第13話 聖拳一撃!


――――ここで変身プロセスを振り返ってみよう。



 俺は左手を天に掲げ、太陽神スクルドの名を叫ぶ。

 すると、東の空から顔を見せた朝陽に祈りが通じた。

 俺の叫びに応じて左手の文様ルーンに太陽神の力が寄せ集まり、光輝く【神衣コンバットスーツ】が瞬間形成。

 わずか0.5秒で全身に自動装着された。


 そう! 俺が仮面の騎士に変身する時間は、わずか0.5秒に過ぎないのだッ――――!



「待たせたな!」


 俺は白銀色の騎士甲冑に身を包み、フェンリルと対峙する。



「■■■■■■■■■■■■――――ッ!!!!」



 もはや自我は残っていないのだろう。

 フェンリルは問答は無用とばかりに、咆哮光線を放ってきた。

 すべてを焼き尽くす必滅の熱光線だ。

 直撃すれば、即死は免れない。

 それなら――――



「正面から迎え撃つ!」



 ――――ガシュン!



 俺が左腕を掲げると、ガントレットのストッパーが外れて装甲が縦にスライドした。

 開いたスリットから、銀色の光羽が漏れ出す。

 羽翅はねの枚数は3枚。


「よくわからないが全弾消費だっ!」


 俺の意志に従い、光の羽翅はねが硝子のような音を立てて粉々に砕け散った。



 ――――キュゥイィィィンンッ!



 モーターのような甲高い音を立て、ガントレットが暴れ出す。

 全身に尋常ではないパワーが宿ったのを肌で感じる。

 これなら――――ッ!



「喰らえ! 銀拳一擲ぎんけんいってきッ! 銀光拳シャイニングブロウッ!!!!」



 頭に浮かんだ呪文コマンドワードを叫び、アガートラムの内側に渦巻く神力を開放。

 迫る咆哮光線に向けて、俺は聖拳突きを放った。

 次の瞬間――――



 ――――ズバシュゥゥゥンッ!



 聖なる銀光と魔の灼光が激突。

 インパクトの瞬間、あまりの衝撃に大地が震えた。

 力は拮抗。互いに譲らない。

 爆音と雷鳴を轟かせながら、相手の力を削り合う。

 だが――――



「俺は一人じゃない…………ッ!」


「シズ――――ッ!」



 ダイアナの叫びが、俺の背中を押してくれた。

 魂を燃やし、ありったけの力をアガートラムに注ぐ。



「貫けぇぇぇぇっ!!!!」

「貫けぇぇぇぇっ!!!!」


 俺とダイアナ。二人の雄叫び。魂の叫び。

 その叫びに呼応するかのように、銀光が輝きを増して――――



 ―――ズシュゥゥゥゥゥンッ!!!!



 俺の放った銀光が呪いの赤光を引き裂いた。

 銀光の奔流が、フェンリルを直撃。

 その巨体を貫いた。



「ォォォォォォ…………」



 フェンリルは断末魔の叫びを上げながら、その身を燃やし尽くし――


 やがて、灰も残さずこの世から消え去った……。



「はぁはぁ……っ。や、やった……のか」


 力を使い果たした俺は、その場に尻餅をつく。

 ガラスが砕けるような音と共に甲冑が消失。

 変身が解除されたようだ。


「いてて…………」


 全身の筋肉が軋みをあげている。

 熱に耐えきれず、肌も大火傷を負っていた。

 どうやら力を制御しきれなかったようだ。

 要修行、といったところだろう。


「シズっ!」


 地面に尻餅をついて呼吸を整えていると、ダイアナが抱きついてきた。

 ボロボロになった俺の体を確認して、目尻に涙を溜めている。


「ごめんね、ごめんねっ。痛かったよね。ワタシのせいで無茶させて。お父様たちみたいにいなくなったら、ワタシ、ワタシ……」


「ダイアナ…………」


 俺は歯を食いしばって痛みをこらえ、目に涙を溜めて謝るダイアナの頭を撫でた。

 今度は優しく。ダイアナを安心させるように。


「俺はどこにも行かないよ。約束したろ。ダイアナを必ず護るってな」


「シズ…………」


「一緒に戦ってくれてあんがとな。ダイアナが背中を押してくれたおかげでアイツに勝てた」


「ええ……ええ、もちろんよ。だってワタシは……」


「天才術士のダイアナ様、だもんな?」


「うん!」


 ダイアナは涙を止めて、満面の笑みを浮かべた。

 ああ。そうだ。この笑顔が見たくて、俺は――


「やっぱりダイアナは笑ってる方が可愛いな」


「かわっ!? かわわわわわっ!」


「ん……? 急に赤くなってどうした? 術の使いすぎか?」


 俺が笑いかけると、ダイアナは耳まで赤くなってしまった。


「熱があるんじゃないか?」


 俺はダイアナに顔を近づけ、額を重ねて体温を調べる。

 すると、ダイアナはますます顔を紅潮させて――


「だだだだダメよっ! そういうエッティなのは魔王を倒したあとで!」


「エッティってなんだ……」


「とにかく成人するまではダメなの!」


「おわっ!?」


 ダイアナは顔を赤くしたまま、俺の体を突き飛ばしてきた。

 力を使いすぎたのは俺の方だった。

 よろけた体を支えきれず、顔面から地面に突っ伏してしまう。


「きゃあ!? ごめんなさい、シズ。衛生兵、衛生兵~~~!」


「あはは。締まらないな……」


 何はともあれ、こうして俺とダイアナの初陣は白星で幕を閉じたのだった。

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