心しろ。それから……」
「わかったわかった。行ってくるよ」
エイラとは長い付き合いだ。
死霊相手に後れを取るようなヤツでもない。任せて平気だろう。
「この戦いが終わったら、クロの頭を好きなだけ撫でていいぞ」
「ハハハ! 俄然やる気が出てきた」
エイラは黄金鎌を振り回して骸骨兵を一閃。
「さあ行け! 仮面の勇者アガート!」
「おうよ!」
俺は頷き、
「
次の瞬間、俺は風になった。
音速と同じスピードで高速移動して、来た道を戻る。
「待ってろよ、クロ! いまパパが助けに行くからなっ!」
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※次回からダイアナ視点になります。
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